SekakoiSecond-6 | ナノ


 薬指にキス
※世界一初恋:羽鳥×千秋


「変われば変わるもんだなぁ。」

「そうだな。」


青空の下。飾られた色とりどりの花と
降り注ぐライスシャワー。


教会の鐘が鳴り響く中、
みんなの視線の先にいる今日の主役の片割れは
俺とトリの中高大の同級生だった。

ちなみに同じく同級生である優も誘われていたけど
どうしてもはずせない仕事とかで
夜の二次会からの参加になっている。



しかし当時、悪さばかりをしていた友人が
今や、一流企業に勤めて、とても美人な嫁さんを
貰うのだから世の中わからないものだ。



「あれがあのバイクで走り回ってたあいつだぜ?
 すっかりインテリだよなー。」

「あぁ、ここまで変わるとはな…
 まぁいいことじゃないか。」


いつものスーツとは違う、いわゆる礼服を着た
隣の幼馴染は感慨深そうに小さく笑う。

ちなみに俺も礼服だけど、トリみたいに
大人な雰囲気はどうしても出ない。

きっとこれは身長の問題なんだけどな!
断じて俺が童顔とか子供っぽいわけじゃない。



「あ、そうだ。式が終わった後さ、
 ちょっとだけ一緒にここに残ってくれない?」

「別にかまわないが。何かあるのか?」


突然の俺の要求に、トリは不思議そうな顔をして
俺のほうを見つめてくる。


「もう少し先だけどさ、今の連載で結婚式のシーンを
 描こうと思ってるんだ。その資料用に
 教会とか撮影しておきたくて。」


教会なんて普段来る場所じゃない。
本とかで見てもいいけど、せっかくの機会だから
自分の目で見て、さらに写真や動画を取っておけば
作業は格段とやりやすくなるはずだ。



「そういうことなら。」

「よし。それじゃあ決まり!」



職業柄、凝った建物や細工を見るとうずうずする。
長年の友人には申し訳ないけど、
俺は式が終わった後のことに想いを馳せていた。



そのあと、ブーケトスが行われて、
女の怖さを見せつけられた後。

写真撮影をしている間に、友人と神父さんに頼んで
教会の中を撮影する時間をもらった。



「さっきも思ったんだけどさ、
 そのステンドグラスすげぇよな。」

「確かに。細かい細工が施されているし、
 光の入り具合も絶妙だ。」



外の喧騒から離れて、2人きりの教会はなんだか
さっきより厳かなものに感じられる。



「にしても、結婚式のシーンはどういう風に使うんだ?」

「んー、一応考えてんのはさ、
 友人の結婚式に、ヒロインと相手が参列して
 ウエディングドレスを見たヒロインが、
 一瞬、自分の結婚式を思い描くって感じ?」

「なるほど。」

「その思い描いた相手が隣にいる相手で、
 なんとなく今まで意識していたものが確信に変わる。」


自分の頭の中のイメージを、言葉にしながら
そのシーンに必要な構図をファインダーに収めていく。


「ベタだが、今の作風にはあってるな。」

「ベタいうな。あ、ちょうどいいや。
 トリ、そこに立ってみて。」


新郎新婦が愛を誓いあう場所。
ヒロインが思い描くシーンはやはりそこだろう。


バージンロードを歩く自分。
そしてその先に手を差し伸べて待っている男。



「こうか。」


俺に言われた通りの位置にトリが立つ。
礼服というのもあって、その姿は驚くほど様になる。

ステンドグラスからの淡い光を受けて、
迂闊にも見とれてしまいそうだ。


「吉野?」

「あ、うん。そんな感じ。で、ちょっとこっちに
 向かって手を伸ばして。」


ファインダーの中のトリがこちらに手を差しだす。

俺は思わず、今日の友人が来ていたような
白いスーツを頭の中でトリに着せてみる。


似合うな、おい。


あとは隣にウエディングドレスの女の子がいたら
本当に1枚の絵みたいだ…

そこまで考えて、ひどく自分の胸が痛むことに気づく。




もし…現実にトリがあの場所に立つことがあるとしたら、
その相手は俺じゃない。

誰か…知らない女の子なんだ。

その姿を想像したら、なんだか耐えられなくなった。

今日の友人はとても幸せそうで、

あんな風に幸せな結婚を…トリは俺といる限り
永遠に叶えることなんてできない。



「…の、おい、吉野!」

「え!な、なに?」


トリの呼び声に我に返る。


「腕がだるいんだが、もういいのかと聞いたんだ。」

「あ、うん。大丈夫…」


慌てて答えると、こちらに伸ばされていた手が
すっと降ろされる。それがひどく寂しい。


構えていたカメラをポケットに入れて、ぼんやりと俯く。
そんな俺に気づいたのか、トリがもう一度こちらに手を差し出した。



「吉野、こっちにこい。」

「え?」

「いいから。」


いつになく優しい声で呼ばれて、
疑う余地もないまま、差し出された手のほうへ歩き出す。


そばまで近づくと、そっと手を取られて隣に並べさせられる。



「トリ…?」


呼びかけると、トリはひどく切なそうな顔をしていた。
その表情で一気に胸が苦しくなる。



「吉野…俺はお前にあんな風にみんなに祝福される
 未来を約束してやれない。」


トリの唇から紡がれた言葉は俺の心臓を鷲掴みにした。


「結婚式だってあげてやれない。
 ここにも…こんな風に立たせてやれないと思う。」


愛し合う2人が誓いを立てる場所。
俺たち2人はみんなの前でここに立つことは許されない。


「それでも…いいか?」


トリの手がそっと俺の頬に触れる。
思いもしなかった。トリも同じようなこと考えてたなんて。



「お前は…どうなんだよ。」

「え?」


聞き返されるとは思ってなかったのか、
俺の問いかけにトリは驚いた顔をする。



「お前だって同じだろ?
 あんな風に結婚式あげられないし、
 みんなに祝福だってされないと思う。」


それでも…


「それでも…俺と一緒でいいのかよ。」

「…いいよ。」


答えはあっさりと返ってきた。
ごく自然なトーンで、世間話をするような感じで。


「お、お前ちょっと軽く考えすぎだろ!
 もうちょっとちゃんと考えたほうがいいぞ!
 将来のことなんだから!」


否定されなかったことが嬉しいのに、
なんだかあっさり過ぎて混乱してしまう。けれど…


「考える時間はたっぷりあった。」


その声に言葉を失う。

そうだ。こいつはずっとこんな鈍感な俺を想ってきたんだ。
物心ついたときからずっと…俺だけを。



「ずっとお前を想い続けて、お前がそばにさえ
 いてくれれば他になにもいらないってずっと思ってきた。

 だから今更、世間一般の幸福が欲しいなんて思わない。」


絶句する俺の左手をそっと掬い上げ、
トリの口元へと引き寄せられる。

そして、引き寄せられた手の薬指にトリの唇が触れた。



「お前がいる未来だけが欲しい。」

「っ…」


それはまるで誓いの言葉。
気が付けば、俺は口を開いていた。



「俺は…お前の隣に誰か他の女の子がいるのなんて
 耐えられない。だから…」

「だから?」


促されるように尋ねられ、覚悟を決める。
少し乱暴にトリの手をとって、
同じように薬指に口付ける。


「俺も…トリがいれば…
 普通の幸せなんて…なくてもいい。」

「…千秋。」


ぐいっと腰を引き寄せられて、
その腕の中にくるまれた。


「俺の隣は一生お前だけだよ、千秋。」

「…当たり前だろ。」


誰にも渡してやるもんか。
こんなにあったかくて…幸せな場所。


そう思いながら、2人きりの教会で今度は
指じゃなくて、互いの唇に誓いのキスを落とした。


その時、ステンドグラスから一際
まばゆい光が差し込んで。

あぁ、もしかしたら…神様だけは
俺とトリを祝福してくれるのかな、なんて思いながら


そっとトリの胸に顔をうずめた。



*END*
110929 更新


【後書き】

セカコイアニメ2期祝い企画第6弾は
セカコイ羽鳥×千秋のお話でしたー。

いやぁ…トリチアらぶですよ。もう。

いつかこんなネタが書きたいなぁ、と
思っていたので個人的に満足。

質は相変わらず…ですがw

2人きりの教会。認められる恋ではないけれど
その想いは本物で、だから神様だけはきっと
今この瞬間を許してくれる、みたいな感じ。

どっち視点にするか迷いましたが、
どんどんトリを想う気持ちが加速している
千秋視点で書かせていただきましたv

いよいよ明日は企画最終日。
俺様編集長・高野さんと
Not素直な律っちゃんのお話です。




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