言葉を封じるキス ※純情ロマンチカ:宇佐見×美咲拝啓、兄上様。 ウサギさんは卑怯です。 「ウサギさん、洗濯するからシーツと パジャマだして。今日すっげーいい天気。 あと布団も干すからそろそろ起きてよね。」 休みの朝。 目が覚めれば、空は青々と輝いていて 俺の家事魂にどかんと火をつけた。 いつもならゆっくり寝ていたいと思うけど、 青い空、爽やかな風とくればじっとしてられない。 ベッドから起きだして、服を着替えると 愛用のエプロンを身に着けて、 少し邪魔になる髪の毛を結んで準備完了。 窓を大きく開いて、家の中に新鮮な空気を取り込むと なんだか訳もなく幸せな気分になってくる。 そして冒頭のようにウサギさんに声をかけて まずは朝食づくりに取り掛かった。 今日は気分がいいから、ウサギさんの好きな 出し巻き卵を作ろう。 鈴木さんの形にしてやってもいいかな、なんて 甘いことまで考えだす始末。 いつもは素直になれないけど… こうも気分がいいと認めてしまいたくなる。 俺は…やっぱりウサギさんが好きで… その喜ぶ顔が見たいんだと。 わがまま言われても応えてしまうのは それを叶えた時の笑顔が見たいから。 「…おはよう。」 「おはよ、ってうわ…またひどい隈だね。」 「まだ締め切り前じゃないが… 今回はちょっとでも早く仕上げたくてな。」 「へぇ、珍しいこともあるんだね。 あ。でもウサギさんが仕事がんばるなんて 雨でも降るんじゃねーの?」 驚きのあまり、失礼な発言をする俺だが 寝起きのぼけぼけウサギさんは大して気にしてないらしい。 「美咲…」 「なに?」 「おはようのキスは?」 「は?」 俺の耳が正常ならば、なぜこの大テンテーは まるでそれが毎日行われる当たり前の行動みたいな 顔をして、俺にそのようなことを要求しているのでしょう? 「美咲からおはようのキスがないと目が覚めない。」 「あほか。コーヒーでも飲めば覚めるだろ! 今いれてあげるから座ってなよ。」 いちいちここで相手をしていたらまた ウサギさんのペースに巻き込まれてしまう。 それがここでウサギさんと同居をはじめて数年、 俺が学んだことの1つだった。 俺はさらりと受け流して、食器棚から カップを取るためにウサギさんに背を向ける。 しかし。 「コーヒーじゃだめ。美咲がいい。」 その声は、すでに耳に吐息がかかりそうな距離から かけられていて、気が付けば俺はすっぽりウサギの腕の中。 いちいちここで相手をしていたらまた ウサギさんのペースに巻き込まれてしまう。 しかし、ウサギは 相手をしなくても向こうからやってくる。 それがここでウサギさんと同居をはじめて数年、 俺が学んだもう1つのことだった。 「はーなーせー。」 「美咲からキスしてくれたら離してやる。」 「できるかボケェ! ふざけてないで離せって。準備進まないだろ。」 「仕方ないな…」 喚き倒す俺に、ウサギさんは諦めたのか身体をすっと離した。 あれ…意外と素直…っていうか気味悪い。 そんなことを考えられたのもつかの間、 2秒後には俺の唇はウサギさんに奪われていた。 「んぅ…!?」 驚きのあまり、口を閉じるタイミングを失い、 そのままウサギさんの舌が侵入してくる。 そのまま、好き勝手俺の口の中を貪るウサギに 抵抗しながらも、そもそもおはようのキスって もっと爽やかでレモン色の…なんて 訳のわからない思考が湧き出てくる。 しかし、そんな思考もやがて自然に消えていくほど 濃厚なキスは、俺が酸欠直前になるまで続けられた。 「っはぁ…ぁ…」 やっと解放された口は酸素を求めて喘ぐ。 「朝から色っぽいねお前。」 「誰のせいだ!」 「俺のせいだろ。」 精一杯の文句もさらりと受け流されてしまった。 いや、確かにウサギさんのせいだけど… それを認められるのはいささか… つーか、『誰のせいだ!』っていう反論自体が 間違っていた気がしないでもない。 「とに、かく…俺は朝飯の支度するんだから 大人しく座ってろバカウサギ!」 「はいはい。」 キスをしたことで満足したのか、 さっさと自分でコーヒーを淹れて席へと移動した。 「まったく…どうしてウサギさんは そう朝から破廉恥なのかな。」 「破廉恥ってお前…言い方古くないか。」 俺の恨めしい呟きに、 ウサギさんは検討はずれなリアクションを取る。 「い、言い方はどうでもいいんだよ。 とにかく朝から盛ってんじゃねーよ。」 「それは無理というものだろう。」 なにが、だろうだ。自信持って否定してんじゃねぇ。 ほんとこれだからエロウサギは始末に負えない。 せっかくの俺の爽やか気分を返せってんだ。 「だって…美咲がそばにいると思うだけで 触れたくなる。」 「ちょ、何言って…」 「朝起きて、この家にお前と俺2人で生活してることを 実感しただけでたまらなくなる。」 「やめろって!はずい!」 「俺のために朝食を支度する美咲が どうしようもなく可愛くて愛しい。」 「こ、これは家賃がわりだから作ってるだけで…」 「今日も、お前がここにいて幸せだと思う。」 「っ…」 いつまでも垂れ流される甘い言葉に耐えきれない。 心も体もこのままでは溺れてしまう。 砂糖漬けのようなウサギさんの愛で。 「だから美咲…俺は…ぅ!?」 顔から火を噴きそうだ。 なんで俺がこんなことをしなきゃいけない。 そう思いながらも、ここで溺れさせられるよりましだ。 だから… ウサギさんの唇を思いきり塞いだ。 自分のほっぺを押し当てて。 なので、俗言う「ほっぺちゅー」の状態になっている訳だが。 とりあえずウサギさんの言葉攻めが止んだからよしとする。 そっと顔を離すと、目を見開いているウサギさんがいた。 俺の行動が意表を突いたのか、 あらん限りのフリーズを起こしている。 こんなウサギさん、ちょっと新鮮かもしれない。 「ぶはっ!」 そんな風に思いながらウサギさんを見つめていると、 なぜかウサギさんは盛大に噴き出して笑い始めた。 「な、なんだよ!」 「ははっ…くっ…お前、可愛すぎ。」 「か、可愛いってなんだよ! 俺はウサギさんがうるさいから…っ!」 抗議した体は抱きすくめられ、 文句を言った唇はさきほどまでほっぺにあった唇に食まれる。 さっきみたいな深いキスじゃなくて、 そっと口を閉じるように促されるキス。 「口封じのキスってのはこうやるんだよ、少年。」 そういって大人めかした笑みを浮かべて また柔らかく俺を抱きしめる。 「うるせぇ…結果黙らせたんだからいいんだよ!」 どくんどくんと暴れる鼓動を隠しながら 精一杯の虚勢を張って見せる。 「そうだな。確かに驚いた。」 だけど… そう呟いてまた同じようなキスが落とされる。 「次はこっちでお願いしたい。」 「知るか…バカウサギ。」 追伸、兄上様。 やっぱりウサギさんは卑怯です。 こんなに簡単に、俺を黙らせて 結局好き勝手に翻弄してしまうのだから。 *END* 110927 更新 【後書き】 セカコイアニメ2期祝い企画第4弾は ロマンチカ宇佐見×美咲のお話でしたー。 ロマの書きやすさったら← ミステイク、テロ、エゴと書いてきて 一番の早産でした(笑) あ、出来はむにゃむにゃですが← 個人的ポイントは美咲の強制ほっぺちゅー! 勢いよく行き過ぎてちょっと歯とか当たればいい! 今回もウサギさんの砂糖漬けラブに 翻弄される美咲君なのでしたー♪ 明日はセカコイシリーズに突入! 小悪魔木佐さんと王子雪名のお話です♪ [戻る] |