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 てんてーはお仕事中



拝啓 兄チャン。

今回もまた、あの日がやってきました。




「くぉらぁあ!うさみぃーっ!!
 原稿はまだかぁああ!!!!!」

「書けないものは書けん。」


「書けないで通れば担当はいらんのじゃ!
 今書け!すぐ書けえええ!!」

「お前最近ストレス溜めすぎじゃないのか?
 よければいいカウンセラーを紹介してやろう。」


「カウンセラーはいらないから原稿よこせええ!!」

「やれやれ。キレやすい担当には困ったもんだな。
 なぁ、美咲?」

「俺に振るなよ。」



あの日というのは、俺の居候先の大家であり
一応…恋人とかそんな感じの宇佐美秋彦大てんてーこと
ウサギさんの原稿の締め切り…を2、3日過ぎた日のこと。


大抵この時期になると、ウサギさんの担当である
美人担当編集(腐傾向有)の相川さんがマンションにやってきて
このような攻防戦を繰り広げることになる。


ウサギさんが毎回、計画的に仕事をこなせば
こんなことにはならないと思うんだけど、

なぜかてんてーは余裕がないときも
ふざけたこと(主に俺にちょっかいをかける)をして
結局、締め切りを破って相川さんに怒鳴られる。



「お願い!美咲君からも言ってやって!
 この大馬鹿に仕事するようにって!」

「大馬鹿とはなんだ。そうだ、美咲。
 これからデートに行こう。この間行きたがってた
 映画が明日で終わりだっただろう?」



そしてそのしわ寄せは大概、俺にまわってくる。



「バカ言ってないで仕事しなよ。
 このままじゃ相川さんマジでストレス死するし。」


どす黒いオーラを纏って今にも幽体離脱しそうな相川さんを
見かねて、俺がウサギさんに注意する。


「お前まで俺をバカ呼ばわりか。」

「いーからさっさと仕事すれ。
 俺いつまでもかまってらんないからね。これからバイトだし。」

「美咲、一般的には彼氏が仕事で息詰まった時に
 恋人はそれを優しく励まし、いろんなご奉仕をするという決まりが…」

「あるかそんなもん!!」


時々、ウサギさんは一般庶民の情報を何で仕入れているのか
本気で怪しい発言をするときがある。

子供よろしく唇を尖らせているウサギさんは
ちょっと可愛いかななんて思ってみないでもないが
今は甘やかしているタイミングではない。



「よし、わかりました。」


俺が説得を諦めて、さっさとバイトにいく支度をしていると
相川さんが不意に立ち上がった。


「美咲君。」

「は、はい?」


言い知れぬ迫力が立ち込めている相川さんに俺はちょっと
ビビりながら返事をする。


「私と映画デートに行きましょう。」

「へ?」

「は?」


唐突な発言に、俺はびっくりしてきょとんとした声を。
ウサギさんは苛立ちMAXな声をあげる。


「先生が原稿を仕上げられないせいで美咲君が見たい映画
 見られないなんて可哀想ですもんね。
 だから先生が明日までに原稿を仕上げなければ
 私が美咲君と明日映画デートに行きます。」

「何を勝手なことを…」


不機嫌を隠そうともしないウサギさんも怖いけど…


「いいよね?美咲君?」


目の下に濃いクマがある美人の壮絶な微笑みに
俺は打ち勝てる術もなく…


「は、はい。」


思わず頷いてしまった。

まぁ、だいたいにして締め切りやぶってるウサギさんのが悪いし、
相川さんも映画とか見に行けば少しは気分が切り替わるだろう。

これ以上、この争いに巻き込まれるのはごめんだし。



「美咲…」

了承した俺をウサギさんが睨みつけてくる。


「今回は締め切り破ってるウサギさんのほうが悪いし。
 そんなに嫌なら頑張って仕事仕上げなよ。あ、もう出ないと…」


気がつけば、そろそろ家を出ないと
丸川のバイトに間に合わない時間だった。


「じゃあ私も帰りますから。美咲君を盗られたくなかったら
 しっかりお仕事してくださいね。いこ、美咲君。」

「あ、はい。ウサギさん、お昼はチンして食べて。
 じゃあ行って来ます。」


案の定、返事はなかったけどこれ以上待てなかったので
俺は相川さんと一緒にマンションを出た。





「我ながらいいアイデアだったわー。」

丸川に向かいながら相川さんが満足そうに呟く。


「でも、まだかなり量残ってるんですよね?
 明日までに仕上がるのかな。」

「先生はやるときはやるから。
 美咲君のためならきっと明日までにあげるわ。」

「はぁ…」


あまり無理をさせたくはないけど、ウサギさんが悪いしな。

そんな釈然としない想いを抱えつつ、
丸川に到着した俺はバイトに専念することにした。






「ただいまー。」


バイトが終わって、夕飯の買出しをして戻ってくると
家の中は静まり返っていた。


「まさか逃亡してないだろうな。」


ウサギさんは締め切り破ると逃走するくせがあるから
もしかしたら原稿ほったらかして逃げてるかも。


「ありえなくもない…ん?」


確認しようとリビングまで行ったところで、
テーブルの上に紙を見つける。



【こもるから夕飯はいらん。】



そんな短い文章のメモが置かれていた。
そっと2階の仕事部屋を見つめる。



「あれだけ書けないって言ってたくせにさ…」


それでも書く気になったのはやっぱり…
俺と相川さんが出かけるのが嫌だから?

俺を相川さんに盗られたくないから?



そう思うと、じんわりと頬が熱くなる。



締め切りの度に自分がダシに使われるのは嫌だけど…
でも…不謹慎だけど…ちょっと嬉しい。


映画だってほんとはウサギさんと行きたかったし。


…相川さんには悪いけど、やっぱり明日までに原稿が
あがらなくても映画に行くのはやめよう。


そう決意して、俺は夕飯作りに取り掛かった。





夕飯をすませて、風呂にも入って
俺は自分の部屋でベッドに転がっていた。


でもなんとなく眠ることが出来なくて
ゴロゴロと無駄に寝返りをうつ。



その時、不意にガチャリとドアの開く音がした。
ウサギさんがコーヒーでも淹れにでたんだろうか。


なんとなく、じっとしてられなくて
俺はトイレを装って部屋を出ることにした。




「うわ…」


開口一番。俺は変な声を漏らしてしまう。


キッチンでコーヒーを入れているのは、
何かの手違いで動いている死体だった。

手元も怪しくおぼつかない。



「う、ウサギさん。コーヒーなら俺淹れるから。」

「み…さき…」


いきなり俺が現れた事に死体、もといウサギさんは
すごくローテンションながらも少し驚いている。


「とりあえず座ってなよ。そんな状態で
 熱いお湯なんか触らせられねーし。」

「い、や…すぐ…戻って…書かないと…」


ふらふらしてるくせに、立ったままそこを
動こうとしないウサギさんに、俺はため息をついて話す。



「あのさ。もし原稿間に合わなくても
 俺、相川さんと映画行ったりしないからさ。」

「…」

「あの時はちょっと相川さんの迫力に負けたけど、
 ほら、なんつーか。まぁ…あれだよ。」


言いたい言葉が照れくさくてなかなか出てこない。


「俺は…この映画、ウサギさんと行きたかったから。
 他の人と行っても意味ねぇっつーか。だからさ。」


そこまで言って、ウサギさんを見つめる。
ひどいクマ。普段は整っているのに見るも無残なボロボロの姿。


「あんまり無理すんなよ。
 相川さんにはちゃんと頑張って書いてたって
 俺からも言ってあげるからさ。」


恋人なら、ここで励ましのキス…とかしてあげるのが
いいんだろうけど…俺にはそんなことできないから…


精一杯背伸びして、ウサギさんの頭を撫でてやる。


締め切り破ったウサギさんが悪いけど。
相川さんは可哀想だけど。

やっぱり、俺はウサギさんのこんな姿は見てて辛いから。



「美咲…」


さっきより幾分かはっきりした声が返ってきて
その目がちょっとだけ穏やかになる。


「ほら、コーヒーはいったよ。」

「ありがとう。」


そう言うと、俺からカップを受け取って
ふらふらと仕事部屋へ戻っていく。


これであんまり無茶はしないだろう。
そう思うと安心して、睡魔が襲ってきた。


俺も自分の部屋に戻ると、一気にベッドに崩れ落ちた。





翌日。甲高い目覚ましの音で目覚めた俺は
ぐーっと体を伸ばしてベッドから降りる。


「ん?」

服を着替えていると、下からなにやら話し声が聞こえた。


「げ。相川さんもう来てんのかな。」


昨日ウサギさんに、相川さんにちゃんと言ってやるとか
一応言っちゃったし。はやく言いに行って
ついでに映画の話も断らないと。


手早く服に袖を通して、俺は自室から飛び出す。



「あの!!相川さん!!」


階段を駆け下りながら、相川さんを呼ぶと
相変わらずやつれた顔がこちらを振り返った。


「あ、美咲君。おはよ。」

「おはようございます!えっとウサギさんの原稿なんですけど…」


「あぁ、それなら今もらったから。
 ごめんね、すぐ印刷所駆け込むから話してる時間なくて。
 あ、これ。プレゼント。」

「へ?もらった?プレゼント?」


相川さんの言葉の意味がわからず、手渡されたものを
とりあえず受け取ると相川さんは猛ダッシュで玄関から飛び出していった。



「どういうことだ?」


首をかしげながら手渡されたものに視線を落とす。


「あ、映画のチケット。」


それは俺が見たい映画のチケットだった。しかも2枚。
ってことはやっぱり原稿間に合ってないんじゃ…

そこまで考えてふとソファーに目をやると
撃沈したように眠っているウサギさんがいた。

俺行かないっていったから無理しないと思ってたのに。


「それ…今日の夕方…行こう。」

「え?」


目を閉じたままのウサギさんが口だけ開く。


「原稿…終わったから…」

「ウサギさん…無理すんなっていったのに。
 俺、相川さんと行かないって言ったろ?」

「美咲が…俺と行きたかったって言ったから。」



ふわりとしたその言葉に、ぶわっと顔が赤くなる。

ってことは俺と映画に行きたいから
原稿がんばってくれたって…ことだよな?

こんなにボロボロになるまで…



「ついでに…夕飯、外でたべよ、か…」

「っ…いいから、とりあえず今は寝ろよ!」



恥ずかしくて照れくさくてむずがゆくてたまらない。



「うん…美咲。」

「なに。」


「昨日みたいに…して。」

「は?なんだよ昨日みたいって。」

「頭…なでて。」

「なっ!?」


ソファーで手招きしながら俺を呼ぶウサギさん。
いつもなら絶対行ってやるもんかって思うんだけど…


なんだか…ちょっと嬉しくなってる俺は
ちょっとだけ気まぐれを起こしてウサギさんのそばにいく。


「頑張ったご褒美ちょーだい。」

「いっとくけど、てんてー。
 締め切りやぶってんだかんね。ほんとなら
 ご褒美とかねーんだし。」

「うん。」


そういいつつ、俺はそっぽ向いたまま
その少しぼさついた頭を撫でてやった。


「まったく、いい大人が頭撫でられてご褒美とか
 恥ずかしいっつーの。」

「うん。」


それでも、ウサギさんの幸せそうな声に
俺も…どうしようもないくらい幸せな気持ちになるんだ。





「ところで…何の映画?」

「宇宙クマ戦争。監督スペルベアーグ。」

「いいな、それ。」




*END*
110715 脱稿

【後書き】

綺羅星さんからお借りした純ロマお題3号。

甘えん坊ウサギさん最高(*´Д`)!!

ちょっとお題からずれた気がせんでもないが
なんとなく書きたいことは書けた気がする。

ポイントは美咲のウサギさんナデナデvvv
結局ウサギさんには甘い美咲に悶える(*´Д`)!





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