trance | ナノ



 セオがバトルサブウェイに挑戦した次の日である。彼女は昨日何事もなかったかのように出勤し、そつなく仕事をこなしていた。ノボリとクダリには朝礼の時にしか会っていない。2人はセオに対してなにか言いたそうだったが、朝からトレインの運転予定が立て込んでいたので話す時間はなかった。


 仕事を終えて、プラットフォームを歩く。他の駅員たちがしているように、今日はセオもポケモンと一緒に歩いていた。セオの鞄を頭に乗せて歩くタツベイは可愛い。
 そしてタツベイと歩いていると、昨日のバトルを見ていたらしいお客様達が、『昨日のバトルすごかったです!』とか『こんどバトルして下さい!』などと声をかけてくれる。嬉しいことだが、やはり恥ずかしい。適当に返事をして、セオはさっさと事務室へ戻った。

「セオお帰り!おつかれさま!セオは今日のお仕事終わりだよね、スーパーダブルで待ってるから早く乗ってね!」
「セオさんお疲れ様でございます、本日はシングルトレインにご乗車いただきありがとうございます。」
「乗りません乗ってません!」
「ノボリダメ!セオはスーパーダブルに乗るって約束してくれた。」
「でも今日乗車するとはわたし言ってません!」
「だそうですよクダリ、今日はシングルに乗ってくださるそうです。」
「シングルにも乗りません!乗りませんよ?!」
「なんでなんで?」
「昨日ので疲れてますし・・・仕事やったあとなのもあって。」
「明日は?明日は乗ってくれる?ダブルに!」
「明日こそシングルでございます!」
「いえ!!出勤日は無理です、休みの日ならまだ・・・。」
「じゃあ次の休みにはシングルにご乗車くださいませ。」
「ダブルだよ!」

 事務室に入ったら入ったで、ここは騒がしい。セオはこんなにも反響が大きいならと、チャレンジしたことを少し後悔した。たじろぐセオの足をタツベイが心配そうにつつく。

「おや、この子がタツベイですか。小さな身体からあのようなかえんほうしゃが放たれたとなりますと、やはりそれなりの育成がされているのですね。」
「この子すごいよ!ねータツベイ!」
『ぎゃう!』

 ノボリとクダリはタツベイの前に座り込み、全国図鑑でタツベイの情報を調べ始めた。バトル狂の2人は見知らぬポケモンに興味深々らしい。頬やら腕やらをつかまれてタツベイは少々迷惑そう。

「あの、あんまりタツベイに無理させないでくださいね。」
「もちろんでございます。はいタツベイ、口の中を見せていただけませんか?」
『あうう』
「た、タツベイ、帰ろうか。」
『ぎゃあう!』
「あっタツベイ逃げちゃだめだよ!」
「こらクダリ、セオさんはお帰りになるんですから!」
「じゃあ今度セオの手持ち全員見せて、あのボーマンダも見たい!!」
「わたくしも見たいです。」
「じゃ、じゃあ機会があったら、」
「機会は作るものだよ!今度の休みセオのお家に遊びに行く!」
「こらクダリ!女性の家にそう易々と上がろうとするんではありません、わたくしも行きます!」
「どういうことですか・・・。」

 バトル狂に火を付けてしまったらしい。それはもちろんセオだってバトルはしたいが、昨日の様な激しいバトルを連日するわけにはいかない。今度はノボリのシングルトレインにしたいなと考えながら、双子が喧嘩に夢中になってる間に、セオはそっと事務室を出た。







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