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「そんな危険」も君のため


 竜の門の向こうに見つかった世界を調査した部隊から、面白い話を聞いた。その日、セオは珍しく星界の酒場に行って、カウンターで1人お酒を飲みながら夕食をとっていた。仲間のオーディンやゼロを誘わなかったのは、なんとなく1人で居たかったからだ。
 酒場はにぎわっていて、よく耳を澄ませていると、店にいる大半は、今日竜の門から帰ってきた調査隊だという事が分かった。向こうで退治した魔物や、採取した薬草など、色んなお土産話を仲間たちに披露している。

「そこで見つけた剣がなんとも禍々しくてさ。持って帰りたかったんだが、周りにいる魔物が多くてな。倒しきる前に帰還する時間になったんだ。」
「そりゃあもったいないことしたな。」
「ああ。両刃の黒い刀身、美しい装飾……呪われてんのかって思うほど魅入っちまった。」
「へえー。」

 セオは耳を大きくしたまま様々思惟する。その剣の正体や、その異界がどこか。自分が敵うレベルの場所か――など。彼女はコップの中身を空にすると、店主にお代を払って店を後にした。
 そしてセオはそのまま、星界でメインに使っている砦へと足を運んだ。ここには主軍から分隊から、全ての隊の出兵記録がある。レオンの臣下であるセオはもちろん自由に見られるので、書庫番に断りを入れて、今日帰ってきた調査隊の行先について調べた。





「ただ今帰りましたー。オーディンいる?」
「セオ!1日中留守にしてどこ行ってたんだ?」
「あれ、何か用事でもあった?今日は休みだからいいかなぁと思っていたんだけど。」
「1日中ここで音信不通になってれば心配するだろ。」
「そういうものかな。」

 翌日の夜。レオン隊が使っている談話室にやってくると、そこにいたオーディンがセオに飛びついた。休みの日くらい静かにさせてよとセオは思うが、オーディンがやけに心配をしてくるから、そんなことは言えなかった。確かに閉塞的な星界で音信不通になる事はまず少ない。誰についても、わりと常に誰かがどこかで見かけているので。

「で、何か用事?」
「……お前が竜の門をくぐったって話を聞いたから、心配してたんだ。」
「あー……。」
「それは図星って反応だな?」

 基本的に、竜の門をくぐる時は小隊以上の人数でという決まりがある。誰がそう決めたわけでも無いが、危険性を考えて自然とそうなった。だから個人であの門をくぐるのは、あまり良しとされていないのだ。オーディンはその点について、セオに問いただしたいのだろう。

「うん。ちょっと確認したいものがあってさ。」
「その背中に背負ってる禍々しい物か。」

 セオの背中には、細長い麻袋。袋の口から柄が見えている。

「そう。オーディンにお土産。」

 彼女は麻袋を下ろすと、その口を開いて中に入っている得物をオーディンに見せた。たちまち、オーディンの口と目は大きく開き、そのまま固まってしまう。彼は信じられないというふうに目をぱちくりさせると、両手で口を押えた。

「み、み、ミ、ミミミ――」
「ああ、これってミストルティンで合ってる?」
「うわーーっ!!本物だーーーー!!」
「よかった。合ってたね。」

オーディンの目が、ビームを放つのではと思うほど輝いた。彼は驚くといつも真ん丸になる目をより一層丸くして、目玉が零れ落ちるのではと心配になるほどミストルティンを見つめた。柄の装飾、鞘をじっくりと眺め、そして、そっと、本当にそっと――眠っているドラゴンを起こさないようにそっと鞘を引き抜き、刀身を露わにさせる。セオからでも、オーディンの真ん丸の目が黒くも鏡のような刀身に映っているのが見える。
 彼は自分が怒っていたことをすっかり忘れてしまったようだった。御小言を貰わなくて済んだ、と、セオはそっとため息を吐く。

「こ、こ、こ、これをどこで!?この世には無いものだとばかり思っていたのに!!」

 心配ないと思うのだが、オーディンはまるでミストルティンを少しでも荒く扱ったら壊れるかのように扱っている。それこそ眠っているドラゴンが手の上に載っているのかとでも訊きたい。

「竜の門の向こう側だよ。おととい帰ってきた小隊が、それっぽいものを見たっていう話をしていてね。」
「……それで行ってきたってわけか?」

 急に声を沈めたオーディンのその反応が、怒りから来ているかどうか、セオにはすぐにわかった。

「お前がとんでもなく強いってことは分かってるけどさ、流石に独りで行かれると心配するだろ。」

 オーディンは静かに続ける。

「心配されるだろうなって思った。」
「じゃあなんで俺たちを誘わなかったんだよ。」
「みんな忙しくしてるし、全くもって不確かな情報で異界に誘うわけいかないじゃん。」
「……。」

 憧れの剣を前にしたテンションは、一時的に鎮まったようで。叱責はミストルティンによってお流れになるかなと期待していたセオは、ばつが悪いと言うように唇をモニャモにャと震わせた。それを見てオーディンは眉間の皺を深くする。

「もしもってことがあるだろ。いくらお前の強さでも……。」
「そうなんだけどねえ。」
「自分の命を軽視しないでほしい。」
「気をつけるね。……ああ、その剣はオーディンにあげるよ。」
「……えっ!?」
「いらない?」
「い、い、い、いる!!……じゃない!頼むからこんな真似はもうするなよ!」
「もちろん、オーディンの探し物が見つかったならもうしないよ。」
「……ありがとうな。」

 彼はミストルティンをギュッと抱きしめ、愛おしそうに見おろした。そんなオーディンを見て、セオは嬉しそうに浅いため息を吐いた。

「オーディンのその顔が見られただけで満足。」
「なんだよ急に、照れるだろ。そんな、俺のためにみたいな……。」
「なにいってるの、オーディンのためだよ。」

 セオの言葉にオーディンは赤面する。なにを今更、と、セオは続けた。今までの話の流れで、門をくぐったのはオーディンのためだと分かってもらっていたかと思ったのだが。

「俺のためって、そ、そんな……告白みたいな……。」
「オーディンってたまに考え方が可愛い女の子みたいになるよねえ。」
「ばかやろっ!」
「ふふ。」

危険を冒してまで貴方のために。告白と取られても仕方ないし、セオはそう思ってもらって問題ない。ただ、はっきりとそうだと言うのだけはなんだか照れてしまって、彼女はオーディンを置いて、ニマニマ笑いのまま駆け足で去っていってしまった。




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2019年4月リク企画
ニット様より
オーディン
剣 / 竜の門 / レオン臣下
でリクエストいただきました
ありがとうございました!








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