trance | ナノ



「本日はバトルサブウェイご乗車ありがとうございます。名乗る必要もございませんでしょうが、改めましてわたくし、サブウェイマスターのノボリと申します。さて、この時が来るのをどれだけ楽しみにしていたことでしょう、セオさん。あなた様とバトルをするこの時を、ずっと待っておりました。・・・このトレインの行き先は誰にもわかりません、いくらあなた様が"覇者"と呼ばれるトレーナーといえども、勝利もしくは敗北、どちらに向かうのか・・・わたくしにもあなた様にも分からないことでしょう。では始めましょうか、出発進行!」
「わたしの進む先には勝利しかありません!ボーマンダ、行って!」
「ダストダス、お行きなさい!」

 あれからストーカーの被害もなく、仕事にうちこめていた日々。珍しくノボリから「お願い」をされた。それは他でもない、自分と戦ってほしいと、バトルサブウェイのルールで戦ってほしいとの申し出だった。セオはもろもろクダリの時と同じ理由で乗り気ではなかったが、ストーカー騒動のお礼と、自分自身がバトルに飢えていたこととで表面上では快く引き受けた。
 いやいやながらもトレインに乗れば人は変わった。目の前に立ちはだかるポケモンを、自分のパートナーと一緒に打ちのめすことに燃えた。今回のパーティはボーマンダ・チルタリス・ガブリアスの最終形態トリオ。ここまでボーマンダで快勝だったのだが、はたしてサブウェイマスター相手にそうはいくかどうか。

「どくどく!」
「ボーマンダまもる!――よし、そのままドラゴンクロー!」
「ダストダス、サイコキネシスです!」
『ぐぎゃおおお!!』
「もう一発ドラゴンクロー!」

 相手に守らせる暇などもたせない、そんな畳みかけるような攻撃の嵐にダストダスはなすすべもない。サイコキネシスはボーマンダをとらえたが、そんなもの何ともないとでも言うようにボーマンダは余裕の表情。とどめのドラゴンダイブはダストダスを戦闘不能に追い込んだ。

「ごめんなさいノボリさん、あなたの手持ちは全て、既にクダリさんとのバトルで攻略法を見出してしまったんです。はやくこのバトルを終わらせてスーパーシングルトレインに乗車したい!」
「随分と余裕の様ですが、わたくしも先の戦いであなた様の攻撃パターンは把握済みでございます!ギギギアル!」
「ふ・・・ふふ・・・バトルを見ただけで、いや、いくらバトルを解析されたってこの子たちに勝てる者はいない!そう、たとえリーグに座する四天王やチャンピオンだって!ボーマンダ、ドラゴンダイブ!」
「そう慢心していては足元をすくわれますよ?ギギギアル、ギアチェンジです。」

 ギアチェンジで格段に素早くなったギギギアルの動きに、ボーマンダが動揺する。ドラゴンダイブは外れ、巨体が車体にくぼみを作った。

「そうね・・・このあいだクダリさんにガブリアスを倒されたのは失策だった・・・久しぶりのバトルだったから・・・ああ、言い訳なんてみっともなかった。そうだ、この間のお礼をクダリさんに代えてノボリさんにぶつけよう!ボーマンダごめん下がって、行くよガブリアス!」
『がぶぁあああ!!』
「なんと理不尽な・・・!」
「この間の屈辱を今爆発させて!だいもんじ!」

 ガブリアスのだいもんじは鋼タイプのギギギアルに有効だ。ギギギアルは苦しそうなうめきをあげる。ガブリアスはセオの言うように、憂さ晴らしをするかのように粗く荒い攻撃をけしかけた。反撃の暇がない、ギアチェンジで上げた素早さもこのガブリアスの前には無意味であった。

「ギギギアル、ギガインパクト!」
「・・・!」

 すさまじい攻撃だった。まともに食らったガブリアスはフィールドに倒れる。しかし致命傷には至らなかった。

「危なかったねガブリアス・・・ギギギアルが身動きを取れない今よ!りゅうせいぐん!」
『ぐぁあああああああお!!』

 降り注ぐ流星群は、行動の取れないギギギアルにも容赦しない。ギギギアルは戦闘不能になった。

「さすがに・・・強いですね・・・覇者の名に恥じないほどに。そのあなたがなぜバトルを避けていたのか、とても気になるところです!」
「そんなこと今はどうでもいいことよ!はやく終わりにしましょうノボリさん!――ガブリアス戻って・・・チルタリス!」
『ちるーーー!』
「・・・人が変わるとはこのことでしょうね。イワパレス!わたくしは最後まで諦めません!行きますよ、シザークロス!」
「・・・速い!チルタリス、はさみを振りほどかないで!正面からだいもんじを喰らわせてやって!」
『ちるうううう!』
「ひるまないでください!ストーンエッジ!」
「!!いけない!」

 ストーンエッジを喰らったチルタリスがひるむ。そのスキをついたイワパレスはすかさずもう一発シザークロスをお見舞いした。チルタリスの息が荒い、連続で攻撃を喰らって、いくら防御に特化しているとはいえどもこれは辛いようだ。

「これで終わりにしよう・・・チルタリス、特大のりゅうせいぐんを落として!」
『ちるうううううん!!』 

 流れる流星群。セオの持つドラゴンタイプのポケモンのりゅうせいぐんに耐えられるポケモンはほとんど存在しないに等しく、このイワパレスもKOしてしかるべきであった。
 ノボリは悔しそうに口をつぐんだが、その表情からは「思った通りだった」とも読み取れる。彼はイワパレスをボールに戻して、セオに拍手を送った。

「ブラボーです。あなた様のその実力、本当に確かなものでございますね。勝利という終着駅にしか辿り着かないその力・・・計り知れないものでございます。・・・しかし、負け惜しみに聞こえてしまうかもしれませんが――わたくしの実力をここまでと見ないでくださいまし。スーパーシングルトレインで、わたくしの本気をご覧頂きたいものです。」
「ええ、また挑戦しにきます。やっぱり楽しいですね、ポケモンバトルは・・・。ありがとう、チルタリス。」

 ポケモンたちと同じ位息を切らせているセオ。バトルが終わると、いつも通りの優しい表情に戻った。その変わりように、ノボリは恐れをも感じる。何が彼女をこのように変えさせているのか、バトルへの・強さへの、そしてドラゴンタイプへの執着。彼女の過去は知らない、しかしドラゴンタイプのエキスパートとして強さを追及するその道を選んだいきさつが気になる。

「・・・さぁ、明日も仕事がありますし、今日はお先に失礼しますね。ふー、戻ってチルタリス。」
「ええ、また明日・・・。」

 セオは「不思議な人」だ、その一言に限る、と、ノボリは思った。トレインを降りるセオの姿からは、さきほどの様な覇気や殺気は感じられない、ただただ穏やかな女性。
 今度は絶対に負けられない、スーパーシングルトレインで次は自分が彼女を負かす番だ。ノボリは決意を新たにし、シートへ腰を下ろした。かなり疲れた、ここまで精神を摩耗させるバトルはしたことが無い。帽子を深く被り、ステーションに戻るまで休憩を取る事にした。





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