trance | ナノ



 セオって分からない。クダリは素直にそう思った。
 クダリとセオは、ホームに設置されている、サブウェイ内でのバトルを映し出す大画面を観ていた。画面は6つあり、それぞれシングル・スーパーシングル・ダブル・スーパーダブル・マルチ・スーパーマルチのバトルを映している。2人はシングルトレインの画面を観ている、挑戦者が快調に進んでいるのでもう直ぐノボリの元にたどり着くのだ。

「あのポケモン、ジャ・・・ジャ・・・ジャローダ、でしたっけか。よく育ってますね。『こうげき』も『とくこう』も強いです。図鑑読んだときにはこんなに強いポケモンだと思っていませんでした。強化剤使ったんですかね・・・。」
「1匹で相手全滅させるくらいだし、よっぽどだよ。」
「それに素早い、必ず先制を決められるのは有利です。」
「そうだね。」
「リーフブレードが決まった・・・すごい!的確に狙えてる、コントロールもバッチリなんだ・・・。元々急所に当たりやすい技が、もう百発百中!」

 クダリは、セオがポケモンバトルを真面目にみて、分析をしているのが不思議だった。てっきり彼女はポケモンバトルは嫌いなものだと思っていた。
 初め、異動してきて初めて話した時には”ポケモンバトルは大好きです”と言っていたので、そうなのかと分かった。しかし、実際バトルを申し込んでみると悉く断られる。バトルサブウェイに挑戦者として乗ってくれ、と、クダリが何度も何度も頼んでいるのにも関わらずだ。だから、本当は嫌いなのかもしれないと思っていた。
 今、セオの目は爛々と輝いている。体がうずうずと細かく動いていて、それはまるでバトルがしたくて堪らないと言っているようだ。実際そうなのだろう。

「ね、セオもサブウェイ乗ろう。」
「・・・遠慮しますね。」

 しかし、バトルの話を持ちかけた瞬間に動きがぴたりと止まり、急に眼が覚めた様になった。

「でもバトルしたいでしょ。」
「・・・あんまり。」
「あんまりってことは、ちょっとはしたいんだ。」
「ちょっと、だけなら。でも、出来ないんです。」
「なんで?」
「――イッシュは、」

 彼女はぽつりと呟き、直ぐに口を手で押さえた。目だけ動かしてクダリを見ると、彼は眼を大きくして、セオの言葉の続きを待っていた。
しまった、セオの背筋がヒヤリとした。

「なになに?!」
「・・・、・・・いやなんでもないです。さて仕事に戻らねば、ああ忙しい忙しい。」
「ちょっと、待ってよっ・・・!」

 人混みをかき分け逃げて行ったセオを追う。自分が人混みから出た時既に、セオの姿は見えなくなっていた。早歩きをしながらホームを見渡したが彼女の姿はない、そこでクダリは追うのを諦めた。セオが行った場所は大体見当が付いている、地下から出ることは無いし仕事場と言ったら限られる。しかし彼には追いかける気がわかなかった。
 背後から、オーディエンスの失意の声が聞こえた。シングル挑戦者が敗れたようだ。あと、一歩だったのに。

 あと一歩だったのに。あと、

「僕はあと一歩なのかな。」

 (セオはポケモンバトルをしたくないという、でも僕はセオとバトルがしたい。セオだって本当はバトルがしたい。どうやって説得すればいいのか分からない、どうしてセオがバトルをしたがらないのか分からない。
 
 それどころか、本当に彼女がポケモンを持っているかどうかも分からない、彼女のモンスターボールを、見たことがない。)

「・・・はやくしたいなあ、バトル。」

 戻ってきたシングルトレインから、先ほど画面の中で活躍していた少年が出てきた。彼の表情とクダリの表情は、同じような憂いに沈んでいた。






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