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VSスカーレット


「あなた・・・レース出場者なのかしら?」
「だ、大統領夫人?!」

 フィラデルフィアの街中、である。独立宣言庁舎の前で、驚くべき人物に出会った。大統領夫人だ。黒く艶のある髪、ぱっちりした瞳、白い肌に赤くふっくらした唇。女であるセオもドキッとするような美女だ。彼女は5人のSPを連れている、外を散歩していたのだろう。

「は、はい、レースに参加しています。イギリスから参りました、セオ・フロレアールと申します。」

 服のすそをつまんで持ち上げ、片膝をついて頭を下げる。あまりにも偉い人に出会ってしまい、セオは震えていた。

「改まらなくて良いわ。ふーん、セオって言うのね。こんなに可愛い子が出場してるとは思わなかったわ。」
「え、あ、ありがとうございます・・・。」

 スカーレット大統領夫人はセオにぐいと近づき、彼女の顎を支えて顔を上げさせると、じろじろとその顔を眺めた。その舐めるような視線にくすぐったさを感じる。ディエゴにもしょっちゅう見つめられるが、ここまでくまなく見られるのは。

「あの・・・大統領夫人・・・?」
「ごめんなさい。どうしても、可愛かったものだから。」
「え。」

 自分を見つめる目が妖しい。ただ単に可愛いからで見つめているのではなく感じる、なんというか、欲を持っている瞳・・・。セオ、と、大統領夫人が熱っぽい声で名前を呼んだ。耳元、直接鼓膜に届けようとしたような距離。

「あ、大統領夫人、あの、」
「スカーレット、って呼んでくれないかしら?」
「え、お名前を?そんなこと。」

 スカーレットはセオの腕を引き、近くのベンチに座らせた。そのすぐ隣、ゼロ距離のところに彼女は座る。セオのズボンと、スカーレットのタイツが太ももでこすれ合う。SPの人々はベンチの両脇に立ち、彼女達が何をしているかは見ていない振りだ。
 まるで恋人同士の行為に見える、こんな近くに座って、身を寄せ合って。実際にはスカーレットの方がセオに寄りかかっているのだが。

「ねえ、スカーレット、って。」
「う、あの・・・。」
「照れた顔が可愛いわ、ほっぺが赤いじゃない。」
「あ、スカーレット・・・さん・・・。」
「ああっ!そう!そうよ、もっと、叩きつけるように、スカーレットって!もう一度!!」
「スカーレットさん!」
「もっと!」
「スカーレットさん!!!」

 名前を呼ぶ度にスカーレットの顔が蕩けていった、何を感じているのか、かなり、恍惚としている。セオはただ名前を呼んでいるだけだというのに、じわじわと羞恥心が湧いてきてしまった。顔が蒸気する、性的に責められている気分になってしまった。

「はぁ、いいわぁ貴女。ねえ、レースを休憩して私とお茶にしない?」
「え?その、あの、お誘いは嬉しいのですけれど・・・。」
「忙しいのかしら?」

 今は自由行動にしようと分かれていたディエゴとの集合時間がある、お茶に呼ばれてはそれに間に合わないので、ここでついて行く訳にはいかなかった。偉い人のお願いとはいえ、いきなりの誘いなのだから断ることはできるはず。しかしスカーレットは、お願いよ、と、セオの肩に頬を乗せて強請る。放す気はなさそう。

「ねぇ、いいじゃない。それとも先約があるのかしら?」
「え、実は、はい、」




「こいつはオレとの約束があるんだ。離してくれないか。」

 ふいに、男の声。ベンチの前にディエゴが立っている。待ち合わせの10分前、彼は広場に着き、セオが大統領夫人に捕まっているのを発見して一目散にやってきたのだ。

「ディエゴさん!」
「あなたは・・・ディエゴ・ブランドー・・・。何の用事かしら。」
「生憎セオはオレと行動しているんでな。もうこの街を発つ、いくぞ。」

 ディエゴはセオの手を引き、大統領夫人の腕から解放させた。そして次は彼自身がセオを腕の中に収める。立派な胸筋に頬を押し付ける形になり、セオはまた赤面した。

「ヒトのものに手を出さすなんてやめた方がいいぜ。ルーシーの時もそうだったじゃあないか。」
「っこの男・・・!いつも一緒にいるなら今晩くらい貸しなさいよッ!!」
「今晩?優雅なティータイムがか?危なかったなセオ。」
「え・・・。」

 大統領夫人はセオを奪い返そうとディエゴの腕を引っ張るが、ディエゴの腕の力には勝てない。セオは変わらず彼の腕の中だ。そしてこれ見よがしにディエゴはセオの唇にキスをしてみせた。セオはそれに目を閉じて静かに応える。じっと30秒ほどそのまま固まって、ディエゴはゆっくり口を離す。

「ん、ディエゴさん・・・。」
「セオ・・・。」

 彼の目はセオを見つめたあと、スカーレットの方に向き、これでもかというほど『やってやったぜ』と言うように細くなった。そんな姿を見せられたものだから大統領夫人は激怒する。彼女はSPに2人を引き離すように命令した。5人の屈強な男たちがセオとディエゴに襲いかかる、が。ディエゴは恐竜に変身をすると、セオをその背中に乗せてさっさと逃げ出した。

「ディエゴ・ブランドーッッ!覚えてなさい!!必ずセオを奪ってみせるわ!!!」

 彼らの背中に、大統領夫人が怒鳴りつける。恐怖から脱せられたセオは、安心してディエゴの背中に抱きついた。
 女性に対してこんなに恐怖を感じたのは初めてだった。そしてついでに、世の中には色んな人がいるんだなぁと感心した。






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