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エバーブルーの夜


 街中と違って道の両脇に建物のない草っ原は、空を見上げるのには障害物が全く無くて良い。日が沈んで、何もないだだっ広い空間で日陰を見つけると、そこはその夜の野営地になる。セオは夜中の進行に不安が多いので、基本的に夜はラームの脚を止める。

「・・・ディエゴさんは先に行っても良いんですよ?」
「オレも休んでおきたいからな。」

 木陰に荷物を降ろし、ラームの手綱を木の枝に引っ掛ける。すっかり陽は沈んで代わりに星が瞬いていた。当たり前の事ではあるが、この地平線では、イギリスの家よりもずっと星が多く見える。
 焚き木に火をつけてやかんをかける。ここまですれば夜は一安心だ。シュラフをシート代わりに地面に敷いて腰を降ろす。今日もよく進んで、無事に生きることができた。遺体云々の話を抜いても危険な大陸横断、地形に脚を取られたり、毒性のある動物や凶暴な動物に襲われたりという危険はどこにでも付いて回る。もちろん夜だって安心はできないが、こうして火を焚きながら空を見上げると、なにも危険がないような、生きているなぁと実感できる。もちろん夜の方が危険は多い、夜行性の生き物には害になるものが多い。それでも、一瞬だけでもいいから、安心だと思って羽根を伸ばしたい。

「っああ・・・。」
「"今日も生きている"か?」
「ええ、今日も生きていられました。」
「このオレが一緒にいるんだ、当たり前だろ。」
「・・・ふふ、そうですね。」

 乗馬技術に優れ、さらに強力なスタンド能力を持っているディエゴはとても頼りになる。成り行きだが一緒に行動することになって良かったなぁとしみじみ思う。アウトドア活動はセオも慣れている方ではあるが、やはり助けてくれる人がいるというのはありがたいことだ。

「こうやって暗い空を見ていると、安心したような寂しいような気持ちになります。気を張ること無くぼんやりできるけれども、ここが最後ではないという現実があって。」
「・・・いつになく弱気な発言だな。」
「弱気なわけではありませんよ。ただちょっと感傷的になっているだけです。」

 シュラフの上に仰向けに倒れる。ひょろひょろとした頼りない木の枝の隙間から、濃紺の夜空が見える。きらきら光る星が、枝にくっつく電飾のようだ。
 何を思っているのか読み取れない真顔になっているセオの横で、ディエゴも上を向いた。空を見て何かを思うところは彼にはないが、雰囲気を壊すことは言えないなと口をつぐんだ。

「ラームが居るとはいえ・・・独りきりでのレースなんて、今更ですが、わたしにはきつすぎていると思うんです。」
「・・・馬鹿、オレがついてるだろ。」
「馬鹿だなんて・・・えへへ、そうですね。ディエゴさんがいるから心強いです。」
「そうだろ?」

 火に照らされているからだろうか、ディエゴの頬がいつもより赤く見えた。言葉も行動も乱暴で、人を物としか見ていないような人でも、一緒にいてくれることはとても嬉しい。それに、セオ自身、自分だけには優しくしてくれるなあなんて自惚れるくらい良くしてくれる。

「これからもよろしくお願いしますね。」
「存分に利用させてもらうぜ。」
「・・・お手柔らかにお願いします。」






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