UsaMisa-t6 | ナノ


 優先順位



「どうだ、可愛いだろ?」


俺の高校からの親友は満面の笑みで
籠入りポメラニアンを俺に差し出してきた。


「…孝浩、これはなんだ。」

「何って…ポメラニアン?」

「それは見ればわかる。俺が聞いているのは
 なぜお前が籠入りポメラニアンを抱えて
 俺に差し出しているのかということだ。」

「それがさー、ちょっと困ったことになって
 ウサギにぜひこの子の世話を頼みたいんだ。」


「は!?」



返ってきた答えに思わず目を見開いた。

俺がポメラニアンの世話?
なぜそんなことをしなければならない?


孝浩は大事な親友だから、ある程度の相談や
頼みごとは聞いてやりたいと思うが、

それにしてもなぜポメラニアン…




「昔、言ってただろ?
 近所のポメラニアン預かってるって。
 だから経験のあるウサギにぜひ頼みたいんだ!」


「俺がいつそんなことを言ったんだ?」

「へ?確か…そうそう、俺がこっちに戻ってくるから
 美咲を引き取るって話の時に、
 ちょうど預かってたじゃないか。」




しまった。
あの時ついた嘘がこんな形で跳ね返るとは。

キッチンで盗み聞きしていた美咲の立てた物音を
誤魔化すためについた嘘だったが…



「ただいまー!ってあれ?兄チャン?」

「あ、美咲!おかえりー!」


過去の己の発言に唸っていると、
バイトを終えた美咲が帰ってきた。

そしてポメラニアンを見た瞬間、
その目がキラキラと輝き始めた。


これはきっと駄目な展開だ。



「うわー!うわー!なんで犬がいんの?」

「実はさ…」



***


孝浩の話を要約すると、近所の人が旅行に
出掛けるので犬を預かってほしいと言われたのだが

孝浩達も嫁の実家に出掛ける為預かれない、
しかしお世話になっている人なので断るのも忍びない。

そこで昔の俺の発言を受けて、ここに連れてきたということだった。



もともと本能だけで生きる生き物は嫌いなんだ。
それなのにこの犬ときたら…



「あははっ、くすぐったいって!」


さっきから俺の美咲を舐め回し、独占している。
俺が近づこうものなら威嚇して吠えてくる始末。

ここを誰の家だと思っている。



「美咲、腹減った。」

「あ、ちょっと待って。先にこいつの散歩してくるから。」


「…お前は俺より犬を優先するのか。」

「あほか。飼い主さんから時間聞いてるんだから
 その時間に連れて行かないとだめなの。」


ほれ、と美咲は俺に紙をぴらりと見せる。

そこには、ポメラニアンのエサの時間や
散歩の時間などがびっしりとかかれていた。


世話焼き体質の美咲はそれを見て、俄然やる気になっている。



「戻ったら支度するからそれまで仕事してろよ。」

「やだ。美咲が足りん。」

「やだじゃねぇ!とにかく行ってくるからね。」



俺の言い分など軽く流して、美咲はポメラニアンを
抱きかかえて玄関へ行ってしまった。

その時のポメラニアンのどや顔を俺は多分生涯忘れない。




***



「ただいまー…ってあれ?」


散歩を終えて戻ってくるとリビングにウサギさんの姿はなかった。


「大人しく仕事してんのか?」


明らかに不機嫌面をしていたけど、
預かった以上、責任をもって面倒を見ないといけない。


「散歩楽しかったか?」

「クゥーン♪」


腕の中の犬は俺の問いかけに嬉しそうに答えた。
ウサギさんもこれくらい素直ならいいのにね。


「じゃ、ご飯の支度するから。ここで遊んでな。」


兄チャンが一緒に持ってきた組立ケージに
犬をいれて、夕飯の支度にとりかかる。



「ワゥー…クゥーン…」


しかし、途端にケージから寂しそうな鳴き声がして
俺はついつい手を止めてしまう。


「ごめんなー。ちょっとだけ待っててな?
 ご飯終わったらまた遊んでやるから。」

「クゥー…」


後ろ髪引かれる思いで、いつもより急いで夕飯を作り上げた。



「ウサギさーん。夕飯できたよー?」


階段を駆け上がって、仕事部屋をノックする。
しかし、一向に返事も人が動く気配もしない。


「おかしいな…ここじゃないのか?」


仕事部屋を後にして、次にいそうな寝室に足を向けて
そっとドアを開くと、ベッドが不自然に盛り上がっていた。


「寝てんのか?」


寝起きのウサギさんは超絶機嫌が悪いから
あんまり関わり合いたくないけど、夕飯が冷めてしまう。
仕方なくベッドに近づいて、そっと体を揺する。


「ウサギさん?夕飯できたよ。」

「…知らん。」

「は?」


知らん?なんじゃそりゃ!


「何言ってんだよ、せっかく人が作ったのに!」

「お前は犬と食べればいいだろ。」




えーと、まさかとは思いますが。
いい年してこのウサギは拗ねていらっしゃるのでしょうか。


「なに?拗ねてんの?」

「…」


返事がないということは肯定という意味でいいのだろう。


「バカ言ってないではやく起きろって。飯冷め…うわっ!」


文句を言っているとベッドの中に引きずり込まれた。
この展開はまずい。流される前に抜け出さないと。


いつものセクハラ攻撃をさけるために、
慌ててジタバタしたけれど、ウサギさんは
俺を抱え込んだまま動かない。



「ウサギさん…?」

「お前は俺だけ構ってればいい。」


いつもならバカかと言い返す台詞だけど
その声があまりに弱々しくて…


「…何言ってんだよ。」


そんなことしか言えなかった。
俺の反応に、ウサギさんの腕の力が強まる。


それはなんだか迷子の子供のようで、
すがりつくような…強いのに弱い抱擁。


それがなんだかとっても切なくて、
俺はそっとウサギさんの手に自分の手を重ねた。


「バカウサギ…不安がってんじゃねぇよ。」

「美咲が犬ばっかり構うからだ。
 お前の中の俺の優先順位がおかしい。」


俺の首元に顔を埋めながらぼやくウサギさんは
不覚にも可愛いと思ってしまう。



「…ウサギさんは他のものとは比べられねーよ。」

「え?」


「優先順位とか…そんなの…
 ウサギさんにはつけらんねぇから。」


だって…俺にとってウサギさんは
そういう存在なんだ。


「美咲…」

「だから拗ねてないでさっさと起きて飯食え。」


これ以上は照れくさくて言えないから、
その腕から抜け出して、部屋を飛び出した。


きっとあのウサギはすぐに追いかけてくるだろう。
だから、机の上の冷めかけた夕飯を温めながら待つ。


階段を、くまのぬいぐるみを抱えながら
降りてくるだろう、俺の恋人を。



*END*
111021 更新

【後書き】

綺羅星さんからお借りした純ロマお題6号。

久しぶりにロマお題を更新したわけですが…
高律ばっか書きすぎてウサミサが
うまく書けなくなっています←

てかポメラニアンのどや顔ってどんなだ
宇佐見テンテー様w



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