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「勝利のお祝い、しに行きますか?」
「いいね、ワインが美味しい店がいいな。」

「セオさーん。」

 電車から降りるとすぐに声をかけられた。同僚の女性だ、その後ろには「広報」の腕章をつけた若い男性。あの腕章は地下鉄内での取材を許可された人がつけるものだ。クダリが手配したライモンタイムスの記者だろう。

「こちらライモンタイムスのムツキさん。」
「ムツキです!クダリさんから今日のバトルのことを聞いたのですが、インタビューさせていただけますか!?」

 ムツキと名乗った男は、興奮冷めやらぬといったふうに鼻息を荒げている。笑顔で名刺を差し出し、ついでに握手も求めてきた。セオも名刺を渡し、ダイゴの方を見る。彼は快く頷いていた。

「ええ、いいですよ。」

 クダリを通して取材にOKを出しているのだ、今更不可とは言えない。

「では早速ですが、今日のバトルでサブウェイマスターまでの道のりで活躍したチルタリスですが、ずばりその強さの秘訣を教えてください!」

 記者として訊いているのか、ポケモントレーナーとして訊いているのか、わからなくなるような興奮状態だ。

「能力を特殊攻撃と素早さに偏らせて育てました。強さを重視しています。」
「なるほど、それであの破壊力がある攻撃が繰り返されていたんですね。タツベイはどうですか?」
「タツベイはまだ育成途中ですが、同じく特殊攻撃と物理攻撃を強めたいと思っています。」
「セオさんは攻撃重視型なんですね?」
「ええ、攻撃は最大の防御といいますか……相手の攻撃なんて避けるか、攻撃させる暇を与えなければいい……と思っています。」

 乱暴な戦い方は暴れん坊のドラゴンタイプにぴったりだ、そしていけどんタイプのセオにも。

「今回のバトルでは、ダイゴさんのユレイドルが壁になっている場面が多かったですね。やはりそういう作戦だったのですか?」
「今回はセオの方がサブウェイマスターの使うポケモンに詳しかったからね。メインの攻撃は彼女に任せたんだ。防御力は僕のポケモン達の方が上だったし。」
「ユレイドルには沢山守ってもらいました。ありがとうございます。」
「作戦通りうまくいったね。」

 記者のムツキもバトル狂らしく、インタビューはかなり盛り上がった。ポケモンバトルのコツや今まで育てたポケモンなど、話は今回のバトルサブウェイ挑戦から飛躍して様々な話をした。最後にセオとタツベイ、ダイゴとメタグロスは並んで写真を撮ってもらった。ホウエンチャンピオンがわざわざ挑戦してきた、ということで、明日のライモンタイムスのトップ記事にするらしい。





 さて、取材も終わってやってきたのはワインが美味しいバールである。バトルサブウェイの近くにあるからか、聞こえてくるのはポケモンバトルの話題ばかりである。

「今日は楽しかったね、乾盃!」
「乾盃ー!楽しかったです、ありがとうございます!」

かつんとワイングラスが音を立ててぶつかる。

「勝利の後のワインは最高だね。」
「最高ですね、清々しいです。」

 運ばれてきたサラダとチーズの盛り合わせをいただきながら、今日のバトルのことを思い出す。サブウェイマスターの2人の元に着くまでのバトルは快進撃で、本当に気持ちが良かった。チルタリスを始め、自分が手塩にかけて育てた子達が勝ち進む姿を見るのは何にも代えがたい喜びをもたらす。今日は隣で一緒に戦ってくれる人がいたからより一層。喜びを分かち合うのはまた良いものだ。

「マルチバトルって楽しいですね。」
「やったことなかったのかい?」
「ええ、最初に言ってませんでした?」
「聞いてないよ!へえ、そうだったんだ!?」
「一緒にポケモンバトルをする友達なんていませんでしたし……。」

 ポケモンを持っていた友達は、たいていが日常の友達としてパートナーを大切にしていたくらいであったし、育てていても護身程度。一緒にバトルをしようとなる子はいなかった。セオがシンオウのチャンピオンを破ってからは尚更。

「でも、今日は本当に楽しかったです。また一緒にバトルしてくれますか?」
「もちろん。対戦もマルチもね。」

 純粋に、一緒にポケモンバトルを楽しめる友人ができて嬉しい。そう感じるのと同時に、セオは自分が思ったよりも孤独にポケモンバトルに明け暮れていたのかと思う。旅の途中で気の合う知り合いは沢山いたし、ジムリーダーと意気投合したこともあった。しかし継続して連絡を取り合ったり、直接会ったりする人はいない。ポケモンバトルと同じくらい大好きな鉄道にのめり込んでいたから。

「嬉しいなあ、わたし、一緒にポケモンバトルができる友達が欲しかったんです。」
「そう言ってもらえると僕も嬉しいよ。」

 アルコールで饒舌になったセオ。彼女は耳まで真っ赤。デレデレの笑顔は、気を良くしているんだとダイレクトに伝えてくる。

「ホウエンリーグにもチャレンジしてくれたら良かったのに。」
「行きたかったですようー。でも短い夏休みでしたから……リーグ開催の日まで待っていられませんでした!リーグ、参加したかった……フヨウさん、カゲツさん、プリムさん、ゲンジさん……しっかり調べたのに。」
「やる気満々だったんだね。」
「もちろん!特にゲンジさんはドラゴン使いの大御所さんですからね、戦って学びたかったです。」
「そうか、そんな繋がりがあったね。ゲンジに伝えておくよ。」
「やったー!せめてゲンジさんに会いにだけでもホウエンに行かないと!」
「僕のこと忘れないでね。」
「あはは。」

 ボトルが一本空になる頃、セオは既に入眠一歩手前だった。いつも爽やかな顔をしているダイゴも、今夜は疲れのせいか少々まぶたが重いように見える。
 酔いと疲れでふらふらになりながらも、店員に頼んでタクシーを呼び、ガブリアスに支えられながら家へと帰った。






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