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 The Little Mermaid-貴方と生きる世界-[1]
※人魚姫パロ続編


むかしむかし、蒼く煌めく海の深く。
楽園と呼ばれる場所で、ある人魚の誕生祝が行われていました。


その人魚の名前はリツといって、
楽園でも評判の美しい人魚3兄弟の末の人魚です。


そのため、そのお祝いには楽園中の人魚や魚人、
その他の生き物たちも駆けつけて、リツの幸せを祝福しています。


それだけでも幸せなリツでしたが、
今年の誕生日は、それだけではありません。



「リツ、誕生日おめでとう。」

「ありがとうございます。マサムネさん。」


リツには、その誕生を誰よりも祝ってくれる
大切な人ができていました。


タカノマサムネ。

彼は、もともと人間の国の王子でした。

10年前のある出来事がきっかけでリツと出会い、
運命的な再会を果たしたのち、自分の思い出と幸せの為に
泡になって消えようとしたリツを救うため、

『王族』そして『人間』という立場を捨て、
リツとこの楽園で暮らしている、今は立派な魚人です。



「リっちゃん、去年より幸せそうだねぇ。」

「そ、そうでしょうか?」


一番上の兄、ショウタのからかう様な言葉に
リツが頬を染めると、隣のマサムネがくつくつと笑います。


「そりゃそうだろ。俺がいるんだから。」

「マ、マサムネさんは自信過剰すぎます!」

「は?ほんとのことだし。」


10年間、初めてその姿を見た時からマサムネに淡い恋心を
抱いていたリツでしたが、
実際のマサムネは、俺様で結構意地悪な人でした。

今のように赤面させるような事を言っては
きゃんきゃんとリツが怒るのが、今では楽園の名物です。


しかし、マサムネの本当の優しさを知っているリツは、
やっぱり、彼の事を深く愛しているのです。

マサムネもまた、一度失いかけたリツを深く愛し、
2人は楽園に戻ってから、喧嘩をしつつも寄り添って生きてきました。



「なぁ、リツ。」

「はい?」


頬を赤らめてふくれっ面をしていたリツは
マサムネのいきなりの真剣な声に首をかしげます。


「ちょっと抜け出すぞ。」

「え?わっ!」


言うが早いか、マサムネはリツの手を引いて
祝いの席を抜け出しました。



***


「マサムネさん?あの、勝手に抜けてきたらまずいんじゃ…」


祝いの喧騒から少し離れたところで
マサムネはやっとリツの手を離しました。



そこは色とりどりのサンゴが賑わう、いつもなら
たくさんの生き物が集まっているマーメイドステージという場所。

しかし、今はみんながリツを祝いに出かけているため
ここにいるのはマサムネとリツの2人だけでした。



「せっかくのお前の誕生日なんだ。少しくらい
 2人きりになりたいだろ?」

「なっ…俺は…別に…」


その言葉を嬉しいと思いながらも、口からは
可愛げのない言葉が出てしまいます。


「…じゃあ俺が2人きりになりたかっただけってことで。」


リツは言った言葉に後悔しましたが、
マサムネはあまり気にすることもなく微笑みます。

その微笑みがあまりに甘く優しくて、リツの心臓はドキリと跳ねました。



「あらためて、誕生日おめでとう。」

「あ、はい…」


さっきはみんながいたので平気でしたが、
2人きりの場所でそっと囁くように告げられると
頬を赤らめずにはいられません。



「プレゼントさ、何がいいか迷ったんだけど。」

「そんな…プレゼントなんていいですよ!」


「俺まだこっちの世界に慣れてないから、
 よくわかんねーし、今やれるもんあんまりねぇから。」


マサムネがこちらの世界に来て、まだ数か月。
リツの家で暮らしていたマサムネが自分の家を持ったのも
ついこの間のことでした。


だからリツは、本当にプレゼントなど考えておらず、
ただマサムネが自分を祝ってくれるだけで満足でした。



「気にしないでください。俺は…マサムネさんと
 いられるだけで…いいんです。」

「…じゃあこれだけ受け取ってくれる?」


マサムネはそういうと、そっとリツとの距離を縮めます。
その顔がすっと近づき、気づいた時には唇が触れていました。


「んっ…」


リツは小さく声を漏らして、そのキスを受け止めます。

触れるだけのキスは何度も何度も繰り返され、
リツは少しだけ不思議に思いました。


いつものマサムネならこんな軽いキスだけではありません。


別にいつもみたいなキスをしてほしい訳じゃないけど、
そう心の中で言い訳しながらも、回数だけは多いキスに
うっとりと目をつぶりました。



そして、軽いキスが25回繰り返された後、
ふいにマサムネが呟きます。


「お前の誕生日に年の数だけのキスをプレゼント。」

「!」



最後の26回目、マサムネはリツを強く抱きしめて
それまでとは比べ物にならないくらい深いキスをしました。

溢れそうな愛をその唇に乗せて。


全身に感じるマサムネからの愛情に、リツの瞳からは
知らない間に涙が零れていました。





「リツ…お前その涙…」


唇を離したマサムネは驚いたようにリツを見つめます。


「こ、これはびっくりしただけで…感動したとか、
 嬉しかったとか…そんなんじゃ…」


口ではそう言いつつも、リツの涙は止まりません。
しかし、マサムネが驚いたのはリツが泣いていることではありませんでした。


「涙が…真珠に変わってる。」

「え…?」


マサムネに言われて、リツは初めて気づきました。
自分の周りにキラキラと輝く真珠が漂っていることに。


驚きで見開いた目から零れた涙が、また一粒。
美しい真珠へと変わります。



「…綺麗だな。お前の涙。」



マサムネは水中に漂う、リツの涙の結晶を愛しげにそっと掬い上げます。
まるで自分が流した涙一粒さえ、自分のものだというように。

その仕草が胸が痛いほど愛しくて、リツはまた涙が溢れだしました。


さらにキラキラと量産されていく真珠の涙に
マサムネは優しく微笑んでリツに言います。



「ネックレスでも作るつもり?」




***


「あぁ、それはあれだねぇ。
 人魚が誕生日の日に愛する人から年の数だけキスをされると
 その人魚の流す涙は真珠に変わるっていう伝説だ。」


ネックレスが何本も出来そうなほど、涙を流した後、
さすがに理由がわからなくて、リツとマサムネは
魔法使いであるイサカの元を訪れていました。


「なっ!?」

「ふふーん。なるほどねぇ。」


にやにやと笑うイサカの表情に、リツは耐えられず俯きます。
リツの涙が真珠に変わる、そしてそれはその伝説のため。

となると、必然的に年の数だけキスをされたことが
イサカにばれたということであって、いたたまれない気持ちになります。


「よかったな、原因がわかって。」

「あ、あんたのせいだ!」

「仲がよろしいことで。」


何事もなかったかのように振る舞うマサムネに
リツはいつものようにきゃんきゃんと吠えて文句を言います。

これがみんなが知っている伝説だとしたら、
リツはもう2度と人前で泣くわけにはいかなくなるのです。


「もう!マサムネさんのバカ!」

「はいはい。」


本気で痴話喧嘩を始めるリツとマサムネを見つめる
イサカの表情がふっと曇りました。


「あのさ、話すべきかどうか迷ってたんだけど。」


イサカのその声に、マサムネとリツは同時に振り返りました。


そして、その口から発せられる言葉が

幸せになろうとしていたリツとマサムネを再び、
混乱の中に陥れることになろうとは誰も思いもしなかったのです。



2


※今回の続編のリツが流す真珠の涙はのkana様より案を頂きました!
kana様、素晴らしい案をありがとうございますヾ(*´∀`*)ノ!


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