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▼ 刀剣00

「ルイちゃん、行ってきます!帰ってきたらまた一緒に遊ぼうね――」

 屈託のない笑顔でわたしに手を振る女の子の夢を見る。視界は色褪せ、女の子が遠くなるのに合わせて画面が崩れ去っていく。





 目が覚める。木造の天井が目に入った。ルイはゆっくりと頭を覚醒させて上体を起こした。
 まだ慣れない和室。ルイは大きく伸びをして、のそりと立ち上がった。





 2ヶ月前のこと。
 それはルイが前の仕事を辞めて約1週間後のことだった。

 ルイは自分のミスで「船を沈めてしまい」、それがトラウマとなって塞ぎ込み、とうとう仕事を辞めてしまった。
 元職場は横須賀鎮守府。彼女は海軍の事務員として、鎮守府の舎宅に住み込みで働いていた。

 仕事を辞めて直ぐに舎宅を出る予定だったルイだが、当時の司令長官の配慮で、新しい家や仕事が見つかるまでは鎮守府にいても良いと言われていた。
 毎日後悔でぐったりしっぱなしで、新しい家も仕事も探す意欲のなかったルイの元に、一通の手紙が届いた。三つ折りにされた和紙に、細い筆でしたためられた文章。差出人は幼い頃に2,3度会ったことがある程度の親戚――叔父の線引悟からのものだった。疎遠になっていた親戚だが、名前はよく覚えていた。その人の噂はよく親戚内で耳にしたから。

『風の便りで君の噂を聞いた。人間の人手が足りないので、こちらに来て一緒に働いてくれないか。』

 ルイにはこの手紙の内容だけで、叔父がどんな仕事をしているか大方の察しがついた。
 刀工だった叔父は十何年も前に姿を消し、以後親戚の誰も彼の行方を知らない。この手紙が叔父の書いたものかどうか真偽を疑ってしまう気持ちもあるが、ルイは叔父の行方や職業などを、これで全て理解した。

「どうかな?」

 手紙を届けてくれたのは、黒いスーツを着た隻眼の――眼帯で片目を隠した精悍な男性だった。逓信省の末端の、郵便配達の者ではない。彼はルイが手紙の返事をするまで帰らないつもりで来ていたのだろう。手紙を渡されながら「ここで読んでくれないかな」と言われたのは、この内容のためだったのか。

「……わたしの叔父は……。」
「『姪なら手紙を読んだだけで分かるはずだ』と言っていたよ、俺の主はね。」
「はい、理解しました……叔父は米内先生……長官と同じ……なんですね。」
「ああ、そういう事だよ。どうかな?」
「今のわたしには荷が重いです。叔父がもしわたしの失態を知ってこの便りを出されたのでしたら、それはとても……ひどい事で……。」
「知っていて主は君に手紙を書いたんだ。」

 黒いスーツの男性は肩をすくめ、眉をハの字にして答えた。申し訳ないことをしている、と、理解してくれているらしい。

「だから、うちで療養しないかって。」
「……なるほど、分かりました。……叔父を主と呼ぶということは、あなたも『そう』なんですか?」
「そうだよ。俺の名前は燭台切光忠。よろしく。」
「線引ルイです。……よろしくお願いします。」

 燭台切光忠、と名乗った男性はニコリと笑った。ルイはまだ晴れない表情で燭台切光忠を見上げていた。



 そうしてルイがやってきたのはここ、深い森の中にある瓦屋根の静かな日本家屋。美濃国本丸。
 叔父はルイの予想していた通り『審神者』であった。ルイはここで昨日から『美濃国本丸審神者仕え』として、第2の人生を歩み始めたのであった。





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