Re-Torichia-1_7 | ナノ


 Unequalled Lover[7]
※オリキャラが登場します。


一度、深呼吸をしてから
思いきり目の前のドアを開いた。


都内の高級マンション、
その中の1室の扉を開いて俺が見たのは

見覚えのない人間がスーツ姿の男に馬乗りになって
首を絞めている光景だった。


そしてそのスーツ姿は
見間違うはずもない…トリだった。



「何してんだお前!!!!」


何がどうなっているのかなんて
俺にはわからなかった。


ただ、2か月前に届いた俺の私物。

それに貼ってあった伝票を美濃さん達が調べてくれて
それを送ったのがトリじゃないことが分かった。

送料の請求先はとある会社。
そこから、トリのマンションを解約し
違約金を支払ったのも同じ会社の社長であることが分かった。

そして、最近その社長が”ハトリ”という
新しい秘書を雇ったことも…


だから俺はここに来た。
その社長の住む高級マンションに。

本来入れるはずなんてないんだけど
美濃さんが渡してくれた鍵を使えばあっさり入る事が出来た。


そして入った先で起きていた出来事。


細かい理由なんてわからない、知らない。
けど、一目散に走って、トリの上にいる男を突き飛ばした。



「っ!!」

「げほっ…、ぅ…」

「トリ!!」


男の手が離れ、トリが苦しそうにむせる。
言いたいことは大量にある。

けれど、それよりも…




「ちあ、き…!?」


俺はトリに抱きついた。
きつく、もう絶対離さないと意思表示するように。
その胸に顔をうずめて。



「お前…なんで…ここに…」


トリの驚いた声が耳に届いてくる。
2か月ぶりに聞く声が…俺の思考をめちゃくちゃにする。



「バカトリ!!!!!!
 バカ!!アホ!!!人でなし!!!」

「千秋…」


めちゃくちゃに叫んだ。
理性的に話そうとか考えてたのに…

トリの顔を見て、声を聞いたら、
まともでなんていられなかった。


「うっ…く…ぅ…」

泣きじゃくる俺に、トリの腕が回されようとした瞬間。
鋭い声が飛んできた。



「トリ!!」

途端、トリの体がこわばり、俺の体を離した。


「なん、で…」

「なんでじゃないよ。お前ふられたくせに
 何ノコノコこんなとこまで来てる訳?
 トリのストーカー?気持ち悪。」

「なっ!?」


俺が突き飛ばした男が、忌々しいといった目で
こっちを見ながら告げてくる。


「トリはもう俺のものなの。そうだろ、トリ?」

「……あぁ。」


トリは俯いたままそう答えた。
その返答に男は満足そうに笑う。


「ほらな。わかったらさっさと帰れば?
 元恋人さん。」


俺を追い払うような仕草を見せる男にいら立ちが募る。
けれど、今俺が話すべきはこいつじゃない。



「トリ。ちゃんと説明しろ。」

「…しただろ、俺はお前のお守りに疲れたって。」

「そんなこと、信じると思ったのか。」


身体が震えそうになるのを必死で抑える。
頑張るって決めたんだ。信じるって決めたんだ。


「俺はお前と29年一緒にいるんだ!
 その俺にあんな下手な嘘が通用すると思うなっ!!」


怒鳴りつける俺に、トリの目が丸くなる。


「確かに、俺は愛想つかされるようなことばっかりしてきた。
 締切は守らないし、日常生活はルーズだし。」


自分で言っていて情けなくなるけど、
今はそんなことを言っている場合でもない。


「でも、トリはそんな理由で俺を捨てたりしない。」

「自意識過剰だろ!!」


男が横から叫んでくるけど、無視する。


「俺は…信じてるから。トリがくれた言葉。
 ずっと俺を想ってくれてた事、苦しんできた事。
 庇護欲や友情の延長なんかじゃなかったって。」

「千秋…」


トリが…泣きそうな顔になった。
その顔で確信する。


「あんたがなんて言ってトリを脅したのか知らないけど
 トリは返してもらうからな!」


トリの前に立って、
男のほうに向きなおって、俺は言い放った。



「千秋、それは駄目だ。俺は…」


後ろからトリの声が聞こえる。
けれど、誰に何を言われたって譲らない。


俺は…俺は…


「俺はトリが好きだから!トリが俺を想ってくれた期間より
 ずっとずっと短いけど…それでも!
 多分誰にも負けないくらいトリが好きなんだっ!」


人生で一番勇気を振り絞った。
きっと、漫画家になるって決めた時よりも。



「…じゃあ捨てられるのか?」



叫び過ぎて肩で息をする俺に、男は告げてきた。
薄暗い感情の灯った笑みを浮かべながら。


「は?」

「もし、トリがお前のところに帰るなら
 俺は吉川千春の正体、そしてお前たちが男同士で
 付き合ってることを公表する。

 そしたらお前の売れっ子漫画家としての人生は終わりだ!
 それでもトリをとるのか?」



漫画家としての自分を…捨てる?
突きつけられた言葉が頭の中を埋め尽くした。


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