01.世界の色が変わった日 あの日を言葉にするとしたら…そう 『世界の色が変わった日』だ。 俺の今までの人生を180度ひっくり返すような 奇跡が起こった日。 たった1人…好きだと思える人に出会った日。 白黒で埋もれたままだった俺の世界は、 まるで少女マンガのように色鮮やかに色づいた。 「木佐さん、何してるんですか?」 もうすぐ今年が終わるってことで ぱらぱらと手帳をめくっていた俺に 学校の課題とやらをしていた雪名が話しかけてきた。 「んー、今年を振り返ってる。」 「まだ早くありません?」 「年取ると月日の流れが速いんだよ。」 「またそんなこといって。」 これは冗談なんかじゃない。 雪名と俺とでは時間の流れの体感がだいぶ違うと思う。 いつかそれが歪みになるんじゃないか、 なんて思ったりもするけど、 そんな時、雪名は決まって察したように 俺の不安を拭い去ろうとしてくれる。 「木佐さん、俺だって月日の流れをすごく早く感じますよ?」 「嘘つけ。」 「嘘じゃありません。だって、木佐さんとこうして 過ごす時間はあまりにもはやく流れ過ぎて…」 そういうと、雪名はそっと俺の唇にキスをして 困ったように笑う。 「もっとゆっくり流れればいいのにって思うんです。」 「…んだよ、それ。」 「きっと木佐さんの3倍は俺のほうが はやく時間が流れてると思うんですよね。」 「あほか。そんなの…」 あの日からずっと。 雪名と過ごす時間はびっくりするほど早く過ぎて 足りなくて足りなくて…苦しくなる。 別れの時間が永遠にこなければいいと思うのに 秒針は5倍速くらいで回転する。 「俺は5倍くらい速く流れてるっての。」 「ええ!じゃあ俺10倍です!」 「なに張り合ってんだよ。」 真剣な顔をして俺に張り合ってくる雪名の顔を見れば 一瞬、年齢とか、月日の流れとかどうでもよくなってしまう 案外お手軽な自分がいて。 「お前が俺に勝とうなんて10年早い。」 「いいえ!木佐さんを好きな気持ちなら 木佐さんにだって負けませんから!」 自信満々の目の前の王子様は 高らかに宣誓すると、ゆっくりと覆いかぶさってくる。 「木佐さんが認めないなら… 認めるまで俺の気持ちの大きさ、分からせてあげます。」 「こら、こんなとこで…お前大体課題の途中だろ?」 「課題より、今は木佐さんに気持ちを示すほうが 重大事項なんです。」 至近距離でそんなことを囁かれたら、 そうなのかな、なんて流される。 雪名の気持ち、分からせてほしいなんて 30のおっさんが、 まるで女子高生みたいな思考をしてしまうんだ。 「雪名…」 「はい。」 「じゃあ判定してやる。お前の気持ち。」 「…覚悟してくださいね?木佐さん。」 こうして俺の世界は今日も雪名の色に染められて 大切な1日として心の中に記されていく。 *END* 111202 更新 [戻る] |