trance | ナノ



13.大接近


 「サンドマンはスタンド使いだったんだ。奴も金が必要だと言っていた。」

 湖畔の小屋に、ジョニィとジャイロがいる。そこでディエゴのスケアリー・モンスターズが援護をしたサンドマンが、彼らを奇襲している。そんな中ディエゴとセオは草の影に伏せて隠れていた。

「わたしたちは行かなくて良いんですか?」
「奴が失敗したら巻き込まれるだろう。元々捨て駒のつもりだ。」
「……悪い人だなぁ。」
「今さらだろう。」

 サンドマンの奇襲は、ジョニィの反撃によって終わった。ディエゴは期待していなかったとだけ言ってその場を後にする。 まるでなにもなかったかのように彼は振舞っている、いや、本心からなのだろう。そんな彼にでもセオはただ従順について行った。

「……わたしのことも、捨て駒のつもりですか?いや……元から役には立っていませんね。」
「いいや、君は捨て駒なんかじゃあない、そんなこと全く考えていないさ。」
「どうして。」

 自分以外は全て利用するために存在しているのだとでもいうような傲慢ぶりを見せるディエゴだが、セオだけには他の誰にも与えることのない優しさを持ち合わせている。もともとスタンド能力を持っていると見抜かれて連れ去られたのだから、戦闘向きでもなければ未だなにの成果も見せていないセオは、ディエゴの言う役立たずのはずだが。

「君が好きだ。」

 ただそれだけなんだとディエゴは言った。彼は肩をセオの肩にくっつけ、そのまま顔を寄せた。目の下、頬骨ですこし盛り上がったそこにちゅうと唇をくっつける。セオは息を止めた、なんと反応をすれば良いのか。彼女もディエゴと同じ感情を彼に対して持っているはずなのに、答えようとした言葉が喉で詰まって出てこない。セオが返事をしなくても、ディエゴは催促しなかった。ただ、焦っているセオの顔を見て少しだけ笑った。

「……。」
「なぁセオ、お前は先に行ってくれないか?また別行動にしよう。」
「なんで……急に。」
「ジョニィらはオレの恐竜を見ている、次鉢合わせたら乱闘になるだろうと思ってな。」

 オレ1人で逃げ隠れして凌いでいる時間は君にとってペナルティタイムになるから、と、ディエゴは続けた。もちろんいつもの通りにセオは一緒に行きたいと反論したのだが、のろのろと進んでいては体験記の面白みに欠けてしまうと言われれば、それもそうだと返さざるを得ない。何だかんだと言ってもセオはディエゴの指示には従う。それは長い時間一緒にいたいという気持ちよりも、彼の役に立つことがしたいという気持ちなのだろう。

「フィラデルフィアには大統領が滞在しているはずだ、奴の部下との取引の時に聞いた。向こうに着いたらオレは独立宣言庁舎を探るつもりだから、その辺で落ち合おう。」
「距離で言ったら1ヶ月近いじゃないですか……。」
「寂しいか?」

 セオは黙って頷く。はい、と、素直に返事が出来なかった。ディエゴはその反応に満足したらしく、再び彼女の頬にキスをする。

「オレは大統領の追っ手にジョニィにと大人気なんだ。君を巻き込むくらいなら別の道を目指す。分かってくれ。」
「……フィラデルフィア、で。」
「そうだ。そこでカタを付けたい。そうしたらセオ、最後まで一緒に走ろう。」
「……はい、あの。」
「なんだ?」

 寂しいです、と、続けたかった。のだが、口が半開きになっただけで言葉は出なかった。頬が赤くなったまま治らない、口を閉じてうつむくと、セオはそのままディエゴの肩に頭をぶつけた。ディエゴはそんなセオの頭をぽんぽんとたたいてやる。

「また1ヶ月後に、な。」
「ディエゴさん……。」
「君も早くここを移動しろよ、じきに騒ぎを聞きつけた警官が来る。」
「わかりました、また。」






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