trance | ナノ



 ホームに滑り込んだトレインから降りてきた運転手から道具を受け取り、プラットフォームで次の発車時間を待つセオ。トレインからは7回連続で勝利できたチャレンジャーが降車し、待ちうけるベテラントレーナー達もプラットフォームで休憩をとっている。新しく乗車するチャレンジャーは列を作って、緊張した顔で並んでいた。毎日変わらない風景、セオがここに勤め始めてからもうすぐ2ヶ月経つ。
 サブウェイに慣れて、大体の仕事はもう一人で出来るようになった。サブウェイマスターの2人からと他の駅員、そしてトレーナー達からバトルを申し込まれたり、ストーカー行為が続いたりと、悩みの種は尽きないが。ストーカーの件は警察に届けたものの、注意をしておくようにと言われたばかりであった。たまにノボリと一緒に帰ったり、それ以外はボーマンダに乗って帰ったりしているから、夜、家に帰る時は問題ない、のだが



「―――いつも見てますよ、セオさん・・・。」



 いきなり、耳元でささやく声。
 セオは身の毛のよだつのを感じた。振り向いて、周囲を注意して見る。しかし怪しい人は誰も見られない。気持ち悪い、一気に具合が悪くなる。

「タツベイ・・・。」
『ぎゃう。』
「何も見てない?」
『ぎゃお。』
「そう、だよね。・・・初めて話かけられた、気持ち悪い・・・。」

 セオは急いでトレインに乗車し、運転室前でタツベイを抱えて座り込んだ。出発まで30分あるが、プラットフォームに居たくない。実際に声を掛けられてしまった、こまった、実害が出てしまった。

「セオさん、どうしましたか?」
「ノ、ノボリさん・・・!」

 これがスーパーシングルトレインで良かった。一両目に乗ったノボリがセオに気づいてくれた。彼はうずくまるセオの様子がおかしいと気づき、彼女の背を優しく撫でた。

「ス、ストーカーが話しかけてきたんです、怖くて・・・。」
「なんですって?!それはプラットフォームでですか?わたくし防犯カメラを確認してまいります!!」
「待って!!」

 セオは降車しようとするノボリの腕を掴んで止めさせた。ノボリはぴたりと止まり、なぜ止めるのだと言いたそうな顔をしている。

「今はバトルの事を考えてください!」
「ですが逃げてしまうかもしれませんよ?!」
「ストーカーならまた来るでしょうし、映像は後でも見られます!」
「・・・そ、そうですか、しかしわたくし少々焦っております。セオさんが危険な目に遭ったのですから、わたくしどうにも押さえられません・・・!」
「そうやって怒ってくださるだけで十分ですから!スタンバイしに行きましょう?もう時間ですから・・・。」
「セオさんを一人にしておけません!」
「運転室にはカギを掛けておきます!」

 ノボリに心配してもらってセオは嬉しかったが、自分のせいで仕事に支障を出させたくない。自分のせいでこうなるのなら、はやいうちにストーカーのことはどうにかしないといけない。

「ねえタツベイ、どうしよう・・・。」
『きゃううん』

 タツベイはセオの足に絡みついて、『大丈夫だよ』と言うようにスリスリと頬をこすりつけていた。









×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -