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サンセット内にて


 高1の頃から付き合っている彼氏が、練習試合のためにうちの高校へやって来た。
 線引瑠良は、2つ下の影山飛雄と付き合っている青城高校の3年生である。彼女は3年前、飛雄と同じ中学校で、女子バレー部に所属していた。飛雄には、男子バレー部入部当初から妙になつかれていて、瑠良が卒業する時に離れたくないなどと告白をされた。瑠良は当時彼氏は居なかったが、特にそういった関係の人が欲しい気持ちがあったわけでもなかった。が、子犬のような後輩にそう言われて、ノーと言う気にはなれなかった。
 高校に上がった瑠良は帰宅部に入部……する。しかし高校と中学、片方はバレー部、忙しくて会う時間はなかなかない。お互い時間を見つけては公園で会って話をして、一緒にトス練習をして、などと、大変清いお付き合いを3年続けた。
 今日はその飛雄が、入学した烏野高校のバレー部員として、この青城に練習試合でやってきた。

 ギャラリーで見ていた瑠良の端的な感想は、やっぱりこの子は強いなあ、というものだった。部長の及川がほとんど留守にしていたとはいえ、烏野が青城に勝つとは正直思っていなかった。だから見慣れた青城のメンバーがこの世の終わりを感じさせるほど凹んでいるのは良く伝わって来たし、黒と橙が特徴的なユニフォームの烏野のメンバーに背中を叩かれて褒められる飛雄の姿は想像していなかった。
 青城が負けたのは悔しいけれど、飛雄が勝ったのは嬉しい。瑠良はギャラリーを降りて、体育館の出入り口に向かった。そこには晴々した顔の烏野高校バレー部が居て、彼らはバレーシューズから外履きに履き替えている最中だった。飛雄の姿もある。

「飛雄ー。」

 嬉しくなって声をかけた瞬間、烏野の空気が凍った気がする。部員たちの動きが固まって、ぎぎぎ……と音がしそうなくらいゆっくりと顔が上がって、彼らは飛雄の名前を呼んだ瑠良を見た。

「瑠良!」

 飛雄は外履きに履き替えて立ち上がり、瑠良に大股3歩で寄った。

「お疲れ様、見てたよ。格好良かったね。」
「あ、ありがとう、来てくれると思わなかった。」
「帰宅部は暇だからねえ。荷物増やしてごめんけど、これ持ってって。」

 瑠良はスポーツドリンクの入った500mlのペットボトルを手渡した。飛雄がいつも飲んでいる市販のものだ。帰りのぶんも飲み物はあるだろうけれど、瑠良はちょっとでも何かを渡しておきたかった。ただの自己満足だ。
 烏野のキャプテンが飛雄に、時間までには来いよ、と申し訳なさそうに声をかけた。瑠良は軽くすみませんと会釈しておいた。

「飛雄!!」
「アッ及川さん……。」
「あっ及川君。」

 烏野のメンバーが居なくなったなと思ったら、次にやって来たのは及川徹……青城バレー部の主将だった。彼も大股で瑠良と飛雄に寄る。頬を膨らませて怒っているようだ。

「2人が付き合ってるって噂、本当だったの!?」

 彼は本当だったのかと問うわりに、それが真実と断定したうえで責めているような態度だった。

「そうですけど……。」

 その怒気に物怖じせず、飛雄が答える。そのあっけらかんとした態度が気にらなかったのか、及川はなお飛雄を敵視している。

「そうだよ!」

 次に瑠良が言うと、及川は目に見えてションボリしてしまった。

「えーっなんで……こんなチビッ子と!2つも年下じゃん!」
「社会に出れば2歳差なんて小さいでしょ。」
「ここは社会じゃなくて学校!」
「学校だって社会だよ。」
「あーいえばこーいう!」
「大体及川君はなんで怒ってるの?……ああいやわかるよ、自分は彼女と長続きしないけど、ライバル視してる後輩が彼女と3年もうまくやってるのが気に入らないんでしょう。」
「ぐぬぬ。」

 図星らしい。及川は下唇を噛んで、わざとらしく瑠良をにらんだ。

「すんません。」

 飛雄の謝罪が火に油だったようで、及川はきーっと叫んで飛雄の米神を両手の人差し指の第2関節で押し始めた。ぐりぐりと米神をえぐられ、飛雄は痛いですと嫌がる。及川はやめるそぶりを見せなかったので、瑠良は及川の手首の皮を掴んで抓った。

「痛い!!」

 及川が叫ぶ。彼は瑠良の攻撃に耐え兼ね、反射で腕を引っ込めた。

「後輩をいじめないの!」
「だって……。」
「及川君性格悪いって言われるよ。」
「そんなこと言われないもーん。」
「はいはい、じゃあ言われない。じゃあね。」
「えっ待ってその態度つらい。待って!」

 マイクロバスに乗る前に水分補給をしたり、荷物を片付けていたりした烏野の部員たちがバスに乗り始めている。飛雄も戻らないといけない時間だ。及川はまだ何か言っているけれど、バスに向かう瑠良たちを追いかけてこないので放っておこう。

「大会、観に行くし飛雄のこと応援するから。」
「青城の応援はいいのか?」
「あんまり思い入れないしねえ。」
「じゃあ、ありがとう。」
「こちらこそ、こっちで飛雄の試合見られて良かったよ、ありがとう。」
「おう。」

 自分よりいくらか背の高い飛雄の頭を撫でる。垂れてきたこうべに向かって「またね」と言うと、またゆっくりと頭が上がった。

「スポドリ、帰りに飲むから。」
「うん。まだ春だけど、熱中症気をつけて。」

 おう、と、いつもの返事をして去っていく飛雄の背中に、気づかれないよう手を振る。
 今更になって同じ学校が良かったな、なんて思ってしまうけれど、結局学年が離れていれば学生をやめるまで変わらないんだろう。



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2019年4月リク企画
ゆき様より
影山飛雄
スポーツドリンク / 体育館 / 及川の同級生で影山の恋人
(VS及川があると嬉しいです)
でリクエストいただきました
ありがとうございました!





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