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▼ FUST15

 部屋を出るために邪魔になっているバナナワニたちは、ルフィとゾロが全てやっつけてくれた。水はすでに腰まで上がってきていて、ギリギリセーフというところだろうか。ルフィとスモーカーはぜいぜいと肩で息をしていて、浸透している水がだいぶキツいのだとよく伝わってくる。男どもが大暴れしたせいで、ガラスにひびが入る。もろくなったそこは簡単に穴が開き、どばどばと水がなだれ込んできた。通るべき通路も砕けて落ちて、水が流れてくる。

「脱出だ!脱出するぞ!−−−うわあああ!!!」

 ルフィに津波が襲いかかる。頭から水をかぶった所為で彼はすっかり力を発揮できなくなってしまった。

「ルフィ!!」

 サンジがルフィの首を掴み、水から引き上げる。

「スモーカーさんっ!」

 ルイはハッとして現上司の安否を確認するため振り返る。案の定、スモーカーも水をかぶり立ち上がることができなくなっている。

「……っ、ルイ!」
「今助けますから!!」

 そう言って腕を引っ張るが、スモーカーの体重を一人では支えきれない。

「ゾロ!助けてっ、スモーカーさんが溺れてしまう!」
「あぁ!?こいつは敵だぞ、放っとけ!」
「でも今はわたしの上司だし、わたしはこの人のお蔭でみんなにまた会えたの!お願い!」
「おいゾロ!ケムリンも助けろ!」

 ルイに続いて、ルフィもスモーカーを助けるようゾロに頼んだ。真っ直ぐで馬鹿正直な彼も、スモーカーは海軍とはいえども、ここでみすみす見殺しにはできないのだろう。

「放っといたらお前!死んじまうだろ!カナヅチなんだぞ!」
「いや……そりゃわかってるがよ……。」
「ゾロ!ルフィ君の船長命令だよ!逆らうの!?」
「……こういう時ばっかり調子に乗りやがって……!今回だけだ!」

 不本意ながらもゾロはスモーカーを引っ張り上げてくれた。

「!!……ありがとう!!」

 ついに壁は全壊、四方八方から水が流れ込み始めた。サンジはルフィを抱え、元は窓だった場所まで泳いで出て行った。ビビとナミは、岩に頭をぶつけて気絶したウソップを連れ、ゾロとルイは泳げないスモーカーを連れ、それぞれサンジの後を追って逃げ出した。





 ざばあん!と激しく水面に顔を出す。レインディナーズの裏手だった。

「オイ、生きてるか?ルフィ!!ったく、能力者ってのは厄介なリスク背負ってんな。」

 ルフィはぶーっと水を吐き出す。ぜいぜいと荒い呼吸だが、無事に生きているようだ。

「ウソップさんしっかり!」
「まったく何やってんのあんた!?しっかり泳ぎなさいよっ!」

 ナミとビビも無事生還。ただウソップはぼろぼろで、たんこぶは出来ているし、花を引っ張られていたそうだし、散々だ。

「……く!」
「っスモーカーさん!」
「 ガハッ!」

 ゾロとルイもスモーカーを連れて上陸。スモーカーは飲んでしまった水を吐き出し、苦しそうにむせていた。

「うわっ!スモーカー!おいおいゾロ、てめぇ何敵連れてきてんだよ!」

 まさかスモーカーも連れてきているとは思っていなかったサンジはびっくり。

「うるせぇ、不本意だよ!……どうせくたばり損ないだ。」
「サンジさんごめんなさい、わたしが無理を行って助けてもらったの。」
「ルイちゃ〜んやっぱり優しいなぁ!」
「ああ本当にな、てめぇもルフィもみすみす敵を助けるよーなマネしやがって……。」
「ごめんなさいってば。」

 嫌味ったらしく言うゾロに対し、ルイはシュンとうつむいてからそっぽを向く。サンジは「ルイちゃんを責めるんじゃねぇ!」と、さっきとはえらく態度を変えて怒っていた。危なく喧嘩が始まるところだったが、ナミの鉄拳が制裁をくわえた。


「……とにかく先を急ごう!……だいぶロスしちまったな、ビビちゃん、間に合うか!?」
「わからない……。」

「ロロノア!!」

 麦わらの一味が先を急ごうと立ち上がった瞬間、意識をはっきり取り戻したスモーカーは十手を抜き、ゾロに突き刺そうと腕を伸ばした。ゾロは刀を抜き、その樋で十手を受け止める。

「……何故おれを助けた!」

 スモーカーのその言葉を後ろで聞いていたルイは眉をぎゅっと寄せた。命を助けてもらった相手に対し、なんてことを言うのだろうと。今の言葉は、彼を助けようとしたルイにそのまま突き刺さる。ゾロはどうかは別として、本心から助けたいと思っていた彼女にとっては不本意すぎる。しかし考えてみれば、敵である海賊……しかも、追っていた相手に命を助けられるなんて、海軍としての矜持を傷つけられることなのだろう。そうと気づいても、ルイはなお眉毛を寄せたまま。

「船長命令と仲間の願いを、おれは聞いただけだ。別に感謝もしなくていいと思うぜ?ルフィが気まぐれで、ルイが上司思いなだけさ、気にすんな。」
「……じゃあ、おれがここで職務を全うしようと……文句はねぇわけだな?」
「見ろ……!言わんこっちゃねぇ。海軍なんか助けるからだ!」

 サンジの言うことはもっともなことだ。しかしルフィは、もちろんルイも、きっとゾロも、スモーカーを助けたことを後悔はしないだろう。

「いたのか麦わらの一味が!」
「ああ、今スモーカー大佐もその場に居る!」

 近くにいた海兵たちが騒ぎを聞きつけて集まってきた。通りは慌ただしくなり、ばたばたと海兵が集まってくる。この場にこれ以上の長居はできない。
 スモーカーの十手が再びゾロの腹の横を抜ける。1寸ずれていたらゾロの肋骨に突き刺さっていた。ルイはゾロの腹と腕の間に入った十手をなぎ払うように刀を振るい、十手ごとスモーカーを飛ばした。

「ルイ!なんのマネだ……!!」
「スモーカーさんの探していたルフィ君はこうして見つけられたわけですし、もうそろそろいいかなって。」
「裏切るのか!?」
「裏切りなんてそんな!契約破棄の方向で!」
「……チッ!」
「スモーカーさんは理想的な上司で大好きですけれど、わたしにはやりたいことがあるんですよ。」

 ルイは倒れているルフィの後ろに隠れるように後退し、ひらひらと手を振った。

「ッアーシ!!野郎ども、アルバーナへ一目散だっ!!」
「クロコダイルはどこだーっ!!!」
「あ、気がついた。」

 やっとウソップとルフィが目を覚まし、どどーんと立ち上がった。

「うおっ!けむりっ!やんのかお前!!」
「ぐあぁ!スモーカー!おいルフィやめとけ逃げるぞ!!」

 ぐっと拳を作って対戦モードのルフィと、止めろとなだめるウソップ。スモーカーは、ルフィが何を考えているのかさっぱりわからない、こうして自分を助けたという行動が理解し難く思っている。

「……。」

 こっちだ急げ、と、海軍の声。

「……行け。」

 スモーカーはそう言って、どさりと座った。

「ん?」
「今回だけだぜ……おれがてめぇらを見逃すのはな……。次に会ったら命はないと思え、麦わらのルフィ。」

 彼は十手を置き、攻撃する気は全くないと言った態度。今回はあくまで譲歩だ、スモーカーは諦めたわけではない。ルフィはにしし、と笑って、それじゃあとトンズラ。麦わらのメンバーもスモーカーを気にしながらもルフィの後を追った。

「スモーカーさん。」
「……なんだ、行くんだろ。次会った時はてめぇも捕まえる。一瞬とはいえ部下にはしたが、結局は海賊だ。」
「そうですね、わたしはもう海賊です。でもスモーカーさんやたしぎさんといるのも楽しかったですよ。今度手合わせしましょうね。」
「はっ……呑気なこと言ってんじゃねぇ。−−−手ぇ出せ。」
「手?」

 ルイは言われたまま素直に片手を出した。こうして疑うこともなく手を出すあたり、こいつも麦わらと同じ馬鹿が付く正直だな、と、スモーカーは苦笑い。そして彼は一枚の紙をルイの手に乗せた。4つ折にされた小さい紙、ルイが広げてみると、そこには数字の羅列。

「これは?」
「電伝虫の番号だ。何かあったら連絡よこせ。海兵になりたいっつうんなら考えてやる。」
「……ありがたく頂いておきます。」
「もう用事はない、とっとと消えろ。」
「はい!」

 ルイもルフィを追って走り始めた。アルバーナに向けて、再出発である。





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