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ドリームメーカー


 未だに持ち主に会ったことのない研究室の片隅に、変なものが飾られていた。葉っぱだ、簡単に言えば葉っぱである。決して危ない葉っぱではない。表面がつやつやとしていて、筋が真っ直ぐ伸びている綺麗な葉っぱだ。茎はしっかりしていて、触ってみるとわりと硬い。硬いぶんよくしなって、動かしてみると葉っぱがかさかさと音を立てた。一枚の葉っぱには紙切れが引っかかっていた。

「セオ、これはなんだ?」
「笹です。リナさんに七夕っていうものを教えてもらったんです。日本に昔からある風習で。」
「リナ?・・・ああ、ジョースターの所の。なんだ、その風習って言うのは。」
「紙に願いを書いたものを笹に吊るすと、そのお願いを叶えてもらえるんですって。」
「・・・誰に。」

願いを叶えるだなんて非現実的な、と言いたそうな顔をするディエゴ。それもそうだ、なんてことない、笹を飾るだけの風習で願いが叶うなどにわかに信じがたい。

「風習ですよ、風習。なんでも一年に一度、今日しか会えない恋人同士が叶えてくれるんだそうです。今夜だけは天の川をこえて会えるから、その喜びを人々にも分け与えるために願いを叶えると。」
「なかなかロマンのある話だな。」

 相変わらず机に向かって調書を書いているセオ、先日ひとつ終わらせたと思ったら、また新しくやらなければいけないものがあるとのこと。彼女はまだインクの乾いていないペンを机に置き、笹の葉を一枚つまんで見せた。
 旦那がジョッキーである同士、セオと理那は初対面でわりと打ち解けた。もちろん2人とも婚約はまだだが、将来的にそうなるだろうということで、お互いにお互いの恋人のことを旦那と呼んでいる。そんなセオの旦那は、嫁のお願いを確認するべく、笹の葉に付けられた紙切れをひっくり返した。

「・・・『調書をがはやく完成しますように。』これは願わなくてもやればできるんじゃあないか?」
「お、お願いってこれくらいしか思いつかなくて。」
「ロマンのかけらも見られないな・・・せっかくなんだ、ディエゴさんと毎日会いたいとでも書いてくれたならよかったのに。」
「ほぼ叶ってますよ。」
「まあ、そうだな。」

 セオはディエゴに紙切れの残りとペンを渡した。なにかお願いしてみてはどうですか、と。ディエゴは乗り気には見えなかったが、さらさらと何かを書いてさっさと笹の葉の上に載せた。
『夕飯にフィッシュ&チップス』

「ロマンのあるお願いはどこに行ったんですか。」
「叶ったら嬉しいぞ。」
「直接言ってください・・・。」
「大抵の願いは自分で叶えられるんだ、今更なにか願いはないかと言われてもな。」
「わたしと一生一緒にいたいと、そう書いてほしかったです。」
「・・・君って人は。」

 ほのかにディエゴの頬が赤くなった。率直なセオの言葉に照れてしまったらしい。彼はぱっと紙切れを取り、裏側にペンを走らせた。何を書いているのだろうと覗き込んだセオはすぐ赤面した。嬉しいけど照れてしまう、そんなお願いが書かれていた。

「・・・セオと一緒に暮らしたい。」
「ディエゴさん・・・!」
「だから、はやく院を卒業してくれ。ブリュメールさんのいう2年間は長すぎるんだ。」
「が、頑張ります!頑張ります、から、待っていてください!まず調書を完成させます!」

 ぎゅ、と、ディエゴの手を握ってから、セオは再び机に向かった。はやく調書を終わらせて、次の研究に進みたい、はやくはやく次の段階に進んでディエゴの願いを叶えたい。彼の願いはセオ自身の願いでもある。
 調書を書く手がすいすいと進む、セオの紙切れの願いは早々に叶いそうだ。そして遠くない未来、ディエゴの紙切れの、も。






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