trance | ナノ



 君はどこに行ったんだろう、僕は君とポケモンバトルをするのがとても楽しみだったのに。彼女会ったのは、彼女がミクリにジムバトルを申し込んでいる時、その一回だけだった。たまたま何となくで訪れていたミオで、たまたま居合わせたジムバトル。丁度暇があったからと見学をさせてもらって、信じられないほど強い彼女に目を見張ったのをよく覚えている。
聞けばシンオウ・ジョウトのチャンピオンになったことがあると言うじゃないか。余裕でバトルに勝利していた彼女は、そのうち僕の元までくるものだと思っていたのに。




 ある日観ていたテレビ番組は、イッシュ地方にあるバトルサブウェイを特集したものだった。サブウェイマスターの二人や、彼らに挑戦するトレーナー達のインタビューをしていたり、鉄道の紹介をしていたり。イッシュにはあまり行かないから、そういう施設があることは知っていたが、内容までは把握していなかった。興味深いと関心しながら観ていたとき、画面が次のものに映りかわったとき、僕はハッとした。

『こちらはトレインの運転手でありながら、すご腕トレーナーであるセオさんです!先日シングルトレインであのノボリさんに快勝をしたということでーー』
『シングルですけれどね、今度スーパーシングルにも挑戦する予定です。』
『野望に燃えていますねぇ、ではそのバトルの様子をVTRで観てみましょうか!』

 映し出されたのは、彼女とサブウェイマスターとのバトル。5.6年、いやそれ以上前だろう、彼女の戦う姿を見たのは。それも一度きり。しかし僕はよく覚えている、その修羅のような恐ろしさも、鍛え抜かれたポケモンも。さあっと鮮明に思い出されるのは当時のこと。
 僕はテレビの電源を切ると、すぐに船の手配をした。







「セオ!」
「はははははいなんでしょうか。」
「セオにお客様きてる、灰色の髪の毛の男の人。スーツ着てなんか立派な人だよ。誰?」
「誰でしょう・・・うーん、名前は仰ってなかったんですか?」
「あっ名前はね!忘れた。」
「いくらなんでもクダリさんそれは・・・。」

 クダリに連れられてセオは応接室までやってきた。見覚えのない男の後ろ姿。うん?と首を傾げながらも、お待たせしましたと頭を下げる。声に反応した男は立ち上がり、こちらを向いた。振り向いた顔を見て、セオは あっ!と声をあげた。

「ダイゴさん!?」
「久しぶり、覚えていてくれたんだね。セオ。」
「お久しぶりです・・・びっくりしました、まさかダイゴさんが・・・どうしたんですか?」
「セオがここにいるって知ったから、ついとんできちゃったよ。」

 セオはダイゴに促され、彼とローテーブルを挟んで反対側のソファに、クダリと腰をおろした。にこにこと笑顔のダイゴ、セオが彼に出会ったのはたしか8年近く前のホウエン旅行のとき。ミオシティのジムに挑戦した時っきりだ。そんな人がなぜ遠くはるばるイッシュまで、たかが一トレーナーに会いに来たのか。

「君はトレーナーだから、そのうちホウエンリーグに挑戦してくれるのかと思っていたのに。君とバトルするのを楽しみにしていたんだよ。なのに何年待ってもこないから・・・。」
「が、学業が忙しくて・・・長期休暇を利用した旅行だったので、すぐ帰らなければならなくなったので。」
「そうだったのか・・・。ーーああ!もしかしてこのタツベイはあのボーマンダの?」
「ええ!ボーマンダにお嫁さんをもらって一昨年生まれたんです!可愛いでしょう?両親のいいところを全部受け継いだような子なんです。」
「へぇ・・・やっぱりドラゴンタイプひとすじなんだね。」
「ねえセオ!この方誰?ぼくにも教えてよ!」

 忘れていた。セオの隣でクダリが膨れている。セオはあわてて説明した。ホウエン地方チャンピオンのダイゴさんです。はがねタイプのエキスパートで、デボンコーポレーションの副社長さんなんです。と、彼女はとにかく、ダイゴについて知っていることを並べた。向こうは覚えていてくれたようだけれど、セオ自身はほとんどダイゴの事を覚えていない。しかしそう言うわけにもいかないので、とにかく失礼の無いように懸命だった。

「へえ、チャンピオン。じゃあバトル強いんだね!挑戦していきなよ。」
「そうだな、今度挑戦しにこよう。今日はセオに会いに来ただけだから全然準備は出来ていないんだ。」
「そう、ならまた今度!」

 じゃあ一目見れたし今日は帰ろうかな、とダイゴは腰を上げる。セオとノボリも急いで立ち上がり、入り口に先回りした。

「ダイゴさん、イッシュにはどれくらいいる予定ですか?」
「一ヶ月は滞在する予定だよ、観光と石探しと・・・ああ、仕事も。」
「わ!そうなんですか!ではまた会えますね?」
「もちろん、また会いにくるよ。」
「やった!あっ、少し待っていただけますか?わたしもう上がる時間ですので。」
「うん。」

 わあわあと嬉しそうなセオ。そんな彼女を尻目に、クダリはなんともなしに自分が不機嫌なのを自覚した。不機嫌の理由ははっきりしないが。
 ダイゴを応接室に残し、二人は事務所に戻る。クダリも勤務時間を過ぎたので帰る準備を整えた。遅番だったノボリは書類の始末をしている。

「先に失礼します、お疲れさまですー。」
「はいお疲れさまでした。また明日。」

 鞄とタツベイを抱えて足早に部屋を出て行くセオと、それを見送る双子。今日のセオさんは忙しそうですね、と、ノボリが言った。クダリはそうだねーとだけ投げ捨てる。まだ不機嫌が治っていないようだ。肩に乗せたバチュルが落ちそうになるくらい、苛立ちを体現している。

「どういたしました?クダリ。」
「別に何も。」
「セオさんと何かありました?」
「何も!なんかあったのはセオの方だよ。男の人が訪ねて来てた、ぼくは知らない人だけど楽しそうだった!」
「・・・おやおや。」
「先に帰るね、夕飯作っておくから!じゃあね!お疲れ!」

 ばたん!と、乱暴にドアを閉めるクダリ。残されたノボリは、ははーんと呟いた。あらかた、セオと楽しそうに話す知らない男に嫉妬をしたんだろう。嫉妬したのは、ラブかライクかは知らないがセオが大好きだからに他ならない。クダリがセオを好いているのは普段の様子を見ていればよくわかることだ。子供っぽいがあれで独占欲は人一倍だから困ったものだ。譲歩や納得ということを知らない。

「・・・譲歩を知らないおかげで、セオさんをバトルの世界にまた連れ戻すことが出来たのですがねぇ・・・。」

しかし「知らない男」というのは自分も気になる。引っ越してきたばかりのセオを訪ねてくるような男がイッシュにいたのか、考えるとノボリは仕事が手につかなくなってきた。






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