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「そういえばさーなんでセオはギアステーションに転職してきたの?リニアだめだった?」
「え、いや・・・だめってことは有りませんが。」

 昼休みだった、今日も今日とで遠慮のないクダリの質問にセオは焦った。遠慮ないその態度も彼の長所と言うか。そしてそういえば、転職してきた理由もずっと隠してきたなぁと思う。

「イッシュ地方のジムに挑戦しようと思ったんです。だけどジョウトからイッシュ地方は遠くて・・・。でも、ここで働きながら挑戦すればいいなぁって。」
「あれ?でもセオ挑戦してない。」
「それは・・・あの、タツベイの一件があったので、なかなか挑戦できなくて。」
「そっか、だからかぁ。」

 ノボリの手作り弁当をかきこみながら、クダリはぽやぽやと考えた。堂々とバトルをし、ポケモンと一緒に歩くようになったセオはこれから、ジムに挑戦するようになるのかと。辿り着くのはイッシュリーグ、チャンピオンの座につくのだろうか。彼女にはその実力が十分にあることは、バトルをしたことがあるクダリだからよくわかっている。

「もしセオがチャンピオンになったら、ぼく嬉しいなぁ。」
「なれるかなぁ・・・。」
「セオならなれるよ!ジム巡りは直ぐ始めるの?」
「これから休日を利用して各地をまわる事にします。イッシュの地理はだいたい頭に叩き込みましたし。」

 がんばろうね、タツベイ。セオはそう言いながら、足元でポフィンを頬張るタツベイの頭を撫でた。

「ジム巡りはバッジ集めのほかに、この子の育成も目標にしているんです。それと、イッシュ地方のドラゴンタイプのポケモン集めも。」
「イッシュに生息してるドラゴンタイプかー。オノノクスなら持ってるよ!」
「オノノクス、羨ましいです。いつもいいなぁって思いながら見てました・・・スーパーダブルで・・・。キバゴ・オノンド・オノノクス・クリムガン・モノズ・ジヘッド・サザンドラ・・・ふふ、ちゃんとチェックしてますよ。」

 セオはポケモン図鑑を取りだし、ドラゴンタイプで検索をかけた。表示されるドラゴンタイプの面々にうっとりとしている。

「あわよくばレシラムとゼクロムも・・・なんて考えていますが、さすがに伝説のポケモンを誰かの物にするなんてことは、ね。」
「野心に燃えてるね。」

 伝説のドラゴンタイプのポケモン、もしこの目で一度見ることが出来たら、それだけで重畳だ。――セオは目を閉じて思い出す、ホウエン地方を旅していた時、たまたま見かけた伝説のドラゴンタイプのポケモンの事を。緑の巨体、長くしなやかな体が空を裂くように飛んでいく姿は、今でも鮮やかに思い出すことが出来る。

「格好良かったよね、タツベイ。」
『ぎゃう!』
「なにがなにが?」

 セオは一枚の写真を手帳から取り出し、クダリに手渡した。写真はプラスチックのケースにしまわれていて、大事にされてきたことがよくわかる。青い空に雲が薄く掛っており、その間に細長い影が写っている写真。雲から顔を出している部分は緑色をしていて、人工物ではない、ポケモンのようだった。クダリは何の写真か分からず、首を傾げる。

「レックウザっていうポケモンなんです。ホウエン地方に生息している伝説のポケモンで、ごく稀に低空を飛ぶ姿が見られていて・・・感動しました、このポケモンを肉眼でとらえられることができて・・・。」
「このポケモンもドラゴンタイプなの?」
「はい!」
「セオはドラゴンタイプに執着するよね、なんで?」
「なんで・・・強さに惹かれたんでしょうね。タツベイ――今はボーマンダですが、あの子に会った時にビビッときたんです。育てたらとても強い子になるって悟りました、案の定ボーマンダは負け知らずです。チルタリスもガブリアスも他の子たちも、ボーマンダには及びませんがとても強い。そのうちに・・・強いポケモンだから好きなのではなく、強いドラゴンタイプだから好きなのでもなく、ただドラゴンタイプに惹かれるようになっていました。」
「ふうん・・・不思議だけどすごいことだね、ひとつのタイプのポケモンを極めるって。あー、なんかセオのこと沢山知れた気がする。ジムに挑戦することとか、ノボリに話した?」
「いいえ、まだです。」
「じゃあノボリにも報告しに行かないとだね!2人で応援するよ!」
「ありがとうございます!あ、もちろん仕事に支障はないようにしますから。」
「もちろんだよー。」

 ギアステーションに勤め始めてから月日がたったからだけではない、ポケモンバトルをしてから、より3人の仲は深まった気がする。セオはポケモンを連れ歩くこととバトルにためらいは持たなくなったが、ノボリとクダリはそれでも彼女を気遣い、バトルの強要はしなくなった。3人は丁度良い距離での仲を保ち、より一層ギアステーションの名物となっている。







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