trance | ナノ



 今まで大勢のレムナンに会ってきたが、彼らは全員、わたしが好きになったレムナンで違いない。最初に口にした言葉によって関係が変容していても、レムナンの魂だけはその"役割"如何にかかわらずそのままだ。
 だからわたしはどのレムナンにも同じような視線を向けるのだが、レムナンがわたしを見る目は毎回かわる。当たり前のことだ。

 わたしが最近覚えた気を紛らわせる趣味は、手紙を書くことである。1日目の夜に手紙を書き、それをポケットにしまっておく。事件が解決するか、わたしのコールドスリープが決まるかしたらそれをレムナンに渡し、そのループを終える。
 わたしがループしたあと、その世界に自分が残り続けているとは思っていない。わたしがいなくなった後、抜け殻になったもう一人の自分がそこに留まり続けているか?多分、いつかのセツのように、姿かたちも皆の記憶からも消え去っているのだと思う。もし残り続けていたとしても、わたしの意識は確かにループをするのだから、この意識から分離してあの世界に残る人は自分ではない。
 一緒に生き残ったレムナンはきっと、誰に感謝をし――或いは、誰を恨んだかなど、すぐに忘れてしまっているのだろう。
 だからわたしは手紙を書く。――手紙と言っても、大層なものじゃない。個室にあったメモ用紙に一行だけ伝えたいことを書く。
「レムナンへ ずっと大好き セオ」
 こんな思念がこもったものをレムナンは恐がるだろうが、どうせもう会えないのだから気にしない。そうやって自分本位に思うあたり、自分は本当にレムナンを大切だと思っているのではないのかもしれない。それに、全員が同じ魂を持ったレムナンならば、毎回別れの言葉と愛の挨拶をする必要もないのだ。わたしはいつでも自分の行動に疑問を持っている。



「レムナン、これ、明日になったら読んで。」

 すべてのグノーシアがコールドスリープしたとLeViが告げた。その朝わたしは、さっそくレムナンに手紙を渡した。

「なんですか?」
「お手紙。」
「お手紙……い、今読んじゃだめですか?」
「うん、恥ずかしいから明日。」
「わかりました、楽しみだなぁ……。」

 レムナンが手紙の中身を「楽しみ」と言ってくれるかどうかは、その時々で半々。その時の関係と「役割」による。好意的に受け取ってもらえるのは当たりだ。

「絶対読んでね。」

 返事を貰えたことがなければ、どう思われたか知る機会もない。それでいい。どうせ全部押し付けの自己満足なのだから。





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