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▼ FUST25

「ルイ様、お電話です。」

 召使が電伝虫を持ってやってきた。ルイはちょうど倭刀の手入れが終わったところで、ベッドの上に広げてある布の上に倭刀を置くと、召使から電伝虫を受け取った。

「誰からですか?」
「ルイ様のお知り合いだとしか仰っておりませんでした。」
「グレンかな……?いやまさかここに居るなんて知らないはずだし。」
「あんた問題起こしたんじゃないでしょうね。」

 爪の手入れをしていたナミが顔を上げた。彼女は眉をきゅっと寄せてルイをにらんだ。その目は明らかに「こんな時にいざこざ起こさないでよ」と言っていた。

「問題を起こした覚えはないからなぁ。」
「ま、とにかく聞き流して切っちゃいなさい。」
「いやいやいや、そんな。」

 ルイは電伝虫を持って廊下に出た。ナミがしつこく、切るのよー!というが、さすがに海軍相手にそうしたほうが問題になりそうだ。

「……ルイですが。」
《やっと出たか。時間かけすぎだ、バカヤロウ。》
「……スモーカーさん!?」

 受話器の向こうでスモーカー大佐の怒鳴り声がして、ルイは吃驚して電伝虫を落としそうになった。電伝虫はスモーカーのようないかつい表情になり、こちらをにらんでいる。

「どうしたんですか、急に。よく宮殿にいるってわかりましたね?」
《だいたい見当はつくだろ、ビビ王女の用でここにきたてめェらが宮殿にいることぐらい。》
「……でも、海軍はチャカ殿がどうにか巻いていてくれて……。」
《おれが騙されてたまるか。》
「そうですか……。」
《あァ、心配すんな、今は捕まえる気すらしねェからよ。》
「……用事はなんですか?」
《今アルバーナにいるんだが……お前に渡したい物がある。これから時間とれるか?》
「は……?」

 ルイの脳裏にいろいろなパターンが浮かんでは消えた。普通に何かを渡されるパターン、スモーカーに捕まり連行されるパターン、むしろ海軍に囲まれるパターン、そのまま人質になるパターン。

「……今からですか?」
《都合悪いか?》
「いえ、平気です。」

 不安はあるが、倭刀を持っていれば大抵のことは平気だろう。

「今どこにいるんですか?」
《正門に近い定食屋だ。外にでりゃあすぐわかる。》
「わかりました、すぐ行きます。」
《早くしろよ。》

 がちゃん、と受話器の置かれる音がした。同時に電伝虫が眠りにつく。ルイも受話器を置いて部屋に戻った。

「誰からの電話?」
「スモーカーさんから、渡したい物があるからでてこいって。」

 ナミに問われたので素直に答える。ルイは適当な棚の上に電伝虫を置き、倭刀を鞘に収めて腰布に刺した。ふっとナミのほうを振り向くと、彼女はにやにやと笑ってルイを見ていた。

「……なに?」
「スモーカー大佐とデートってわけね?」
「で、デート!?」
「2人で出かけるんでしょ。」
「だからといってデートとはならないと思うんだけど……。」

 先ほどの話の内容を思い出して、ルイはほおを赤らめた。2人きりだと考えると、デートだと言われても無理がない、気が、する?

「あの男、ルイに執着してるみたいだったし。」
「執着なのか?ただ海賊が許せないってだけだと思うんだけれど……。」
「ほら、早く行きなさいよ。待たせちゃダメでしょ!?」
「ナミが足止めするんでしょーが!」





 さて、城下町の指定された店先、である。看板にはわかりやすく「定食屋」と書いてある。この店で間違いなちのはわかったが、どうも入りづらい。店の雰囲気は関係ない。大佐とデート、などというナミの言葉が頭の中でぐるぐると回って消えないのだ。

「らっしゃーい。」

 思い切って入ると、店員が景気のいい挨拶をしてきた。きょろこよろとやや狭い店内を見回していると、スモーカーと目があった。迷うことなく彼の元まで行って向かいの席に座る。

「よォ……元気そうだな。……いや、そうでもないか?」
「……お腹に穴が2つ。1つは剣で刺されて、1つは銃です。身体中が痛いです。」
「悪かったな、そんな時に呼んで。断っても良かったんだぜ。」
「断らせる雰囲気はありませんでしたよね。」
「……まぁな。」
「それに本当に一瞬でしたけど、あなたはわたしの上司でしたし。」
「本当に一瞬だったがな。」

 スモーカーは自分で注文していた焼鳥の皿を、ずいとルイの前に押し出した。

「食っていいぞ。」
「……いや、共食いだからいいです。」
「……あァ、そうだったな。」

 対して悪く思っていないだろう。彼はねぎまを1つ咥えた。ルイの顔はちょっと青くなる。血の気が引いていくのが分かったが、先ほどまで顔が暑かったのが冷めたと思えば丁度いい。

「で、用事ってなんですか?」
「おう、これ。」

 スモーカーが取り出したのは、4つ折りにされた一枚の紙だった。

「開けますよ?」
「どーぞ。」

 そっと丁寧に開いて、ルイは驚愕。

「……ウォンテッド、デッド・オア・アライブ……『海軍300人斬りのルイ』!?8000万ベリー!?まさか!!海兵300人斬り、海軍大佐及び海軍軍曹を人質に取った疑い……いやいやいや!!」

 渡された紙は手配書だった、ルイの。紙面の中央には彼女の顔写真がついていて、顔から肩までがしっかり写っている。彼女の後ろには大勢の海兵がいる。この写真はスモーカーに捕まった後軍艦の上で海兵を蹴散らした時に取られたのだろう。

「海兵を襲うってのは大きな罪になる……。おれもたしぎもお前に人質にとられた覚えはねェが、書かれたことは簡単には取り消せねェ。」
「そんな……わたしが……手配書……まさか……。」

 ルイは、まさか、信じられない、と、しきりにつぶやき、手配書をじっと見つめていた。

「これからいろんな賞金稼ぎがお前の命を狙いに来るだろうな。」
「8000万ベリーなんてそんな、ありえないです……。わたしが今まで倒してきた奴らだって最高で5000万くらいの……。」
「なんだお前、賞金稼ぎでもしてたのか?」
「ええ、ルーザーアイランドってご存知ですか?あそこで。」
「はー。確かにあの島からは時々海賊が送られていたな。お前だったのか。」

 ルイはテーブルの上につっ伏せる。頬の下に自分の手配書をしいて、じっとその内容をぼんやり見つめていた。

「……スモーカーさんはこのままわたしを捕まえますか?」
「……いや、今は、まだ。ここでお前を捕らえたら、アラバスタ王族が黙ってなさそうだ。権力に屈したりなんかはしないけどよ。」
「ありがとうございます……?」
「……。」
「……。」
「大丈夫か?」
「……。」
「……聞こえてねぇか。」

 確かに海軍相手に大暴れをしすぎたなと今になって思った。ナミが「海軍と問題を起こすな」と言っていたのはこういうことだったのだろうか。

「眉間にシワが寄ってるぞ。」
「……。」
「……ハァ……。」

 さすがの海軍大佐もお手上げだった。




 男の優しさのようなものを見せて、スモーカーはルイの分のお代も支払った。ルイはいつもはピシッとしている背中を丸めて、ふらふらと歩いている。さすがのスモーカーにもかける言葉がない。

「では、わたしは宮殿に戻ります。教えてくださって、ありがとうございました。」
「おう。なんかあったら相談しろ。」
「いいんですか?海賊なのに。」
「個人的にな。」
「優しいんですね。」

 へへ、とルイは力なく笑う。敵対する同士だというのに、気に掛け得てもらえて素直に嬉しい。しかしスモーカーの立場もあるので、彼を頼るわけにもいかないと思う。

「ま、おれがお前らを捕まえるまで、せいぜい無事に生き延びろよ。」
「いつまででも生き延びてみせますよう。」
「はは、それでこそだな。じゃあまた会おうぜ。」

 スモーカーはルイの横をすり抜けて去っていこうとする。

「スモーカーさん!!ありがとうございました、アラバスタでは、たくさんお世話になりました!!」

 ルイは未だせる精一杯の大声で、スモーカーへのお礼を叫んだ。彼はちょっとだけ振り返りかけるとすぐに前を向き、ひらひらと右手を振りながら人混みに紛れ、見えなくなってしまった。





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