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1.片親の少女


 夏。
 イギリス、そのとある街の、周りと比べるといくらか立派な一軒家、である。ここに住んでいるのはセオ・フロレアールという最近13歳になった少女と、その父のヴァントーズ・フロレアールだ。娘の方は学校へ通い、父の方は国内で最も大きい博物館で働いていた。
 セオに母親はいない、セオが幼い時に流行病で命を落としてしまった。だから親子2人だけで暮らしている。母親がいないことに特に不自由はしていない。料理は親子共にできるし、日中はどちらも家に居なかったので、必要なことは家に2人が揃っている朝か夜に済ませることができてきた。

「セオ、今日学校でジョナサンくんに会うかな?」
「ジョナサン?ええ、会いに行けば会えます。」
「じゃあ、週末にジョージに会いたいんだがと訊いておいてくれないか?」
「わかりました、週末・・・日曜日ですね?」
「ああ。」

 セオとヴァントーズには、共通して友人をもつ一族があった。それはあの有名なジョースター家。セオは同い年のジョナサン・ジョースターと同学年、ヴァントーズはジョナサンの父ジョージ・ジョースターと仕事柄よく会う事があった。セオはヴァントーズについて行ってジョースター家をよく訪れる、のでジョナサンとは仲が良かった。
 ヴァントーズは博物館で働く傍ら、骨董品を扱う商売も細々とやっていた。とはいっても、たまに彼に骨董品を売ってくる人が居るので、それを買い取って別に欲しい人を見つけて売るくらい。ジョージ・ジョースターはそんなヴァントーズとよく古い物の話をしていた。

「では行ってきます、今日もいつもと同じ時間に帰ってくる予定です。」
「ああ、行ってらっしゃい。私も定時で帰るつもりだ、夕飯は何にしようか。」
「お父さんが食べたいものでいいですよ。」
「じゃあ決めておく。」

 行ってきます、と元気に叫んで、セオは家を飛び出す。彼女には大きく重たい扉を開けると、目の前は大通りで、朝から職場や学校に向かう人で溢れていた。セオの学校はここからわりと近い、一時間目が始まるまでには余裕で到着する。






 お昼休み、である。お弁当を持ち、いつも一緒に昼食をとる友達に今日はごめんと断ると、セオはジョナサンのクラスに彼を探しに行った。同じ歳の生徒が多いので、2つのクラスに分けてられている。クラスとクラスには学力や身を置く階層などの差は特になく、ただ単に入学志願をした順に1と2に分けられているらしい。学校自体は貴族や富裕層だけが集まっているのではなく、近くに住んでいる子たちみんながここに来ている。

「あの。」

 教室の入り口に座っていた男の子たちに声をかける、よく見るといたずらで有名な子たちだった。セオは一瞬身を引いたが、ここで弱気になると付け入れられそうだと思ったので態度は崩さない。

「なんだ?」
「ジョナサン・ジョースターいる?用事があるんだけど。」
「・・・なんだ、ジョナサンに告白か?」

 一人の男の子がにやにやしてセオに言う。そうすると周りのみんなも笑い出した。セオはなんとなく気分が悪い。ジョナサンを好き嫌いで判断すると好きの部類なのだが、特別告白するかと言われればそこまででもない。のは置いておいて、こういうからかい方が彼女は気に食わなかった。

「そうじゃないけど用事があるの。いる?」

 なので無視をした。怒るわけでもなく、焦るわけでもなく、ただそうじゃないとだけ断っておけば問題はないだろうと思った。予想は当たって、男の子たちはセオの反応が面白くないと言った風に、あからさまに不機嫌な顔をした。そしてその中の1人が教室の奥に向かって、ジョナサン、と彼を呼んでくれる。
濃紺の髪の毛が揺れるのが見えた、教室の奥から、すらっと背の高い男の子が近づいてきた。

「ジョナサン。」
「やあセオ!どうしたんだい、僕に用事?」
「ええ、お父さんから伝言で。よかったら一緒に中庭でお昼にしない?」
「行く!ちょっと待ってお弁当取ってくるから!」

 セオの誘いに、わあと笑顔になるジョナサン。彼は急いで教室に弁当を取りに戻った。
 ちらと男の子たちの方に目をやる。ジョナサンと話をしていたさっきまではにやにや笑ってこちらを見ていたのだが、セオではなく彼女の父親の用事だと分かると、急に興味をなくして彼らのお昼に戻っていた。






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