5st Word-こ- | ナノ


 恋人は元旦にやってくる
※宮城庸×高槻忍


「忍ちん、コレは一体…」

「おせちだ。」


「俺にはキャベツの
 詰め合わせに見えるんですが。」

「…」



大晦日は戻ってくるようにと学長に言われて
実家に戻っていた忍ちんが

元旦の朝、五段のお重を持ってやってきました。


「ご、五段全部味が違うからな!
 一段目は塩コショウで、二段目はチリソースで…」

「いや、うん…」


「とにかく喰え!」


今年も恋人からのキャベツ攻めは
やみそうにありません。





「そういえば父さんがよろしく言っといてくれって。」

「あぁ。」


忍は一時期、俺の部屋の隣を借りていたけれど
家賃の問題を建前として、
少し前から俺の部屋に一緒に住むようになった。


まさか俺達が恋人関係だと思ってもいない
忍の父親こと俺の上司でもある学部長は

俺が忍を心配して面倒をみていると思いこんで
時折感謝の言葉を口にする。


それを聞くたびに心苦しい気持ちになるのは
どうしようもない。

俺はその信頼を裏切っているのだから。


「それと…姉貴も。よろしくって。」


少し考え込んでいた俺に、忍が沈んだ声で続けた。
ほんとにこの恋人は感情が分かりやすい。


「お前、まだ気にしてんのか?」

「べ、別にしてねぇよ!ただ…姉貴のほうは
 未練タラタラって感じで見ててうぜえし…

 おせちだって、自分が作ったの
 宮城にもってけとか言い出すし。」

「あぁ、それで対抗してあれを作ってきたのか。」


そういってキッチンにある五重の箱を指差すと
たちまち忍の顔はまっかに染まりあがった。


「対抗なんかしてねぇ!大体先に宮城につくろうって
 思いついたの俺だし!だから対抗じゃねぇ!」

「うわ、落ち着けって!」


照れ隠しなのかクッションを投げつけてくる
相変わらずテロリスト気質の忍を宥めようとする。

しかし、意外なことに俺が宥める前に
攻撃の手は止んだ。


「あのさ…」

「ん?」

「やっぱり普通のおせちとかがよかった?」


投げられることのなかったクッションを
抱え込んだまま忍はそんなことを言う。


「は?」

「…姉貴のおせち、うまそうだったし。
 俺のキャベツしかはいってねぇし。」

「はは。」


確かにあの緑まみれのおせちと
通常のおせちを比べれば誰だって普通を選ぶだろう。

けれど、それはあくまで一般的な結論だ。


「…あれ、やっぱ食わなくていい。
 スーパーとか行って普通の買ってくるし。」

「いいよ。」


立ち上がって出て行こうとする忍の手を
掴んで引き止めた。


「離せって。無理すんなよ!」

「無理じゃない。」


不安げに瞳を揺らす忍をそのまま抱きしめて
ぎゅっと力をこめてやる。


「お前の気持ちが嬉しいから。」


たとえキャベツだらけでも
恋人の忍が作ってくれたということが
俺にとっては重要事項。


「ほんと?」

「嘘ついてどうすんだよ。」

「…うん。」


腕の中ですっかり大人しくなった
恋人に愛しさがこみあげる。


「ほら、いつまでもしょげてんなよ。
 初詣も行くんだろ。」

「あ…」


思い出したように顔を上げて
嬉しそうな表情を浮かべる。

そんな顔をするからおじさんは
君にメロメロになってしまう訳ですよ。



「じゃあ支度しろ。今の時間なら
 まだ混雑もしてないだろ。」

「お、おう!」


忍は頷いて脱いであったコートを慌てて羽織る。
俺も部屋に戻ってクローゼットからコートを取り出した。



「そういや、お願い事決めていかないとな。」

「だっせ。おっさんのくせに神頼みとか。」

「忍チン…新年早々辛辣すぎませんか。
 いいだろ、おじさんが神頼みしたって。」

「じゃあどんなお願いするか教えろ。」

「ばーか、願い事はばらしたら叶わないんだよ。」


そう言うと、余計知りたくなったのか
好奇心がその目にありありと浮かび上がってくる。


「どうせかなわねぇんだから教えろ。」

「なに、その無茶な言い分。」

「いいだろ。さっさと吐け。」


腰に手を当てて偉そうに尋ねてくる忍に
いたずらを思いつく。


「わかった。言うよ。ただこれが叶わないと
 ほんとに困るんだけどなぁ。」

「な、なんだよ。」

「忍との事をお願いするつもりだったのになぁ。
 仕方ない、実は…「言わなくていい!!!」


言いかけた俺に、忍はすごい勢いでまったをかけてきた。


「言うな!いいな!さっさと行くぞ!」


さっきまでの知りたがりはどこへ行ったのか。
ずんずんと先に玄関まで行ってしまった忍に
笑みを零してしまう。



「俺の願いは…ずっとお前の隣にいたい、だ。」


聞こえてしまって叶わないと困るので
俺はちいさな声でそっと呟いた。


*END*

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