YukiKisa-sp1 | ナノ


 Only your present


「よし!何とか間に合ったー。」


強引に仕事を片付けて、俺は目当ての場所へたどり着いた。
目の前には『BOOKSまりも』の文字。

大型書店であるBOOKSまりもにはよく本を買いに来る。
けれど、今日の俺の目当ては本ではない。


俺の目当ては…
レジでキラキラとした笑顔を振りまいている王子様。


その名を雪名皇。


この書店で少女漫画の棚を担当している美大生のバイト。
そして…俺、木佐翔太の恋人。



21歳のキラキラオーラ全開王子と
30歳のホモで面食いなちっさいおっさんが

何の因果か付き合うことになったのは
宇宙的ミラクルだと言える。


今まで恋愛なんてしたことがなかった俺にとって
雪名と過ごす日々は不安と葛藤とこの上ない幸せな時間。


齢30にして自分がこんな風になるなんて
思いもしなかったけれど、人生ってわからないもんだ。



なんて、回想をしつつ、不自然にならないように
かろうじてレジが見える位置に陣取って、雑誌の立ち読みを始める。



なんで俺がこんなことをしているかというと、
何を隠そう、今日は恋人の雪名の誕生日なのだ。

雪名には朝、家で誕生祝いするからバイト終わったら
まっすぐ俺の家に来いとメールで告げてある。


しかし、実際はバイト先まで迎えに来て、
予約してある雪名の好きな店へ連れて行く計画だ。



「驚くだろうな、アイツ。」



雪名が俺を見つけたときのキラキラ笑顔が目に浮かぶ。
きっと、極上の笑みで俺に手を振るだろう。


「しかし、30のおっさんが恋人にサプライズ。
 ちょっとシュールすぎる気もするが…」


自分の立てた計画ながら、少し気恥ずかしい気分になる。
…雪名は喜んでくれるだろうか。


時計を確認したら、
雪名のシフトが終わるまであと10分。


早く時計の針が進まないかな。
はやく、はやく。雪名の喜ぶ顔が見たい。





「雪名君!今日お誕生日なんだよね?」

「はい、そうっすよ。」


「これ!手作りのケーキなんだけど
 よかったら食べてください!」

「私はこれ!有名なブランドの香水!」

「あたしも!」「雪名君受け取って!」




10分後。
俺は有名人の楽屋口にでも迷い込んだのか。


仕事を終えて、帰ろうと出てきた雪名は
出待ちの女の子に群がられていた。

その数、ざっと30人はいるだろうか。
改めて雪名の人気の高さを思い知らされる。


そりゃそうだ。まるで本から出てきたような
完璧なイケメン王子だもんな。

そう思うと、わずかな嫉妬心がこみ上げる。
あいつ…あれ受け取る気かな…



「あー…みんなの気持ちは嬉しいんだけど、
 俺、恋人いるからその人以外のプレゼント
 受け取る気ないんだよね。だからごめんね?」


そんな俺の嫉妬心も無駄になるほど、
雪名は綺麗な笑顔ですべてのプレゼントを断った。


途端に嬉しい気持ちになる俺は相当単純だ。


しかし、俺の気持ちと反比例して女の子達の気持ちは
収まりがつかないのか、口々に私のだけはと
プレゼントを差し出すのをやめようとしない。


さすがの雪名も困ったような顔をしていたが、
その視線が不意に何かを捉えた。


何かとはつまり俺。
隠れていたつもりが嫉妬の気持ちからか
ついつい物陰から身を乗り出してしまっていた。



その瞬間、憂い顔は吹き飛んで雪名は
オーラ全開の笑顔を向けて俺に手を振った。


「げっ…」

「木佐さーん!!なんでここにいるんですか!」


俺のひきつった表情にも気づかずに
雪名は嬉しそうに手を振り続ける。


「誰、あの人。」

「なんか見たことあるけど、知らない。」

「木佐って言ったよね?」


そんな雪名の態度を女の子達がおもしろく思う訳もなく。
俺は一瞬にして30名の殺気を纏った視線に晒される。

きつい。きつすぎる。



「じゃあ、そういう訳で俺帰るから。
 みんなごめんね?」


針のムシロ状態で固まっている俺に雪名が
近づいてきて、あろうことか俺の手をぎゅっと握る。


「雪名!?」

「なんです?木佐さん。」

「お前、何ナチュラルに手握ってんの…」

「え?だってせっかく一緒に帰れるんだし、
 俺の誕生日だし、これくらいいいでしょ?」

「なっ…バカっ!」



時すでに遅し。



「一緒に帰るってどういうこと!?」

「雪名さん、その人とどういう関係なの!?」

「まさか…」


30人の女の子が一斉にわめきたて始めた。
当たり前だ。自分たちの王子様が
男の手を握って一緒に帰るなんて爆弾発言、

もし俺がそっちの立場なら同じように叫ぶだろう。



「え、木佐さんは俺の…」

「走るぞ雪名!!!!」


この期に及んでまだ爆弾を投下しようとする
雪名を引っ張って俺は走り出した。


「え?木佐さん?」


驚きながらも雪名は俺と一緒に走り出す。

俺が先行したのもつかの間、
基本リーチが違うのであっという間に
俺が雪名に引っ張られる形になっていた。


しかし、これではまずい。
雪名は女の子達を撒こうと家のほうへ向かっている。


料理やケーキは全部店にあるし、家に帰っても何もない。
これじゃ…雪名の誕生日祝いが出来なくなる。



「雪名っ…そっちじゃなくて…」

「え?」


慌てて俺が声をかけると、雪名は走る足を止めた。


「俺、今日…店…「あああ!!いた!!」


「あ、木佐さん!来ちゃいました!
 とりあえず俺の家に行きましょう!」


言いかけた俺の腕をひいて雪名が走り出す。
今日ほど女の子の執念深さを感じた日はなかった。






「はぁ…はぁ…」

「大丈夫ですか木佐さん。はいお水。」

「あ、ありがと…」


雪名から水を受け取って、一気に飲み干す。
水分を求めていた喉が潤って一心地ついた。

しかし…



「あぁ…」

「どうしたんですか木佐さん。」


本来、雪名の仕事あがりにすぐ店に連れて行く予定だったから
書店で揉めた時間と、撒くために走っていた時間で
予約時間を大きく過ぎていた。

今から行ってもおそらくキャンセル扱いだろう。


「えっと…ごめん雪名。」

「へ?」



俺は店を予約していたこと、
時間が過ぎてしまったことを雪名に告白した。


最悪だ。俺が不用意に店の中にいなきゃ
見つかって騒がれることもなかったのに。

外で待ってればよかった。


すっかり気分が滅入って、俯いた俺を
雪名はそっと抱きしめてきた。



「木佐さん、俺すげー嬉しいです。
 木佐さんが俺の誕生日にそんなサプライズ
 してくれようとしたなんて。」

「で、でも失敗したし…」


サプライズは成功させてこそのサプライズだ。
今はただ惨めな思いしかない。


「木佐さんの気持ちが一番嬉しいんです。
 木佐さんが俺のために何かしようって
 考えてくれただけで、最高のプレゼントです!」

「雪名…」


そう言ってくれる雪名に、じんわり瞳が濡れた。
お前の誕生日なのに…俺が喜んでどうするんだ。


「俺、お前の喜ぶ顔が見たくて…」

「はい、じゃあたっぷり見てください。」


俯いていた俺の顎を掴んで、そっと上に向ける。
視線の先には笑顔を浮かべた雪名の顔。

キラキラして、本当に嬉しそうで…
心にかかった靄がすっと引いていくのを感じる。


「ねぇ、木佐さん。俺の一番欲しいもの頂戴?」

「え?」

「誕生日プレゼント。」

「でも、俺…プレゼントは家に置いてきてて。」


雪名へのプレゼントは、俺の家のクローゼットに隠してある。
食事をして帰った後、渡すつもりだったから。



「ここにちゃんとあります。」


そういうと、雪名はそっと俺の頬にキスをする。
瞬間、プレゼントの意味を理解した俺はぶわわわっと赤面した。



「あ、ちょうどこの間、
 フェアに使ったあれが残ってたんでした。」


真っ赤になった俺を放置して、雪名はごそごそと棚を漁る。
そして取り出してきたのは…


「リボン?」

「はい、プレゼントにはリボンがつきものでしょ?
 俺が巻くんじゃ意味ないから。木佐さんが自分で巻いて?」


そういって真っ赤なリボンが俺の手に手渡される。
見覚えのあるそれは、確かにこの間俺の担当作家のフェアを
BOOKSまりもでやったときに使われていたリボンだった。


30のおっさんに何させるつもりだ、と思いつつ
今この場に雪名に差し出せるものは1つしかない。


俺は覚悟を決めて、自分の首にしゅるりとリボンを回す。
正面で大きくリボンを作れば…


世界でたった1つ。
雪名のためだけのプレゼントが完成。



「木佐さん、可愛いです。」

「30のおっさんに可愛いとか言うな…」

「だって…すごく可愛い。」


雪名の声のトーンが1音低くなって、
背筋にぞくりと甘い痺れが走った。


甘いマスクにその声をプラスされたら
もう、何も考えられなくなる。


自分からキスを仕掛ければ、
雪名からも優しいキスが返ってきた。



「誕生日おめでとう、雪名。」

「はい、ありがとうございます。木佐さん。」

「俺をもらって?」

「はい、喜んで。」


そっと床に押し倒されて、結んだばかりの
リボンが解かれていく。



ドクン、ドクン。

この心臓の鼓動までもお前のもの。

だから、全て食べつくして。
お前が生まれた聖なるこの日に。


*END*
110905 脱稿


【後書き】

雪名お誕生日おめでとーう♪
ユキサ執筆一番少なくてごめんねー(笑)

でもエロ可愛い木佐さんも王子様な雪名も好きだー!!
木佐さんは高律話で登場頻度高いんだけど
雪名はほとんどうちのサイトでは登場しないからな;

今後の登場をご期待くださいw

そして、今日は木佐さんをたっぷり頂いてください←




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