trance | ナノ



4.隠れた努力


「いらっしゃいませヴァントーズ様、セオ様。」
「こんにちは、お邪魔します。」
「お邪魔します。」

 日曜日、ジョースター邸、である。いつもお世話になっている初老の執事が、セオとヴァントーズを出迎えてくれた。彼はヴァントーズが抱えている荷物を代わりに持ち、いつものように客間へ案内する。

「ヴァントーズ、セオ、ようこそ。久しぶりだな。」
「ジョージ!今日はありがとう、突然の訪問になってすまない。」
「ジョージおじさまこんにちは。」

 客間には先にジョージ・ジョースターが居て、2人の来訪を待っていた。執事はヴァントーズの荷物をテーブルの上に置き、彼らの為に椅子を引いた。ジョージもテーブルに戻り、ヴァントーズの荷物を興味深そうに見つめる。

「この間、家に飾る壺が欲しいと言っていただろう?チャイナの良い物が手に入ったんだ。うちの博物館には必要ないということで、私が買い取ったんだが。」

 ヴァントーズが荷物の包みをはずすと、中から木箱が現れた。その表面にはセオの見たことのない言語が書かれてある。木箱には緑色の紐が四方にかかっていて、ヴァントーズはそれを丁寧に解き、中の壺をゆっくりと取りだす。美しい彩色の壺だ、セオの目にも立派なものだと分かる。

「唐三彩か、この鮮やかさは目をはるな。」

 ジョージは白手袋を身につけ、大事に壺を持ち上げる。ひと目で気に入ったらしく、彼は笑みを浮かべながら壺の隅々まで眺めた。
 セオはそんな2人の様子を見ながらも、そわそわと時折扉の方へ目をやった。大人の話よりは、ジョナサンの方が気になる。早く話が終わってくれないかなと待ち遠しく思っていた。

「旦那様。」

 そんなセオに気付いたのは執事だった。なんだと返事をするジョージに、セオの方に注意を向けてもらう。するとジョージはセオの様子から執事の言いたいことに気づき、なるほどと言う。

「セオ、ジョナサンなら部屋にいるよ、会いに行ってくれるか?」
「よろしいのですか?」
「もちろん、ここで話を聞いているよりは早くジョナサンに会いたいだろう。」
「行ってきます!」

 セオはぱっと立ち上がると、ジョージとヴァントーズにぺこりと頭を下げ、急いで客間を出て行った。ジョナサンの部屋は2階だ、つかつかと急ぎ足で階段を上がり、目的の部屋の前でぴたりと止まる。控えめにノックをすると、部屋の中からジョナサンの返事がきた。そっとドアノブをまわして、扉の隙間からちょっとだけ顔を入れる。

「ジョナサン。」
「セオ!来ていたのかい!」
「うん、気付かなかったの?」
「勉強に集中していて。」

 ジョナサンは自分の机の上を指差して苦笑いをした。そしてセオの方に寄り、扉を大きく開けて、彼女を部屋に招き入れる。前に来た時とあまり変わっていない部屋。ソファの上には学校に行くときに使っている鞄が置いてあって、その中身は勉強机に広げられていた。

「宿題が難しいの?」
「いいや、宿題は終わったんだけど・・・父さんから出された課題があって。」

 机の上には学校で使っている数学の教科書の他に、セオには学校で見覚えのない問題集があった。赤いインクでバツが沢山ついている、よっぽど難しい問題らしい。解き方分かる?と言って差し出された問題集、セオはなんとなく解き方はこうだろうとまでは分かったが、実際に計算すると時間がかかりそうに思えた。

「・・・これ、ディオは全問正解したんだ。それで悔しくて一生懸命考えたんだけど。」
「そうだったのね・・・わたし分かるかも知れない、一緒に解こう。」
「いいの?せっかく遊びに来てくれたのに。」
「いいのいいの、だってジョナサンに会うっていう目的は達成したんだし。」
「じゃあお願い!あ、言うのは答えじゃなくてヒントだけだよ。」

 ジョナサンは道具を勉強机から大きめの丸テーブルに移す。彼とセオは向かい合って座り、早速問題に取り組み始めた。改めて問題を見てみると、かなり難易度の高い応用問題だった。ちょっとした気づきがあればなんとか解くことが出来そうだが、ジョナサンはそれに気付けなかったらしい。セオは気付いた点をジョナサンに小出しにして協力する。
 セオの協力のおかげでジョナサンは順調に問題を解いていた。セオはふと思う、元々立派な紳士を目指していたジョナサンだが、ディオというライバルが身近に現れて、より自分を磨くチャンスに出会えたのではないかと。今のように、彼よりも勉強のできるディオに触発されているのが良い例だ。

 1時間ほど経ったらしい、柱時計が16時を知らせる。ジョナサンの問題集、開かれていたページには計算式がびっしりと書き込まれた。セオの手助けもあったのだが、彼女が来てからのジョナサンの集中力はとても強かった。セオに良いところを見せたいと思ってたがんばったのだ。

「ありがとう、セオ!これ父さんに見せてくる!」
「あっ待ってわたしも行く!」

 ジョナサンとセオは部屋を飛び出し、客間に向かった。客間の扉をノックすると、中にいた執事がどうぞと開けてくれる。
 ヴァントーズの持ってきた唐三彩の壺は木箱にしまわれていて、テーブルの上に何冊かの本が広げられていることから、ジョージとの話は終わったことが分かる。ジョナサンは失礼しますと言ってジョージに近寄り、問題集を差し出した。ジョージはジョナサンによくやったと言い、後で採点をすると本を受け取った。






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