高野病が蔓延しています[2] これは不可抗力だ。 酔ってるから、だから。 「ひっく…ぐすっ…」 「あー、律っちゃん泣かないでー。」 木佐さんが俺をぎゅうぎゅう抱きしめてくる。 でもそんなんじゃ許さない。 みんな揃って俺を騙してたなんて。 数分前。 訳のわからないもやもやを打ち消すために どんどんビールを煽っていた俺は 何をとち狂ったか、先輩様御一行に大声で怒鳴った。 「いい加減にしてください! いつまで高野さんにベタベタしてるんですか! 高野さんが好きなのは俺なんですから!」 …こんな感じで。 あぁ、笑えばいい。俺の愚かさを誰か笑ってくれ。 そして、それを聞いた瞬間。 全員の顔が笑顔になって、こう言ったのだ。 「ドッキリ成功」と。 事の顛末はこうだ。 少し前、偶然高野さんに俺がセクハラを受けている 瞬間を木佐さんが目撃。 それでも十分、死ねそうなんだけど それを木佐さんは羽鳥さんと美濃さんに報告。 3人は高野さんを問い詰め、 高野さんはあっさりと白状し、 ついでに俺が素直にならないと逆相談する始末。 そこでドッキリを仕掛けて、 俺以外のエメ編メンバーが高野さんにべたべたして 俺にヤキモチを妬かせようという作戦を決行。 見事、俺はひっかかり大声で叫んでTHEEND。 ちなみに休憩所で噂をしていたのも 木佐さんと美濃さんが声色をかえていたことが判明。 ショックを受けた俺は、 哀れ泣き崩れてしまったという訳だ。 「そんなに俺たちが高野さんとベタベタするのが 辛かったのか?」 「ぐすっ…ちがいま、すよ…」 「否定すんなよ。」 羽鳥さんの多少気遣わしげな声とは違い、 誰かさんは傲慢な態度でそう言い放つ。 元をたどれば…全部、全部こいつが…! 「もう帰りますっ!」 「ええ!?律っちゃん、その状態じゃ無理だって。」 立ち上がったものの、壁にゴンッと頭をぶつけた俺は へにゃへにゃと座り込んでしまう。 「いいんです!…ぐすっ。俺はもう誰も信じない… 信じるもんか…」 「ごめんって。ね、律っちゃん。」 「謝るから危ない真似はやめろ。」 「そうだよ、小野寺君。せめてタクシー呼ぶから。」 声をかける先輩方のありがたいお言葉に 俺は耳をふさぐ。もう1秒だってここに居たくない。 すると、いきなり体がふわりと浮きあがった。 「うわぁ!」 「うるせぇ、じたばたするな。落とすぞ。」 次に目に入ったのは見慣れた背中。 担ぎ上げられていると気付いたのは数秒後。 「なにしてんですかあんた。」 「そのままじゃ帰れないだろ。このまま連れて帰る。」 「きゃー!高野さんってばかっこいい!」 「男だねー。」 「やだ!おろせ!この横暴へんしゅーちょー!」 「じゃあ、あとはよろしく。」 「わかりました。」 頭が混乱しているうちに、俺はいつのまにか 高野さんの自宅へと連れ込まれていた。 「帰らしてください!」 「だーめ。あんなこと言われて帰す訳にいかない。」 「だからあれは…っ」 反論したけれど出来ない。 だってあの時の俺の発言はまるっきり 嫉妬そのものだった。 高野さんは俺の事が好きなんだから、 だからその人とべたべたするなと。 「あれは?」 「…酔ってただけです。」 酔った時には気が大きくなるというから きっとそのせい。 俺の中に残ってる10年前の名残が 少し大きくなって表面に浮かんでしまっただけ。 「じゃあ、俺があいつらの誰かとひっついてもいいんだ。」 高野さんの試すような言葉が胸に刺さる。 別に好きにしたらどうですか、そういえば済むのに。 俺から出たのは一筋の涙だった。 「小野寺…?」 まさか俺が泣くとは思いもしなかったのか 高野さんの表情に焦りが広がる。 「やだ…」 「え?」 「高野さんが…誰かとひっつくのは…やです。」 「律…」 「絶対…やだ…」 そう呟いたのが最後。 俺の視界には高野さんの部屋の天井が映っていて、 次の瞬間には身体中が甘くぐずぐずに溶けていった。 *** 「可愛いなお前。」 「可愛くありません!」 次の日の朝、しっかり高野さんのベッドで 目覚めてしまった俺は その大きな体にすっぽりと包まれて 弄り倒されていた。 「やだ、とか反則だろ。」 「いつまで引っ張るつもりですか! いいから離してっ…」 「やだ。」 「っ〜!!」 「あそこまで言うなら認めればいいのに。」 「何をですか!」 「俺の事好きって。」 真顔で告げてくる高野さんの顔が見られない。 俺は高野さんなんて好きじゃない… 絶対絶対好きなんかじゃない! だから… 「昨日のは…病気のせいです。」 「は?」 「俺は…昨日は高野病だったんです! 今日は治ったので!!」 先輩たちが悪ふざけにつかったワードを 引っ張り出して言い訳する。 そんな俺を見て高野さんは噴き出すように笑った。 「な、なんですか。」 「お前いまさら何言ってんの?」 「へ?」 「お前の高野病は10年前からずっと治ってねーだろ。」 小野寺律。自爆に気づくのはあと5秒後。 *END* 111114 更新 【後書き】 長編というか中編程度の長さですがw 高野病のお話でしたww みんなにバレバレで、律っちゃんだけ気づいてなくて 悶々としちゃう状況とか美味しすぎるしww 個人的に美濃様が本気だしたらやばいと思うんですよ← そして律っちゃんだけはほんとに 高野病の患者です(笑) [戻る] |