初恋の香り ふわりと香る甘い匂いに自然と頬がゆるんだ。 久しぶりに、それなりの時間に仕事が片付いて 家で待つ恋人の元へ急ぐ俺の足はいつもより速い。 電車を降りて、ふと鼻腔を掠めた甘い香り。 「あ…金木犀だ。」 この季節になると、いつもこの場所で香る金木犀の匂い。 疲れている体をなんとなく癒してくれるような気分になる。 視線を動かすと、小さなオレンジの花が見えた。 なんとなく、ちょっと背伸びをして 携帯のカメラでその花をぱしゃりと撮影する。 「カメラで匂いまで記録できたらいいのに。」 そしたら、家で待っているキラキラの王子様にも この香りをおすそ分けできるのに、なんて 柄にもなく甘いことを考えてしまうのは この香りに中てられているからだろうか。 「木佐さん、お帰りなさい!」 「ただいまー。」 玄関を開ければ、いつもよりキラキラオーラ 3割増しの俺の王子様、雪名皇が出迎えてくれた。 「お仕事お疲れ様です。ごはん作ってるんで食べましょ?」 「まじ?助かる。」 言われてみれば家の中からなんだかおいしそうな 食欲をそそる匂いがしてきた。 「おいしい洋食屋さんでバイトしてる友達に聞いた 自信作なんで期待してください。」 にっこりと笑顔で言われて、心臓がどきどきする。 未だに雪名の全開笑顔に対する免疫は出来ない。 まるで学生みたいに、その笑顔に翻弄される。 これが30のおっさんかよって 自分で突っ込みたくなるほどのドキドキ。 「あ、その前に。」 心臓を落ちつけるため、深呼吸しようとした俺の唇に なにか温かいものが触れた。 それが恋人からのキスだと気づいた瞬間、 落ち着けるはずだった心臓は爆発寸前まで高鳴る。 「おかりなさいのキスです。」 俺の雪名に対する免疫は一生出来ないかもしれない… *** 「ごちそーさま。うまかったー。」 「よかったです。お店でも人気らしいんですよ。 このパスタ。」 宣言通り、とってもうまいパスタを平らげて 一息ついたところで、ふと思い出して携帯を取り出す。 「見て、雪名。」 「なんです?」 ぽちぽちと操作して、帰り道に撮影した金木犀を見せる。 「あ、金木犀ですね。」 「そう、帰り道で咲いててさ。 いい匂いするから俺好きなんだよね。」 「確かに、甘くていい匂いですもんね。」 「匂いも写真と一緒に残ればいいのにな。」 帰り道思ったことを雪名にも告げる。 すると雪名はそうですね、とつぶやいた後 おもむろに俺の肩口に顔をうずめてきた。 「ちょ、なに!?」 「木佐さんに残り香がついてないかなと思いまして。」 すんすんっと動く鼻がくすぐったい。 「雪名、くすぐったいって…」 「あ、なんだか甘い匂いがします。」 「嘘つけ。あんな短時間で匂い移ったりしねぇし。」 楽しそうに俺を嗅ぎ続ける雪名に呆れ気味に言うと 途端、首筋に唇が触れた。 「ひゃっ…」 「じゃあ…この甘い匂いは木佐さんの香りですね。」 「なに…バカな事いって…」 「金木犀みたいに甘い匂いさせて… 誰彼の興味を引き付けちゃだめですからね。」 そこまで言って、今度は身体全体が包み込まれる。 身長の高い雪名に抱き込まれると 男としては情けないけど、すっぽりと隠れてしまう。 「そんな匂いしてないって…」 「じゃあ俺だけに分かる木佐さんの香り。」 「っ…」 その囁きがどんどん甘さを増して、 俺の体から力を奪っていく。 「ねぇ、木佐さん。」 「な、に?」 「金木犀の花言葉って知ってます?」 「え?知らないけど…」 「初恋、なんだそうです。」 「はつ、こい…」 言われて納得する。 確かにあの甘い香りは…初恋を連想させる。 「そういえば木佐さんの初恋の人ってどんな人ですか?」 俺を床に押し倒しながら雪名が尋ねてくる。 その仕草にドキドキしながら、途切れ途切れに答えた。 「…い、…え。」 「え?」 「俺の初恋…お前。」 その俺の答えが、雪名の欲情に火をつけたことを知るのは 何度も掻き抱かれて、意識が飛ぶ直前だった。 「そんな答え…反則です…」 *END* 111110 更新 【後書き】 久しぶりの通常雪木佐話を更新しました! 時期外れですが、どうしても金木犀の話を書きたくて 雪木佐でやっちゃいましたw 金木犀の花言葉「初恋」って初めて知ったんですが セカコイにぴったりじゃないかー!!って 1人で高まってましたww [戻る] |