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5.父の知る男


 アフタヌーンティーには遅いが、ジョージはセオとヴァントーズをテラスでのお茶に誘った。セオはジョージが振舞ってくれる紅茶が好きだった。彼の紹介する貿易品の紅茶は美味しいし、外国で作られた様々な茶葉はとても興味深い。

「ジョジョ、ディオを呼んできてくれ。」
「はい、お父さん。」

 ジョナサンは執事と共に、先に客間を出て行った。セオはそう言えば、と思い出す、ディオがジョースター家の養子としてこの家に住んでいるのだった。それを知らないヴァントーズは、ディオ?と言って首を傾げる。ジョージは後で紹介するよと笑って言った。

 広い庭の見渡せるテラスである。メイドの女性が紅茶と茶菓子を用意して待っていた。柔らかそうなマドレーヌとつやつやしたフロランタン、どちらもセオの心を掴む。
 3人が椅子に座るのと同じくらいに、ジョナサンがディオを連れて来た。ディオはセオと知らない男がいるのを見つけて丁寧にお辞儀をする。

「こんにちは、セオ。と、お父様?」
「こんにちは。そうだよ。」
「ヴァントーズ、紹介するよ。この子はディオ・ブランドー。最近を両親を亡くしたので我が家で引き取ることにしたんだ。」

 ジョージはディオの背を押して一歩前に出させ、ヴァントーズに紹介する。ディオはもう一度頭を下げた。

「ブランドー・・・?」

 ブランドー、と聞いて、わずかにヴァントーズの眉が寄る。セオはそれを見逃さない。ディオのファミリーネームがどうしたというのか、彼女には分からないが、ヴァントーズには思い当たるものがあったらしい。

「君の思っている通りだ、私は恩返しにとディオを引き取った。」
「・・・そうか、ジョージ、君がそうしたのならば。」
「ヴァントーズさん、よろしくお願いします。」
「ああ、よろしく。娘共々な。」

 ジョージとヴァントーズは納得したように頷き合うが、結局のところセオには何の事だか分らなかった。ディオはジョージの隣りに腰かけ、メイドの淹れる紅茶を受け取った。今日の紅茶はシナモンの香りが強い、インドの物らしい。お菓子でしか味わったことのないシナモンだが、こうやって紅茶で味わうのも良いものだと思った。

 テラスで話題に上がったのは、学校の事やそれぞれの親の仕事の話、いつもと変わらない雑談だった。ちょっと話しこんでいるうちに太陽が遠くの山にくっつき始めたので、ヴァントーズは、そろそろ、と言って立ち上がった。

「長く引きとめてしまってすまなかったな。」
「いいや、こうやって久しぶりに話が出来て良かった。また今度ゆっくり2人で話をしよう。」

 テラスにいた全員で玄関まで移動する。外にはセオ達を家まで送るためのジョースター家の馬車が待ち構えていた。セオ達が遊びに来ると、わざわざ遠い所までやってきてくれたお礼として、ジョージは2人を馬車で送ることにしているのだ。セオとヴァントーズはお礼と別れのあいさつをしてからそれに乗り込んだ。乗った後のヴァントーズは真っ直ぐ進行方向だけを見ていたが、セオはちらりと振り返ってジョナサンとディオに手を振った。2人も振り返してくれたのを確認してセオも前を向く。ヴァントーズはセオが前を向いたのを横目で見ると、彼も頭を少しだけ動かして後ろを確認した。

「・・・セオ、ディオくんとはよく話すのか?」
「まだ知り合って日が浅いのでそうでもないです・・・けど、どうかしましたか?」

 セオはヴァントーズの顔色をうかがう。彼の声はいつもと違い低かった。あまり聞きなれない深刻そうな声色に、なにかあったのかと不安になる。

「ディオくんの父親は・・・そう、ジョージの命の恩人だった。崖から馬車で転落したジョージと、まだ赤ん坊だったジョナサンくんを救った。」
「ジョナサンのお母さんが亡くなった事故?」
「そうだ。妻は亡くしたが、自分の息子を救ってくれたダリオ・ブランドーという男に、ジョージは恩を感じている。当たり前の話だがな。」

 昔ジョナサンやヴァントーズから聞いたことのある話だった。雨で地面のもろくなった崖から、ジョージ達家族の乗っていた馬車が転落した事故。その事故でジョナサンは母親を亡くしたが、助けてくれた人がいたおかげでジョージとジョナサンは助かった、という。ジョナサンは知らなかったのでそうなのだが、ヴァントーズは今まで誰が助けたのかというところまではセオに話したことはなかった。その恩人が誰なのか、今日セオは知ることができた。ダリオ・ブランドーという、ディオの父親である男だった。
 しかし何故恩人の息子を引き取ったことに対して、ヴァントーズは深刻な表情をするのだろうか。ジョージは紳士として当然するべき事を果たしたのだというのに。

「そのダリオ・ブランドーという方が、ディオくんのお父さんなんですね。それでディオくんはジョージおじさまに引き取られて・・・。それがどうかしたのですか?」
「ダリオ・ブランドーは物盗りをする男だった。重傷を負ったジョージからも金品を奪おうとした。一度牢屋に入れられたが、ジョージの計らいによって罪に問われることはなかった。」
「それは恩人だから?」
「ああ。ジョージのやったことが正しいかどうかは分からない、恩返しだとしたら良いのだろうが、悪人をみすみす世に放つというのは私には感心できない。」
「でもディオくんはそのこととは関係ないはずです。」

 ヴァントーズが何を言おうとしているか、セオはなんとなく察した。悪人であるダリオ・ブランドーの息子であるディオ・ブランドーもそろって『そう』なのかもしれないと、そう言っているような気がする。しかしセオにそれは納得できなかった。父親が悪人だとしても、ディオ自身がそうだとは言えない。現に彼はちょっと恐い印象は受けようとも、素行の悪い噂は聞かないし、むしろ行儀の良い人間に見える。

「もちろん関係ない、しかしな、ジョージのような紳士は一生『命の恩人』を背負って降ろさないような気がしてならない。それはかなりの重荷であるはずだ。」
「あ・・・お父さんはディオくんが悪いというのではなく、ジョージおじさまを心配して・・・。」
「そうだ、ディオくんはディオくんで悪人だなどとは言わない。ただ、ジョージが心配なだけだ。」
「勘違いしそうになりました。」

 ジョージが家を乗っ取られそうになるまで『命の恩人』に感謝し続けないか、それが心配なのだとヴァントーズは言う。本人ダリオの死後でも、ディオのためにとジョージは努力をするのだろう。

「変な話をした、すまない。セオは今の話に悩まずディオくんとも仲良くしなさい。」
「はい、もちろんです。」

 人を親の素行で判断するつもりはない。ディオとはまだ出会って1週間もたたないのだ、ディオ自身がどういう人なのかは関わっていくうちに分かるだろう。学校でのクラスは違えども、ジョナサンを通して会う事は多そうだ。セオは改めて、ディオとも仲良くやっていきたいと思った。






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