▼ FUST20
鍛錬を怠っていたわけではないので、余裕で勝てなくて素直に悔しい。初めて悪魔の実の能力者を相手にして、とまどったのもあるが。言い訳を考えればいくらでも出てくる、しかしそんな言い訳を考えている暇はない。動かなくなった体のそこで、ふつふつと怒りだけが煮えたぎっていた。
「サンジさん。」
ルイ−−−のふりをしたデイ・オフが、建物からふわりと飛び降りた。
「ああんルイちゃん!心配したよ!」
「少し手間取った。ちゃんと倒してきたから平気。」
「ルイ……おれとチョッパーもやったぜ……Mr.4とクリスマスってやつを倒したんだ……!」
「!!そうか……。」
デイ・オフは思わず唇を引き締める。サンジたちはそれに気づくこともなく、ただルイの生還と的の撃退を喜んでいた。
「3人とも無事でよかった。」
「よ……よし、他の奴らを探しに行こうぜ。」
「残りはMr.1のペアか……ビビは大丈夫かな。」
「……?」
Mr.4とクリスマスにこのサンジたちがあったというのなら、残りのMr.1のペアには本物のビビたちが会った、ということになる、のでデイ・オフはそう思った旨を口にしたのだが。
「あいつらにかなうはずがない。早く援護に行かないと。」
「……ルイちゃん、Mr.1に会ったのか?」
「……!あ、さっき、な。」
サンジの表情が硬くなった。ルイの言動におかしなところがぽつぽつと見えた。
「じゃあまず、隠れ家に急ごうか。」
彼はどうも不審な様子を見せるルイにカマをかけてみた。本物のルイなら、正しい答えをするはず。隠れ家、なんていうものは存在しない。ウソップとチョッパーがそれについて何か言おうとしたが、サンジは手を出して止めさせた。
ビビをバロックワークスのメンバーに合わせないようにする作戦を立てたというのに、なぜルイはMr.1と会っただろうと予想するのだろうか。
「そうだね。」
「……!!」
サンジとマツゲがバッと後退し、ルイから距離を置いた。ルイの返事はおかしかった、話を合わせていただけのデイ・オフは頭にはてなを浮かべる。
「……どうしたの?」
「……ルイちゃんはどこに行った?」
「……。」
「サンジさん!ウソップ!チョッパー!!」
「え!?」
「そいつは偽物なの!!騙されないで!」
「……まだ生きて……!」
突然上空から現れたのは、本物のルイ。事情を知らないサンジたちは驚くばかりだ。本物のルイは重力に任せて落下し、倭刀をデイ・オフめがけて振り下ろした。デイ・オフは舌打ちをしてバック。2人のルイが対峙する。全く同じ姿だが、ただ本物の方が血だらけである。
「どういうことだ……ルイが2人……!?」
「ボン・クレーは倒したはずだぞ!!」
「だまされるなっ、こいつは偽物だ!!」
叫んだのはデイ・オフの方。
「お前はわたしを殺した気だったみたいだけど、思い上がりが早かったね。」
ルイの傷口はもちろん塞がっていないが、血はかろうじて止まっていた。いたるところから鈍痛がするのを我慢して、彼女はどうにか復活したのだ。
「……ルイちゃん、君が本物だっていうなら証明してくれ!」
「これが証拠!!」
デイ・オフは腕をまくり、巻いてある包帯を見せつけた。
「これでいいよね!?」
彼が同意を求めても、サンジたちは気を許さない雰囲気だ。デイ・オフはウソップやチョッパーもしていたこの包帯に気づいていたが、その本当の意味まではわかっていなかった。
「そっちのルイちゃんは?」
ルイも同じように腕をまくって包帯を見せると、それを乱暴に外した。
「仲間の印。」
腕に書かれているのは、確かに船の上で書いたバツ印だった。ウソップとチョッパーの顔はぱっと明るくなった。サンジの頬もわずかに緩む。
「なに……!」
「残念だったねMr.2デイ・オフ。わたしは殺し損ねるし、仲間は騙せないし!」
「−−−ブラインド!!」
苦し紛れの閃光が、4人の目をくらませた。デイ・オフはウソップめがけて倭刀を振り下ろす。しかし何度も同じフラッシュを食らったおかげで早く目が慣れるようになったルイは、彼の手にある倭刀を自分の倭刀で弾き飛ばした。
「一撃で決めてやる!『天空』!!」
ルイはその場で大ジャンプをし、落下速度が加わり殺傷能力が格段に上がった倭刀を、デイ・オフの腹に突き刺した。
「……ぐううう!!!」
デイ・オフはその場にばたりと倒れると、起き上がることができなかった。ルイは海楼石の指輪を取り出し、彼の喉元を抑える。力の抜けたデイ・オフはもう反抗はしてこなかった。喉元から変身が解けて、彼は元の姿に戻る。
「サンジさん、この人縛っておいてくれますか?」
「ああ。」
サンジは荷物の中から縄を取り出すと、デイ・オフを簀巻きにした。
「……ぐ……きさま……おぼえてろ……。」
「いやだよ、わたしに勝負を挑んだあなたが悪い。再戦の申し込みは受けないの。−−−さ、スモーカーさんたちがこいつを見つけてお縄にしてくれるのを期待していきましょ。」
「そ、それよりルイちゃん、その出血、大丈夫なのかい……。」
「あ……。」
ルイはためらいなく、べらっと自分の服をめくった。サンジの目が一瞬ハートになったが気にしない。腹部は血がべっとりで、明らかに切られたことがわかる。
「チョッパー、手当お願い。お腹貫かれちゃって今とんでもないことになっているの。もしかしたら胃に穴が、」
「ええええええ!!!!!医者あーーーーー!おれだーーー!!!!」