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▼ FUST06

「ああー参った。このさみぃのにいきなり雪崩とはついてねぇな。……でもまぁ、これも一つの寒中水泳か。」

 ぼこっ、と、積もっていた雪が盛り上がり、ゾロが飛び出す。その横で、きゃっ、と悲鳴をあげたのはビビ。その隣には、なぜか顔が膨らんでいるウソップ。

「ゾロ!」
「ん……あ、おうビビ。ルイみてねぇか。」
「ルイ?見てないぞ、船にいるんじゃないのか?」

 顔の腫れたウソップがウソップと気づかれるのには少し時間がかかった。

「一緒に雪崩に巻込まれた。」
「ええええええ!早く探さないと!ここらへん掘るわよっ!」

 ビビたちは急いで近くの雪を掘り始めた。ほどなくルイは掘り当てられた。ビビが見覚えのある服の色を掴んで持ち上げると、それについてきたルイはぐったりとしていたが、すぐに目を覚ました。

「あ……ビビとウソップ……綺麗なお花畑と川のある景色が見えた。」
「さっきおれも見たぞそれ。」
「もー!危なかった……!」
「すまねぇな、危険なことに巻き込んで。」
「本当にね!!」


「あれ、町だ。」

 ぽつぽつお家が建っている集落に、黒山の人だかりができているのが見える。言葉通り黒服の人が丘にたくさんいて、黒い山のよう。

「ん?……おいあの建物は見覚えが。」
「ほんとだ……!ここは……ビッグホーンよ、私達戻ってきちゃったんだわ!」
「ビッグホーン?」
「さっきおれたちがいた村だよ。」
「へー。」





「おい、どうしたんだ。」
「ど!どうしたんだって君の格好がどうしたんだ、そんな格好で!」

 言われる通りである。ゾロは上半身裸、この雪の国でおかしすぎる。

「ドルトンさんが雪崩の下敷きになってるんだ!だがあいつらが邪魔して、雪を掘ることができない!!」
「え……ドルトンさんが?」
「ドルトンさん?」

 なにやら大変なことになっているらしいが、ゾロとルイにはさっぱり話が見えない。

「下がれ下がれ、ドルトンはもう死んだ!」
「ドルトンさんがあれくらいで死ぬもんか!お前達、元部下だろう、なんとも思わないのか!」
「おれ達は国王ワポル様の家来だ!ワポル様の敵に回れば命はない!」

 ワポル様、とは。そういえば昨日遭遇した海賊船の船長がそんな名前だった気がする。そいつらがこの島に上陸しているというのか。

「ウソップ、あの服見覚えあるぜ。あいつら海であった奴らだろ、違うか?」
「ああ……そうだ。」
「じゃあ敵だな、敵だろ、どうなんだ!味方か!?」
「いや……敵だけどなにをそんなに……!」

 その言葉のすぐ後、ゾロの裏拳が黒服の男の頬にめり込んだ。男は吐血をして倒れる。

「な、Mr.ブシドー!?」

 ビビがゾロの後を追う。なにをするかと思うと、ゾロは倒れた男のコートを剥ぎ取った。

「うっはっはっは!あったけぇ!」

 彼が男をぶっ倒したのは、男の着ていた防寒着が欲しかっただけだったのだ。しかし彼の行動に起こった黒服の男達が、こちらに向かって襲いかかってきた。奴を殺せ、と、物騒な雑言をいわれても、ゾロはにやりと笑ってむかえ討つ。倒した男から剣を奪い取り、ばったばったと他を倒していく。

「わたしもやっていい?」
「いいぜ。」

 許可を得てルイも抜刀、ゾロの手助けに回る。船の上で銃を向けられていた時は少し恐れを感じたが、今実際に手を出したらそんなに怖くもなかった。あまり力を出さなくても、ちょっと叩けば気絶する。自分の力を過信しているわけではないが、ゾロがいなくても一人で全滅させられたかもしれない。

「なんだ……終わりか。」

 振り返れば死体、ではなく、気絶体の山。それに、屋根に突き刺さる人もいれば木に引っかかる人もいる。村の人々も愕然としていた。静かになっていた村人達はハッとしてドルトンという男を掘り出しに向かった。

「ありがとう君達!」
「……で?何なんだこの騒ぎは一体。」

 知らずにやっていたことで感謝されているゾロははてなを浮かべるが、村人が喜んでいるならそれで良いかとも思っている。村人達はスコップを手に雪山を掘り起こし、やがてドルトンという男を掘り当てた。その男の心臓には太いやが刺さっている、確認すると心臓は動いていない。村人達は肩を落とした。しかしそこに、

「ドルトンは生きている。」

 見た目からバッチリ医者であるとわかる集団が現れた。

「体が冷凍状態にあるだけだ。」
「我々に任せてくれないか……!」
「”イッシー20”……!!」

 村人達が医者達の出現にざわめく。

「おい、医者いるじゃねぇか。」
「……どうして?」
「もしかして、ワポルの船に乗ってたんじゃねえか!?」
「……じゃあ悪い奴らなの?」

 信用していないのはルイ達だけではなく、村人達もそうだった。しかしイッシー20はドルトンを救いたければ自分たちの言う通りにしろと言う。その心の内には、自分たちは”強さ”にねじ伏せられようとも、医療の研究は常に国の患者たちのためにあると語った。
 村人たちはイッシー20にドルトンの命をたくした。





「山を登りましょ、ウソップさん、Mr.ブシドー、ルイさん!じっとしてなんかいられないわ!さっきの雪崩のこともあるし……。ワポルが後を追ったことも、Dr.くれはが城へ戻ったかどうかも分からない……!なによりナミさんはすごい高熱が……。」
「−−−その上ドルトンも心配でアラバスタも心配か?ビビ、落ち着けよ。お前は何もかも背負いすぎだ!」

 ウソップの言葉にビビはどきりとする。心配ごとを溜め込んでしまうのは性格なのかもしれない。そんな彼女にウソップは、仲間を信じろ、と、諭した。ナミにはルフィとサンジがついているし、なんとかなるだろう、と、彼は笑顔だ。

「ありがとう……ウソップさん。」
「おめぇは山登るのが恐ぇだけだろ。」
「だ……だってな、おめぇ雪男だの熊兎だのいるらしいんだぜ!?」
「初めからそう言えよ。」
「大丈夫!あいつらならなんとかするさ!!」

「ウソップは怖がりだけど、ビビ、肩は少し軽くなったんじゃない?」
「……そうね、ちょっと楽になったかも。」
「よかった。」

「ドルトンさん!無茶だ!!」
「……そこをどけ!今戦わずにいつ戦う!」

 さっきの男−−−ドルトンが息も絶え絶えに家から出てきた。村人も医者たちも彼を止めようとしているが、ドルトンは引こうとしない。

「国の崩壊という悲劇の中にやっと得た好機じゃないか……!今這い上がれなければ、永遠にこの国は腐ってしまうぞ!!」
「……!」

 ドルトンの言葉にルイは胸を打たれる。彼女も過去に自分の故郷が崩壊寸前に陥るという事態に直面したことがあった、まるでその時のことを思い出す。ルイは、ドルトンの思いをしっかりわかっているつもりだ。自分の故郷の出来事とこの国の状況を重ね合わせると、協力しないではいられない。
 ドルトンの心意気に感動したのはルイだけではなかった。ウソップは自分の背中を見せ、ドルトンに乗るよう促した。彼は自分でドルトンを背負って城へ行こうとしたのだ。−−−しかしウソップの体格でドルトンを運ぶのはかなり無理だった。





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