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23.確かな風景


「ディエゴさんが失格ってどういうことですか!??!?!!?!!?!?」

 表彰式を目の前に、集計係を怒鳴っているのはセオだ。なんでも、ディエゴのシルバーバレットがニュージャージーの線路の傍で見つかり、馬の乗り換えがあったと推測されたために、ディエゴが失格にされるという話が浮かんでいるらしい。ニュージャージーにシルバーバレットがいるのは、こっちのディエゴが列車に乗り移った時にそこで置いてきたからで間違いない。そのあとはあっちのディエゴがあっちのシルバーバレットとゴールをしたのだから、そういうことにもなるだろう。
 ディエゴ本人に理由を訊こうにも、彼は極度の疲労のため話が出来ない状況で(スティール氏がそう言ってくれた。)、失格にせざるを得ないとのこと。

「ゴールした時の写真!!!大勢が!!沢山!何千枚も!撮っているんでしょう!?そこに!ディエゴさんが!シルバーバレットに乗って!!写ってますよね!!??それを!!!偽物だと!!!偽馬だと!!!言うんですか!!??」
「い、いえ、そこまでは……。」
「だったら!!!せめて!!!ラストステージを!失格にして!!ポイントを無しにすれば!!!いいんじゃないですか!!??最後の!鼻紋検査を!すっぽかして!こうやって!ややこしくしたことを!理由に!!!」
「しかし、その、そういうのはルールに無くて……。」
「スティール氏に訊いて下さい!!!!!!」
「は、はいい!!」

 これは憤慨だ。確かにゴールしたのはあっちのディエゴだが、ディエゴが失格になるのは誠に許しがたい。普段おとなしくおっとりして見えるセオが怒鳴るものだから、集計係を始めレースの係員達は顔を青くしてスティール氏に確認を取りに走っていった。


 結果として1位にゴールはしたが、シルバーバレットを野放しにして鼻紋チェックに出なかったことを理由に、ディエゴの9th STAGEの獲得ポイントは無しにされた。集計の途中で、あっちのディエゴが乗っていたシルバーバレットがゴール付近で見つかったため、線路沿いの馬は別のどこかの馬だということになった。全てセオの為にとスティール氏が取ってくれた処置だ。ただ、病院に行って気を失うほどの具合だったにしても、鼻紋チェックを怠ったためにポイントを失う処置をしたことに関しては、譲歩をしてほしいとのことだった。ディエゴは342ポイントで総合3位に落ちた。セオは変わらず113ポイントで7位に終わった。

 さて、表彰式だ。吹奏楽のファンファーレに合わせて、スティール氏と10位までの入賞者はステージに上がる。まるでコンサートの会場であるかのように、表彰ステージの周りは観客でいっぱいになった。セオもそのステージに立ち、名前が呼ばれるのをじっと待っている。緊張で倒れそうだ。

『――7位、113ポイント獲得、セオ・フロレアール選手。』

 セオの名前が呼ばれると、声の波のような大歓声が起きた。叫び声、口笛、楽器の音、沢山の音がセオに向かって降りかかった。セオはスティール氏の前まで行き、賞状とメダルを受け取った。会場からはスコールのような拍手が起こる。

「セオ、本当にありがとう。」
「わたしこそ……感謝しても、しきれません。」

 2人は握手をし、写真にその姿を収めてもらうために正面を向いた。フラッシュの光が2人をつつむ。会場の最前列、マスコミ席に、父がいるのが見えた。セオは満面の笑みで手を振り、メダルを掲げて見せた。
 3位のディエゴがいないことにファン達はがっかりしたが、ポコロコとノリスケ・ヒガシカタが持ち前の明るさで会場をどっと沸かせていた。
 閉幕式スピーチをするはずだったヴァレンタイン大統領は現れなかった。この世界に大統領はもういない、その事実が大勢の前で証明されて安心した。もちろん、セオ達を除く人々は、大統領は安全の問題で表れないのだと信じていたが。

 表彰式のフィナーレ、壇上にいた10位までの選手とスティール氏は一列に並び、そろって礼をした。今までにないくらい大きな拍手を浴びた。彼らが壇上を降りても、当分その興奮は冷めなかった。






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