trance | ナノ



VSスカーレット2


 フィラデルフィア、街中の公園である。SBRレースを終えたとある日、セオとディエゴはベンチに並んで座り、昼食のサンドイッチをほおばっていた。なんとなく2人はレースの余韻を楽しみたいと、コース場にある街であるここを訪れていた。

「・・・セオ、頬にパンくずがついているぞ。」
「え、あ。」

 ディエゴはハンカチでセオの頬をさする。セオは照れながらもされるがままに頬を拭いてもらった。2人の間にほんのりと暖かい空気が流れる。関係で言えば恋人同士なのでその通りなのだが、珍しく恋人同士らしい雰囲気が生まれた。

のだが。

 それを打ち破るのは女性の声。

「セオッ!!」

 道の向こうから駆け寄ってくるのは大統領夫人・・・スカーレットだ。そして、彼女に引っ張られてくるのはスティーブン氏のところのルーシー。セオとディエゴの顔が引き攣った。
 スカーレットはセオに寄り、彼女の手を取ってぎゅうと握りしめた。久しぶりね、と、嬉しそうな甘い声。いつだったかのやり取りがフラッシュバックして、セオは背筋が凍った気がした。

「お、お久しぶりです。」
「また会えて嬉しいわあ。・・・あら、ディエゴ・ブランドーもいるの。」
「帰ってくれ。」

 スカーレットとディエゴがにらみ合う。その間で2人に腕を取られるセオは、こんな話が聖書にあったなぁなんて考えていた。確かあれは母親2人と子供だった。
 何をしていたところかと訊くと。今日はスティール氏からルーシーを借りて、2人でお散歩をしていたのだと答えられた。たまには女同士で楽しくおしゃべり、というが、スカーレットにはそれ以上のなにかよろしくない欲望があるのは明確だ。スティール氏もそれを悟っていたのか、今日はスカーレットの護衛の他にルーシー専属の護衛もいる。護衛同士の壮絶な争いにならないことを祈る。

「ねえ、セオも一緒にどうかしら?買い物したりケーキを食べたり!・・・もちろんディエゴ・ブランドーは放っておいてね。」
「お前にセオはやらない。」

 まさに『両手に花』を体現してみせるスカーレット。片手はルーシーの手、もう片手はセオの腕を掴んでいる。もちろんその花を持つ彼女自身も美しい花なのだが。
 なんとかスカーレットをまけないかと考えるセオ。うーんうーんと頭を悩ませる。女の子同士のおしゃべりは楽しくて大好きなのだが、どうしても、こう、スカーレットには身の危険を感じて拭えないので、簡単にOKと言えない。
 ねえねえと迫るスカーレットと、彼女から引き離そうと腕の力を緩めないディエゴに挟まれ、セオは決心する。

「でも今日はルーシーさんとのお散歩、なのでしょう?」
「ええ!デートなのよ!」
「・・・そうですよね、わたしみたいなのより・・・ルーシーさんのように可憐で愛らしい女の子の方が、いいです、よね。・・・分かってます。」
「え?」
「ごめんなさい・・・わたし、調子に乗っていました。スカーレットさんに気に入られたなんて、勘違いでしたよね。」

 ショック、それを全身に押し出すセオ。眉毛をハの字にして、力なく苦笑いをする。まるで自分は大統領夫人のことが大好きなのに、彼女はルーシーを選んだのでここは大人しく身を引こうとするような台詞だった。そしてごめんなさい、と一言付け足し、セオはディエゴの後ろに隠れる。泣いてる姿は見せられないと言うように背中を丸めて目元を隠した。劇団セオの開演である。

「セオ?貴女のことも大好きよッ!勘違いしないでほしいわ!」
「貴女のこと『も』だなんて!わたしは沢山の中の1人だなんて耐えられないんですッ!こんな重い女は嫌ですよね・・・。だから、わたしは静かに身を引きますので・・・スカーレットさんは、ルーシーさんや大統領とお幸せに・・・。」
「セオ!貴女勘違いしているわ!ルーシーも貴女も平等に、同じくらい好きなのよ!」
「だめなんです!1番になりたいんです!」
「っああセオ!なんて愛らしい子なのかしら・・・そんなことを言わせてしまってごめんなさいね、今度一日ずっと一緒に居てあげるわ・・・。」

 それでも嫌嫌とセオはディエゴの背中でごねる。スカーレットが焦るのとは反対に、ディエゴの方は自分にすり寄ってくるセオに上機嫌だ。彼は後ろに手をまわして、よしよしとセオの背中をさすっている。

「ごめんなさい、スカーレットさんっ・・・わたしはもう貴女と一緒にいられません!」

 そしてセオの捨て台詞。ガーンと顔を青くしているスカーレットの方に振り向きもせず、セオはラームにまたがってかけだした。残されたのは固まって動けなくなっているスカーレット、と、彼女を一瞥してにやりと笑うディエゴ、そしてキョトンとしているルーシー残りは護衛。ディエゴもシルバーバレットに跨り、セオを追って走り出した。

 公園を抜けてちょっと行ったところの角を曲がると、セオはそこで止まってラームから降りていた。追いかけて来たディエゴに向かって、悪戯をした子供のようにちょっとだけ舌をだす。

「まあわたしはディエゴさんの1番でいられるだけで最高に幸せなんですけれどね。」
「・・・君、本当に可愛いことを言うんだな。」






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