Unequalled Lover[3] ※オリキャラが登場します。完全に思考が停止していた。 今、自分の身に起きたことがわからない。 なんで、なんでこんなことになった? 自分の頬を流れ落ちるとめどない涙の理由が いつまでたっても理解できない。 どうして、どうして、どうして、どうして、 どうして、どうして、どうして、どうして… そればかりがグルグルと頭の中を 渦巻いて、離れてくれない。 考えなきゃいけないのに、 溢れる涙にすべて流されてしまう。 トリと…別れる?俺が? トリがいなくなる?俺のそばから? トリは言った。 『もう疲れたんだ。 お前の担当も、母親代わりも。』 それなら理由は俺が締め切りを破り、 私生活でも自立しないからってことになる。 でもだからって…どうしてこんないきなり しかも一方的に別れを告げられることになる? それならもっと早く言ってくれれば俺だって… そこまで考えて愕然と肩を落とす。 トリは言ってたじゃないか。ずっと。 締め切りを守れ、自己管理をしろ、って。 それなのに、どちらも守れず トリには迷惑ばっかりかけてきた。 「…俺のせい。」 情けない自分の声に…また涙が出た。 トリの気持ちを知ってからも 甘え続けていた俺に、遂にトリが愛想を尽かした。 わかっていたはずだった。 わかっていたけど、止められなかった。 トリが与えてくれる優しさがあまりにも 心地よくて…依存することしかできなかった。 腰が抜ける。 その場に崩れ落ちて、うずくまる。 世界でひとりぼっちになった気分だった。 これから俺はどうすればいいんだろう。 トリがいなくなった世界。 それを受け入れることが出来るのか… 今の俺にはそれを考えることすらできなかった。 *** 「千秋っ、おい千秋!」 激しく身体を揺さぶられて覚醒する。 そして呼んでしまう。 「トリ!?」 「…悪かったな、羽鳥じゃなくて。」 「あ…優…ご、めん…」 目の前には複雑な表情をした優がいた。 「いいけど…ってか何その酷い顔。 それに玄関で寝てるとか。 …何かあったのか千秋。」 「っ…」 尋ねられてしまえば、また涙があふれ出た。 俺の泣き顔を見て驚いた優は そっと俺を支えてリビングまで連れて行ってくれた。 ソファーに腰かけて、昨日の出来事を優に話す。 途中、辛くて何度もしゃくりあげたけど 優は黙って聞いてくれた。 そしてすべてを話し終えた後、おもむろに優が立ち上がった。 「優…?」 「丸川、行ってくる。」 「え…」 「あいつ…ぶっ殺してくる。」 「!?」 気付けば優の手は真っ白になるほど 強く握りしめられていた。 「俺が…俺がどんな想いで…千秋を諦めたか… 全然わかってねぇじゃねぇか!! あいつの千秋を想う気持ちにっ… 千秋があいつを好きな気持ちに…勝てないって そう思ったから諦めたんだろうがっ!!!」 優が叫ぶ。全身から怒りをたぎらせて。 「勘違いだと…?庇護欲だと? 今更…ふざけんなよっ!!!! お前の千秋への想いってそんなもんだったのかよ! そんなもんで俺の想い潰したのかよ! 千秋を傷つけたのかよ!」 でもその叫びを聞いて唐突に思った。 あぁ、違うって。 トリの昨日の言葉は、嘘だって。 都合のいい解釈と言われるかもしれない。 振られた男の惨めな言い訳と言われるかもしれない。 けれど、違う。 俺は誰より、羽鳥芳雪という人間の身近にいたはずだ。 産まれてからずっと… 「優、待って。」 優の腕を掴んで、出ていこうとするのを止める。 「離せ千秋っ…あいつ、許さねぇ!!」 「違うんだ優。」 「何が違うんだよ!!」 「昨日のはきっと…何か理由がある。」 そう、トリがあんなことを言い出したのは 何か理由があるはずなんだ。 「お前…バカか!?こんなことされて… まだアイツのこと信じるのか!?」 「信じるんじゃない。知ってるんだ。」 昨日からさっきまでの心の乱れが嘘みたいに ひいていくのを感じる。 そう、知ってるんだ俺は。 トリという人間を。 例え、俺に愛想を尽かしたとしても あんな風に俺を捨てるようなことは絶対しない。 「知ってるって…お前な。」 「じゃあ優は本当にトリが俺に対してそんなことすると思う? 今、優が言ってくれたから気付けた。 トリが俺に向けてくれていた想いは… 勘違いや庇護欲なんかじゃ、絶対にない。」 「千秋…」 「優は、トリの気持ち認めてくれたから 諦めるって言ってくれたんだよな。」 「…」 そこまで言うと、優はぼすっとソファーに座った。 「ありがとう。これは俺が決着をつけるから。 それで、どうしても納得できない理由なら…俺がトリをぶん殴る。」 「…殴った後写メとっとけよ。」 「え?」 「その写メでビール、飲もうぜ。」 「おう。」 やっと表情を緩めてくれた優に笑い返す。 ありがとう、やっぱりお前は最高の友達だよ。 ←2 4→ [戻る] |