The Little Mermaid-貴方と生きる世界-[3] ※人魚姫パロ続編荷台に乗せられ、運ばれてきたリツは 巨大な水槽の中に入れられ、国王と王妃の前にいました。 「ヨコザワ…これは。」 「はい、王子を誑かし連れ去った人魚です。」 「人魚!!」 じろじろとまるで物でも見るように 無遠慮な視線がリツに突き刺さります。 「こいつを使えば、必ずや王子を連れ戻せるでしょう。 そうすれば隣国からの侵略も止まるはず。」 ヨコザワは自信たっぷりに国王にそう告げます。 しかし、国王の反応はヨコザワの期待を裏切りました。 「ん…これは…真珠じゃないか!!」 国王は水槽の底に落ちている真珠に気が付きました。 ここに連れてこられる間、苦しさと寂しさで 我慢しきれずに零れ落ちたリツの涙です。 「…どうやらそいつが流した涙は真珠に変わるようです。」 ヨコザワがそんなことはどうでもいいとばかりに 投げやりに答えました。 すると今度は王妃が興奮気味に喋り始めます。 「なんてすばらしい!この子さえいれば真珠が 取り放題ということなの?」 「たくさん真珠をとることが出来れば… それを隣国に献上して、侵略をやめさせられるやもしれん。 それに人魚は確か…」 思いついたように話す国王の顔は欲望に染まっていました。 「そうなればマサムネが戻らずとも問題ない。 私とお前でずっと国を治めていけるだろう。」 「そうよ。それがいいわ。 どうせマサムネが戻ったところで妃を 娶らなければ意味がないもの。」 聞こえてくる言葉にリツは愕然としました。 マサムネの言っていた言葉を信じたくはありませんでしたが、 まざまざと、彼の両親の本音を見せつけられた気分でした。 そして、愕然としているのはヨコザワも同じでした。 「こ、国王様、王妃様…しかし…」 「ヨコザワ、お手柄だったな。お前にはさらに いい地位を与えてやろう。そうだな。大佐の地位を与えよう。 これからもこの国のために尽くすがいい。 あぁ、あとその人魚の世話も任せる。 決して死なせぬように、出来るだけの真珠を搾り取れ。」 「…仰せのままに。」 何かを耐え忍ぶような表情をしたヨコザワは 部屋を出ていく国王と王妃に深い礼を送りました。 ヨコザワと2人きりになった室内。 ふいに、ヨコザワがリツのほうを振り返りました。 「…全部…お前のせいだ。」 「…」 「お前が…マサムネを連れて行かなければ… この国は安泰で…こんなことになりはしなかった。」 言われた言葉に反論はできません。 マサムネはリツを助けるために『王族』『人間』を捨てたのです。 それはすなわち、リツがこの国からマサムネを 奪ったことに他なりませんでした。 「ごめんなさい…」 「謝って済むと思うのか!!」 叫んだヨコザワの目には涙が浮かんでいました。 「俺は…ずっと探してた。あいつが消えた後。 ずっと…ずっと。」 ヨコザワの指には、あの日はめられたであろう 指輪が今でもはめられていました。 「せっかく…取り戻せるチャンスだったのに…」 俯いたヨコザワは、近くの壁を殴りつけました。 そして、肩を揺らし始めます。 それは泣いているのか、笑っているのか リツには判断ができませんでした。 「…せめて苦しめ。」 「え…」 その言葉にリツは目を見開きます。 「国王の命は絶対だ。お前が死なない程度に泣かせてやる。」 暗い表情を浮かべたヨコザワがリツの水槽に近づいてきます。 そして、おもむろに腰に下げていた警棒を水槽に入れ、 柄の部分にあるスイッチを押しました。 「!!!!」 その瞬間、水槽の中に電流が走り、リツは息が止まりかけます。 痛みと苦しみでぼろぼろと涙があふれ、たくさんの真珠を生み出しました。 「もう一つ、いいことを教えてやろう。 お前ら人魚と人間はな、昔共存してたんだ。」 気が遠くなりそうなリツに、ヨコザワは淡々と語ります。 「しかし、そのうち人魚が人間を避けるように どこかへ消えてしまった。何故だかわかるか?」 「な、ぜ…」 「お前ら人魚の肉が不老不死の食材になるってわかって 人間が人魚を捕まえて殺し、食べ始めたからだ。」 「!?」 身体に走る痛みよりも、もっと鋭い痛みが リツの胸に走りました。 人間が…人魚を…殺した? 食べるために? 「国王と王妃はお前からある程度真珠を搾り取ったら 次はお前を殺して、その肉を食べて不老不死になるつもりだ。」 「そ、んな…」 『マサムネが戻らなくても問題ない』 さっき国王が言った言葉の意味がわかりました。 不老不死になればずっと、自分が王としてこの国を 治めていけるから、跡継ぎは必要ないという意味なのでしょう。 「俺は独自にマサムネを探す。お前さえいなければ きっとあいつは俺のところに戻ってくる。 そしたら2人でどこか遠くで暮らすさ。」 仄暗いヨコザワの目は正気ではありませんでした。 「お前はずっと…食べられるその日まで、 ここで籠の鳥だ。この国のためのな。」 そういうと、もう一度警棒のスイッチが押され、 再び、リツはボロボロと涙を零しました。 もう会うことの出来ないだろうマサムネを思い浮かべながら。 *** リツの責め苦は次の日も続きました。 国民の前に晒され、見世物になり好奇の視線を浴びました。 リツを見るために、お金を払っていく国民達。 『ママ、あれはなんなの?』 『あれは人魚っていうのよ。とっても貴重なものなの。』 親子の会話が耳に突き刺さります。 「さらにこの人魚、涙を流せばその涙が真珠の粒となって あふれ出すのです!」 兵士の一人がそういうと、昨日の夜ほどではないにしろ 微弱な電流が水槽に駆け抜けて、 リツの体はびくりと跳ね、瞳からは涙が零れます。 その涙が真珠に変わると、集まった国民からは歓声があがりました。 「国王様はこの真珠を持ち、隣国と和解し、 再びこの国に平和をもたらしてくれるでしょう!」 高らかな宣言に、国民はより一層歓喜の声を強くします。 『もっと泣かせて搾り取ればいい!』 『真珠を売って、もっとこの国を潤して!』 『国王様万歳!』 もはや狂気を感じるほど熱気を帯びた声に、 リツは心底怯えました。 人間が…怖い。 向けられる視線が恐ろしい。 もう…嫌だ。 そう思った時でした。 「黙れ!!!!!」 誰よりも凛とした声が国民の声を一気に制圧します。 そしてその声に、リツは誰よりも反応しました。 ここに響くはずのない声。 それでもそれは幻聴でもなんでもなく、 まっすぐリツへと向けて放たれます。 「待たせてごめん。リツ。」 声の先には、リツの愛する人が立っていました。 ←2 4→ [戻る] |