SekakoiSecond-5 | ナノ


 目を逸らした隙にキス
※世界一初恋:雪名×木佐


「よし、こんなものかな。」


ガスコンロの火を止めて、
かき混ぜていたお玉を置く。

鍋の中にはそれなりに食欲をそそる
香りを立てるクリームシチューが出来上がっている。

その香りに包まれながら、


「木佐さん、はやく帰ってこないかな。」


雪名皇、ただいま恋人の帰宅待ちです。



めずらしく木佐さんが今日ははやく終われるというので
はじめはどこか外食でもしようかって考えたけど、

いくらはやく終われると言っても、
いつもの木佐さんの様子を思い出すと

仕事終わりにどこかに連れ出すのは少しためらわれた。


だから、今日は家でちょっと手間をかけた料理を
木佐さんに振る舞おうと、友人に聞き出したレシピで
クリームシチューを作り上げた。


少し寒くなってきたし、歩いて帰ってくる木佐さんは
すっかり体まで冷えてしまっているだろうから

温かいシチューで喜んでくれるといいな。


ほんとは俺が温めてあげたいけど、
それをしちゃうと、きっと夕食がとても遅くなるから。




ガチャリ。



そんなことを考えていると、玄関のドアが開く音がして
いつもよりはまだ顔色のよさそうな木佐さんが帰ってきた。



「ただいまー。」

「木佐さん!お帰りなさい!」

「ん…あれ?なんかいい匂いがする…」


木佐さんは玄関でジャケットを脱ぎながら
鼻をくんくんと動かしている。なんだかまるでウサギみたいだ。


「久しぶりの一緒の夕飯ですから、
 ちょっと張り切って作りました!」

「まじ?」


俺が告げた言葉にふわっと笑ってくれる木佐さん。
その笑顔は反則です。だって可愛すぎる。




「実はさぁ、今日職場で手作り飯がどうのこうのって
 ちょうど話題になってたんだ。」

「そうなんですか?」



「うん。まず自炊をするのかしないのかの話から
 始まってさ、俺と後輩の子はしない派。
 編集長と副編はする派みたいで。」

「あれ?確かもう1人いましたよね?」

「あぁ…もう一人はね、生活自体謎で今回の話題にも
 『僕が自炊してる姿想像できる?かといって
 インスタント食べてるように見える?』とおっしゃられて。」

「…どっちなんでしょうね?」


木佐さんの会社の人とは、営業の横澤さんくらいしか
面識がないからわからないけど、

その最後の人はなんだかすごそうな気がする。



「で、そのもう1人の発言を聞いた後輩の子が
 『じゃあ、彼女さんの手作りとか?』って聞いて
 そこからまた話が盛り上がっちゃってさ。」

「なるほど。その可能性がありましたか。」


「それを冷かしてるうちに、じゃあ最近誰かの
 手作りご飯を食べたかっていう話にシフトしてさ。」



洗面台で手を洗ってきた木佐さんが、
俺の隣に立って、鍋を覗き込む。



「あ、そっか。クリームシチューの匂いだ。」

「木佐さん、お好きでしたか?」

「うん、好き。」


その好き、の言葉に不意打ちで胸が高鳴る。
いや、正確には不意打ちとはいわない。

俺が聞いたのだから。

でも、それはクリームシチューに対する好きであって
俺に対する好きではない。


でも、その唇から紡がれるとどうしようもなく
ドキドキしてしまうのは仕方がない。



「あとはガーリックトーストとサラダ、
 用意しますから、木佐さんは座ってゆっくりしててください。」

「え?なんか手伝うよ?」

「大丈夫です。早く終わったっていっても
 疲れてるでしょ?」


俺がそう促すと、木佐さんはじゃあお言葉に甘えてと
リビングにちょこんと座りこんだ。


どうして、一つ一つの動作が可愛いのかな。



「それで手作りご飯の話はどうなったんです?」


冷蔵庫から先に作っておいたサラダを出しながら
途切れた話題を聞き返すと、そうそうと頷きながら
木佐さんがまた喋り始めた。


「編集長はここ数年食べてなくて、
 副編は食べたといえば食べたっていうリアクション。
 後輩の子は最近食べたらしくて。」



顔真っ赤だったからあれきっと彼女、と
木佐さんは楽しそうに笑う。


「で、木佐さんはどう答えたんですか?」

「へ?」


「だって今日の朝も、手抜きでしたけど
 俺が作ったご飯食べたでしょ?」

「そ、そうだけど…」



途端に、顔を赤くしてもごもごしてしまう木佐さん。
言えなかったのかな?隠すことでもないと思うけど…
隠されるとちょっとだけ寂しいと思うのはわがままかな。



だけど…


「その…恋人の手作りご飯、食べたって言った…」

「え…」


次に出てきた言葉に俺は思わず焼きあがった
ガーリックトーストを落としそうになった。



「ご、ごめん!言うつもりはなかったんだけど!
 なんか律っちゃんだけのろけてずるいっていうか…

 あ、律っちゃんてのが後輩の子なんだけど、
 その…俺だって、お前においしいご飯作ってもらってるし
 ちょっとだけ自慢したいかな、なんて思ってみたわけで
 
 あ、大丈夫!男同士ってのは言ってないし!
 もちろん名前も言ってないし…

 すげー追及されたけど、それはこう、
 最年長の威厳でかわしたっていうか…」


おれの『え…』を否定的に受け取ったのか、
木佐さんは慌てて言葉を重ねて説明してくる。



「木佐さん、とりあえず落ち着いてください。
 俺、別に怒ったりしてないですから。」

「…ほんと?」


その大きな瞳が不安げに俺を見てくる。
どうして俺が怒らなくちゃいけないんですか。



「むしろ嬉しいですよ。木佐さんが
 ちゃんと恋人だって言ってくれた事。」

「そ、それは…」


居心地悪そうにもぞもぞと動く木佐さんに
にっこりとほほ笑みかけながら、

テーブルの上に夕飯の支度をしていく。


「確かに男同士なんて職場にカミングアウトは
 なかなかできませんけど、
 それでも木佐さんが俺の事をちゃんと話してくれたなんて
 すっげー嬉しいです。」

「そんな…喜ぶことでもないだろ。」

「いいえ、喜びます。」


正面からしっかりと見据えて話すと、
今度こそ木佐さんはゆでだこのように染まってしまう。



「木佐さん、ありがとうございます。」

「…どういたしまして。」


お礼とばかりにキスをすると、照れくさそうに木佐さんは笑う。

それを見てふと思った。


「あ。」

「ん?なに?」


「木佐さん、あとで料理作ったご褒美、
 俺にくれますか?」


そう囁いた俺に、木佐さんはぼふんっと赤くなった後
別にいいけど、そう呟いた。



***


「うまかった!」

「よかったです。友達の秘伝のレシピらしくて
 結構頼み込んだんですよ。」


食事を終えて、満足そうに微笑む木佐さんを見て
つい顔がゆるんでしまいそうになる。


年上なのに、そう見えない容姿と行動。
そのすべてが俺を掴んで離さない。



「そっか、ありがとな雪名。」

「どういたしまして、それにお礼はもらいますから。」


俺がそういうと、忘れていたとばかりに
木佐さんは動揺し始める。


「お、お礼っていっても出来る範囲だからな?」

「はい、木佐さんがすぐにできることです。
 あ、じゃあさっそくもらっていいですか?」


「い、今!?」

「はい。今です。」


木佐さんは何を想像しているのか、
まだ風呂もはいってないし、食べたばっかりだし…と
もごもご口ごもっている。


「あはは、木佐さんが考えてることとは
 多分ちょっと違います。」

「へ?そうなの?」


多分、木佐さんはベッドの上でするようなことを
考えていたんだろう。俺が言った言葉に一度フリーズして

本日、頬の色が最赤を記録した。

そりゃ、そういうこともしたいですけど…
それはまた後で、ね?



「俺が欲しいのは木佐さんからのキスです。」

「へ?キス?」


想像もしてなかったのか、木佐さんはきょとんという
擬音がよく似合う可愛い顔になっている。



「はい、木佐さんからごちそう様のキスが欲しいです。」

「な、なんだそんなことか。あは、あはは!」


あからさまにほっとした様子で木佐さんは高笑いをする。
ねぇ、木佐さん。どんなすごいこと考えてたんです?


「じゃあ、はい。」


そういって俺は木佐さんの前に座ってスタンバイする。
しかし、俺の顔をちらりと見た木佐さんは
すぐに顔をそむけてしまった。


「木佐さん?」

「あのさ、俺からするのは構わないんだけどさ、
 そのキラキラオーラどうにかしてくんない?」

「オーラですか。」


そういわれても、そんなもの自分で出しているつもりはないし
だすなと言われて止められるものでもない。


「それがある以上、俺からは無理だ!」

「ええ!してくださいー!」

「や、無理だって!」


木佐さんはほんとに困った、というように俺から逃れようとして
ふと、その口の端をあげた。


「あ、雪名!テレビにフェルメール!」

「え?」


続けて言われた、お気に入りの画家の名前についつい
視線をテレビに送ってしまう。


その瞬間。


ちゅ。


口の端に柔らかい感触が触れた。
それはきっと、愛しい人の唇。


「これでOKだろ。」


木佐さんは勝ち誇った感じで笑う。


「ええ…」

「お前がキラキラしてるのが悪い。」

「そんな…」


確かに木佐さんからのキスだけど、
目を逸らした隙になんてなんだかずるい。



「じゃあ、わかりました。
 これはこれでよしとして、さっき木佐さんが
 想像していたお礼をしてもらうことにします。」

「はい!?」


俺はすっかりくつろぎモードの木佐さんを
ひょいっと抱え上げて、風呂場へと向かう。


「おい、雪名?!」

「大丈夫ですよ、しっかり洗ってから…ね?」

「!?」



顔は見えないけれど、きっと木佐さんはまた真っ赤だ。
そんな可愛い恋人と過ごす夜は

まだはじまったばかり。



*END*
110928 更新


【後書き】

セカコイアニメ2期祝い企画第5弾は
セカコイ雪名×木佐のお話でしたー。

セカコイの中では一番執筆数が少ない
ユキサですが、それがまざまざと…w

雪名の王子具合も木佐さんの小悪魔具合も
いまいち表現しきれなかった感がありますが…;

木佐さんの雪名だけに見せる
ちょっと不器用な感じが好きですv

明日は堅物副編の羽鳥さんとおばか可愛い千秋のお話です♪



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