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▼ FUST05

 医者−−−島を探して船は南へ進む。いつからか空は黒くなり、段々と雪が激しくなってきていた。吹雪、島を探すには不都合な天候だ。
 ルイはナミのミリタリージャケットを一着借りて着込み、船の垣立によっかかってじっと正面を見ている。……ようにみせかけて、だいぶウトウトしている。

「おい。」

 見張り台に立つゾロが下に向かって声をかけた。「医者が見えたか?」「医者が見えるかバカ!」とルフィとウソップが返す。ルイははっと目を覚ました。

「おいお前ら……海に人が立てると思うか?」

 ゾロがなんとも非常識なことを言い出した。彼が指差した方向を見ると、そこには、どーんと、人が?立っている。目をこすってもそれは消えない、しっかり人が立っていた。しかし人と呼ぶには少々人間離れしている気もする。

「よう、冷えるな今日は。」

 ルフィとウソップ、ルイはびくっと肩を震わせる、急に話しかけられるとは思わなかった。

「…うん、冷えるよなウソップ。」
「あ……、冷える冷える。すげえ冷えるよルイ。」
「うん、よく冷えてると思う……。」
「そうか?」

 ……。しーんと、沈黙が流れる。次の瞬間、
ゴゴゴゴゴ、ザバアアアアア!と大きな音を立てて、海中から大きな球体な何かが現れた。津波が起きてメリー号が大きく揺れる。

「何だこりゃ!!」
「なんか開いたよ!?」

「まははははははは!驚いたか!この”大型潜水奇襲帆船”『ブリキング号』に!!」

 下品な笑い声が響く。船の垣立には大人数の船員がいて、メリー号にどんどん乗り移ってきた。麦わらのメンバーも戦闘態勢をとろうとするが、相手は銃を構えているため危ない真似はできない。

「おい、どうした。」

 騒ぎを聞きつけたサンジが船内から飛び出す。すぐに敵の銃口が彼に向いた。サンジは冷静にタバコに火をつけていた。

「…で、どうしたって?」
「襲われてんだ今、この船。」
「まあ……そんなコトじゃねえかと思ったけどな……。」
「サンジさん助けてくれます?」
「もちろんですよルイちゃぁん!」

「フム……これで5人か……。たった5人ということはあるめェ……。」

 カバのような生物の毛皮を被った大男が、剣に突き刺さっている肉を食っている、というか、剣ごとガリガリと食べている。見ていて痛い。よく見ると大男の鼻の下と顎が鉄のようなものでできている。もしかして人間ではないのか。

「おれ達は『ドラム王国』へ行きたいのだ。エターナル・ポース、もしくはログ・ポースは持ってないか!?」
「持ってねぇし……そういう国の名を聞いたこともねぇ……。」
「ほら、よう済んだら帰れお前ら。」
「はーあーそう急ぐな人生を。持ってねぇなら、お宝ごとこの船をもらう。」
「なに!?」
「だがちょっと待て、小腹が空いてどうも……。」

 そういうと大男は、大きく口を開き−−−船を食った。ベキッと木の折れる音がする。

「おれ達の船を食うな!!」

 ルフィは目の前の敵を殴った、銃を持っているが御構い無しである。それが合図だというように、場の雰囲気がガラリと変わる。銃口は全てルフィに向いた。

「始めからそうすりゃよかったんだ。」
「なんだ、やっていいのか?」
「死んでも文句言わないでよ!」
「いや待て話せば分かり合える!」

 ルイが女だからだろうか、大人数が彼女にかかってくる。勿論ルイはこんな三下野郎達は腕一本でどうにでもできる。倭刀のみねでばったばったと男どもの腹を殴り、そのまま船の外に落としてやった。
 下っ端はすぐに片付いた。船長らしい大男もルフィに吹っ飛ばされた。メリー号のいたるところが破損、というか食べられたが、航海を続けるには今の所問題はなさそうだ。

 結局一日が終わる頃になっても島は見つからなかった。ナミの指示無しで夜の航海はできないので、今日のところは錨を下ろして船を停めることにした。今夜はみんなナミが心配なので、女子部屋で雑魚寝だ。ビビはナミの寝ているベッドにうつ伏せて、ルイはそのベッドに寄っかかって寝る。男性陣は各々自由に床に寝転がり、大いびきをかいていた。





 次の日の昼、ついに島が見えた。大きな煙突のような山がたくさん立っている”冬島”だ。ルフィは舳先のメリーの上であぐらをかいて、前方に浮かぶ島をじっと見つめていた。

「白いな!雪だろ!雪島だ!!」
「おいルフィ!言っとくがな、今度は冒険してるヒマはねぇんだぞ。医者を探しによるんだ。ナミさんを診てもらったらすぐに出るんだぞ−−−だめだ、聞こえてねぇ。」
「雪はいいよなー……。」
「ルフィ君は雪好きなの?」
「雪は白くて好きだー。」
「わたしも雪は白くて好きだよ。」
「じゃあ同じだな!」

 島は一面の銀世界だ。雪が好きなルフィは寒さも忘れるほどワクワクしている。メリー号は雪解け水の流れる滝の近くに停泊させ、さて、島に上陸だ。

「それで、誰が行く、医者探し。いや……まず人探しか。」
「おれが行く!」
「おれもだ!」

 ゾロの問いに、ルフィとサンジが素早く反応した。ウソップは島に上陸できない病、ルイはどちらでも頑張ると言う。
しかし−−−

「そこまでだ、海賊ども。」
 陸から人の声、ずらりと並んでいる。島に人がいることは一目でわかったが、敵意むき出しに随分危ない雰囲気だ。

「速やかにここから立ち去りたまえ。」
「おれ達、医者を探しに来たんだ!」
「病人がいるんです!」
「その手にはのらねぇぞ!ウス汚ねぇ海賊目め!!」

 嘘をついていないのにひどい言われよう。ルイはかちんときたし、ルフィとサンジもそのようだった。

「おーおー……ひどく嫌われてんなぁ……初対面だってのに。」
「口答えするな!」

 ドウン!と、銃声。サンジの足元に威嚇射撃の弾が落ちる。サンジは額に青筋を立てて、発砲した人めがけて走ろうとする、しかしビビがそれを止めさせようとする。−−−ドウン!2発目の弾が、ビビをかすった。

「……!!」
「お前らぁ!」

 ルイが倒れるビビを受け止めた。ビビはすぐに起き上がり、彼女の仕返しをしようとするルフィに抱きつき、攻撃をやめさせた。

「ちょっと待って!戦えばいいってもんじゃないわ!傷なら平気、腕をかすっただけよ!!」

彼女は土下座する。

「上陸しませんから、医者を呼んでいただけませんか!!仲間が重病で苦しんでます、助けてください!」
「ビビ……!」
「あなたは船長失格よ、ルフィ。無茶をすれば全てが片付くとは限らない!このケンカを買ったら、ナミさんはどうなるの?」
「……うん、ごめん!おれ間違ってた。」

 ルフィはビビの隣に座り、甲板にごつんと頭をぶつけるほどの土下座をした。

「医者を呼んでください、仲間を助けてください。」

 ビビの紳士な態度に心動かされたのだ、そして、戦う以外の方法を今初めて知らされたようだった。

「……わたしたちは『麦わら海賊団』です。アラバスタ王国へ向かう途中でしたが、昨日航海士が40度の高熱で倒れました。グランドライン独特の病気かと思われますが、我々の船には船医がいません。それで立ち寄ったこの島でどなたかお医者様に診てもらいたいのですが。……上陸が許されないのでしたら、どうかお医者様を呼んでいただけませんか。」

 そしてその隣にルイが座り、今の状況を簡潔にまとめて懇切丁寧に言葉を並べる。どうにか医者を紹介してもらえるように。

「……村へ案内しよう、ついてきたまえ。」

「ね、わかってくれた。」
「うん、お前すげえな。」

 さすが一国の女王、である。戦争や争いを避ける手段をよくわかっている。






 ナミはしっかり暖かい格好をして、サンジにおぶさった。上陸するメンバーは、ルフィとサンジ、ナミ、ウソップとそしてビビ。船の番はゾロとルイ、カルーに決まった。
 船を降りたルフィ達に手を振って見送るっていると、カルーがすりすりとすり寄ってきた。体はガチガチと震えている。

「寒がり鳥さんなんだね。」
「グエ〜。」

 アラバスタは砂漠の国で暑いと聞く。そこ出身のカルーにこの冬島はこたえるだろう。体を寄せてくるカルーの羽はすっかり冷えていて、くっつかれるルイにも冷たさを伝えた。ルイは船内から毛布を持ってきてカルーにかけてやる。本当は中に入っていてと言いたいのだが、彼は島に行ったビビが心配なのだろう、どうしても中には入りたくないよう。

「おし、治った。」

 その横で、ゾロが裸足をばしんと合わせて、満足そうに言っている。

「怪我でもしていたの?」
「ああ、2つ前の島で。」

 彼の左足首には深い傷がある。足の裏同士を合わせて叩き、治りぶりを披露しているが、ちょっと走っただけでもぱっくり傷口が開きそうだ。

「何があったの?」
「お前んとこの1つ前の島でろうそくにやられたんだ。」
「ろうそく?」
「ろうそく知らねぇのか?こう……白くて火がな……。」
「それはわかる。」
「そうか?んでろそくにやられて逃げようとして怪我をしたんだ。」
「……わからない。」

 ゾロの説明ではさっぱり伝わってこない。もう鍛錬モードに入っているから、説明が面倒くさいのだろう。

「でもまあ、これでやっとまともな特訓ができそうだ。加減した筋トレにはもうあきあきしてたとこだ。」
「無理して傷ひらかせないでね。」
「わーってる。よしルイ、稽古しねえか!」
「え……寒いから嫌です……。寒中水泳でもすれば?」
「なんだよツレねぇ。まぁ寒中水泳はいいな。」

 ゾロは上着を脱いでカルーに投げた。上半身裸は見ているだけでも寒気がする。彼はしのごの言わずに上陸し、川に飛び込む。ルイも慌てて後を追って上陸した、けが人に川で凍死されては困る。

「風邪ひかないでね。」
「意外と川の方が温度高いぜ。……おっ、こんな冷たいとこにも魚がいるもんか。」

 キンキンに冷えた川の中で小魚が泳いでいるのが見える。ゾロは狩人のように目を光らせ、魚を追いかけ始めた。ルイはそんなゾロを追いかけて川岸を走る。
 どんどん上陸に登っていくうちに、メリー号が見えなくなっているのも気付かずに。

「……捕まえた!」
「やった!夕飯にしようっ。」

 彼の手の中で小さな魚がぴちぴちと体をよじらせている。魚はつるんと逃げて、川に戻って行ってしまった。

「あ……。」
「くそっ、逃げやがって……やっぱり寒いからか、手先が思うようにうごかねぇな。」
「感覚がなくなる前に上がろう?」
「そうだな……。」

 ごごごごご、遠くから低い音。

「ここはどこだ?」
「あ……船が見えなくなってる。」

 ごごごごごごご、先ほどより近づく音。

「その辺にあるだろ?」

 ごごごごごごごごご

「ねえゾロ、変な音がする。」

ごごごごごごご!!!

「っ雪崩だ!!!」

 時、既に遅し。山頂の方からものすごい勢いで雪が落ちてくる。ゾロとルイは必死に逃げるが、大いなる自然の力には勝てず、簡単に飲み込まれてしまった。





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