SekakoiSecond-1 | ナノ


 温度差のあるキス
※純情ミステイク:朝比奈×井坂


「以上で本日の予定は終了ですね。」

「んー。」


ぐーっと身体を伸ばしながら、
朝比奈からお仕事終了の報告を受ける。


「今日はいつも以上に疲れたー。
 あのおっさん嫌いなんだよ。」

「仮にも出版業界の大物。
 本人がいらっしゃらないからといって
 そのようなことを言うものではありません。」

「…そーですね。」


朝比奈の生真面目な返事に
俺はイラッとしながら返す。


その冷静さは何なんだ。


だって、そうだろう。
今日会食をしたおっさんは明らかに
下心みえみえのスケベ親父だ。

そりゃ、誰もが羨む美男の俺に
ちょっかいを出したくなるのも分かるが

ああいう公の場で、セクハラめいたことを
されるのはさすがにムカつく。


腰に手は回されるわ、髪に触ってくるわ
向こうの秘書が止めるまでやりたい放題。


それでも、仕事と思って耐えて戻り、
恋人に文句を言えばこのリアクション。

体面上、あの場で俺を守らなかったことは仕方ない。


ただ、プライベートの時間にまで
その態度はどうなんだ。


お前は俺の恋人なんだろう?
俺がセクハラされてても仕事上なら仕方ないのか。

怒りもしないのか、ええ?朝比奈君よ。




「気分わりぃからシャワー浴びてくる。」

「わかりました。」



慰める気すらゼロか。

あからさまな愛情表現をするような奴じゃないのは
わかってるし、俺だってそんなことを望んじゃいない。


だからって…


「さすがにひどいんじゃね?」


シャワーのコックを捻って、
苛々とした頭に思い切り水をかぶる。


「あー…くそ。ふざけやがって。」


朝比奈への怒りから派生して
あのセクハラ親父にも腹が立ってくる。

触れられた腰や髪がひどく気持ち悪くなってくる。


(ここ最近忙しくて、朝比奈にさえ触れられてないのに…)


ひたすら水を受ける身体はどんどん冷えていくのに
頭は反比例してどんどん沸騰する。


「あの親父、次会ったら憶えてやがれ。
 お粗末なもの抓りあげてやる。」


くっくっくと悪巧みをして、シャワーを止める。
これくらいにしておかないと風邪を引きかねない。


ふと、バスルームの外から話し声が聞こえた。


仕事の電話だろうか?
なんとなく気になって聞き耳を立ててしまう。





『ええ…こうお伝え願えますか。』


敬語で喋っているからやはり仕事なのだろう。
そもそもあいつが仕事以外で誰かと話すなんて
家族くらいだろうけど。


『龍一郎様にこれ以上不愉快な思いをさせるようであれば
 いくら貴方様でもお許しいたしかねます、と。』



「え?」


俺は聞こえてきた言葉に耳を疑った。

俺に不愉快な思いって…



『丸川を敵に回してお困りになるのは
 そちらだとお分かりですよね。
 今日の行いは飲酒故のお戯れとお受けしておきます。』


ばくばくと心臓が音を立てる。
朝比奈は…なんとも思ってなかったんじゃないのか?

相手は大御所だからって…
俺が何をされても仕方ないと思ってたんじゃ…


『それではそのように。はい、よろしくお願いいたします。』


通話が終了したのか、それ以降声は聞こえてこなかった。



取締役として…秘書の勝手な行いを責めるべきだ。
相手は出版会の大御所なんだ。

私情を挟んで、あんなことを言うべきじゃない。


さっきまで自分が怒っていたくせに、
朝比奈が行動したと思うと、型どおりの正論が頭に浮かぶ。


それでも…それでも…
今、俺はプライベートの時間な訳で。


気がついたら、腰にタオルだけ巻いた状態で
俺はバスルームを飛び出していた。




「龍一郎様?どうかなさいましたか?
 そんな格好で…風邪をひいたらどうするんです。」


そんな俺を見て、朝比奈は目を見開いている。
まぁ、そりゃそうだろうけど。


「お前…今の電話…」

「…聞いていらっしゃったのですか。」


朝比奈は複雑そうな顔をして、俺を見つめる。


「勝手な真似をして申し訳ございません。
 ただ、決して貴方様には迷惑がかからぬように…」
「だまれ。」

「龍一郎様…」

「もう…黙れ。」



俺は怒ってるわけじゃない。
そう、怒れるはずなどない。


お前が…仕事でリスクを背負うのを承知で
俺を守ろうとしてくれたんだ。

喜びこそしても、誰が怒れる。



そっと身体を寄せると、
朝比奈の身体がびくっと震える。



「龍一郎様、どうしてこんなに冷えてるんです。
 シャワーを浴びていらしたのでは…」

「苛々して水浴びてた。」

「…まったく。」


呆れたようなため息が聞こえたかと思うと
唇に熱いものが触れた。



「んっ…」

「はやく暖めないと風邪をひきます。」

「あさ、ひ…っん」


自分の唇が冷えているせいなのか、
再度触れたその唇は、燃えるように熱い。


「もう一度、温かいシャワーを浴びられますか?
 それとも…」


滅多に見せない、欲を含んだ顔が
俺の心まで見透かしたように覗き込んでくる。


「このまま私が暖めましょうか。」

「…世話役のお前が決めろ。」


ここですっと甘えられないのはもはや性分。
仕方ないことなんだ。


「では、シャワーの用意をいたします。」

「はぁ!?」


過剰反応した俺を見て、朝比奈がくすりと笑った。


「私が決めてもいいのでしょう?」

「てめぇ…朝比奈ぁ。」


この野郎、俺をからかってやがる。
朝比奈のくせに!秘書のくせに!下僕のくせに!


「それともやはりご自分でお決めになりますか?」


試すような瞳。ムカつく。
それなのに…やっぱり俺はバカみたいに
お前が好きで…


「…さっさとあっためろ!」

「仰せのままに。」


その唇の熱を移されるのを望んでしまうんだ。



*END*
110924 更新


【後書き】

今日からセカコイアニメ2期祝い企画ってことで
オールCP短編7本アップスタートです!

1本目は初書き、純情ミステイクなお2人でした♪
書けるかどうかかなり不安でしたが、
意外とあっさり書けましたよw質はさておきw

大御所にセクハラされる井坂さんと、実はしっかり
キレてる朝比奈さんwこっそり影で井坂さんを
守ってる寡黙な男…素敵です(*ノェノ)キャー

しかしこれを書いている最中、ミステイク組が
将来ちょっと年をとったトリチアにしか見えなかった←


明日は、こちらも初書き。テロリストのお話です!
お楽しみに〜!



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