trance | ナノ



「セオは明日休み。」
「そうです。」
「じゃあサブウェイに乗ってね。」
「はい?」

 明日は、セオがバトルサブウェイに勤めてから、3日目の休日である。勤め初めて2週目の終わりの日だった。
 世の中と同じく土日に休みがとれて、とてもラッキーだと思った。先週の休みは週の真ん中で、まだ新しい職場に慣れていないということもあって、することは無かったがメトロに居た。今週は、手持ちのムクホークに頼んでシンオウにひとっ飛びしようと思っていたのだが・・・、

「運転手、足りてますよね・・・シフトも決まってますし。」
「違う、セオは明日僕への挑戦者。ダブルトレインにトレーナーとして乗って。」
「え・・・ああ、そういう事で・・・。嫌ですよ、バトルなんて。それに明日は実家に帰るんです。」

 話を断った途端、クダリの瞳がギラギラと輝いた。セオは知っている、この目は、バトルがしたくて堪らない時のクダリの目だ。これはまずい、セオは冷や汗をかいた。極力バトルはしたくない、普通のポケモンバトルもだが、モニターを通してバトルの全てがホームで放送されてしまうバトルサブウェイならばなおさらだ。

「なんで!バトルしよう、実家に帰るのはまた今度。」
「サブウェイに乗りたくありません、バトルするなら何処かで野試合しましょう?」
「ヤダ。今寒いし、サブウェイでセオが辿り着くまでのドキドキを味わいたい。サブウェイのルールで戦いたい!」

 いい歳をしておいて、まるで子供だ。こういう時のクダリは随分幼く見える。そうしてこうなると、彼は自分の思い通りになるまで、頑なに釈放を許さない。・・・クダリの目が怖い。ジッと見つめられて、自分の目に穴が開いてしまいそうだ。いつもはニコニコしていて好感の持てる口元も、今は薄ら恐ろしい。

「ねね、やろ、明日バトル!」
「ごめんなさい、やりたくないです。」
「なんで?きみはポケモンが好きだって、バトルも好きだって言ったよ。」
「・・・。」

 黙ってないでよ、と、クダリは腕を大きく広げてバタバタさせた。ああ、ノボリさんはまだかなあ、と、セオは思った。クダリに気づかれないように時計を見ると、丁度19:50。ノボリの到着予定まであと10分。

「そういえば、セオのポケモンを見たことない。どんな子を連れてるの?気になる、見せて!」
「ええ・・・!」

 あからさまにイヤだという顔をしてしまった。それをみたクダリは、あっ、と、声をもらして一歩引いた。

「ご、めんなさい。ここだと狭いし、外だと寒いし、ポケモン達が嫌がるかなって、」
「そっか、僕もちょっと強引過ぎた。ポケモンは明日のバトルで見せてもらう。」
「いや・・・明日も・・・。」

 クダリはいつもの笑顔に戻って、職員達が自由につまめるお菓子に手を伸ばした。大きなバスケットの中から、煎餅やら飴やらを漁る。
 何て言って断ったら、確実に、そしてクダリを悲しませず明日のバトルを無しにしてくれるだろうか。とりあえず思いついたままに、イヤだという気持ちを口にしてみるが、彼にはほとんど効いていない。
こうかは、いまひとつだ・・・。

「お疲れ様です。」
「あ!ノボリ!」

 渡りにフネ、地獄にホトケ!

「事務室にノボリさん!お疲れ様です、ちょっと話を聞いてくださいよう!」

 セオは今事務室で起きていたことを事細かに話す、ちょっとだけ自分に有利になるように。そうするとノボリはうんうんと頷いて、セオの肩に手を置いた。

「ご実家の方々にどうぞよろしくお伝えください。」
「やった!」

 ノボリから帰省許可が下りた。セオはガッツポーズをし、クダリは、ああー、と残念そうに嘆いた。

「ごめんなさいクダリさん、また今度、いつかお相手します。」
「いつかっていつなの、つまんない!」






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