trance | ナノ



懲りない奴



食堂だった。昼時で、セオをはじめファイターの殆どが食事をとるために、集まっていた。セオは丁度食事を終て、暇のある午後をどうやって過ごすかを考えていた。


「セオ、ちょっといいか?」
「んっ?」

自分の名前を呼ばれたので、声のした方に振り向いた。

「おや、スネークさん。どうかしました?」

くるりと体ごと振り向く。そこには、伝説の傭兵だと紹介された最近やってきた参戦者の、スネーク。彼は黒い半袖Tシャツに、灰色がかった青のジーパン姿だった。乱闘時の姿よりも、ずっと楽そうに見える。

「マスターハンドに買い物を頼まれたんだ。」
「貴方が買い物を頼まれるなんて、珍しいですねえ。」
「機械の部品を買いに行くんだが、それなら俺が一番詳しいからだとさ。それで・・・。」
「ああ、なるほど。それで、なんです?」

スネークは小さなメモ用紙をセオに手渡した。セオは内容に目を通すが、聞き慣れない難しい横文字が――多分、機械の部品の名前なのだと思う。――羅列していたので、何が必要なのかさっぱり判らなかった。

「いやあ、なあ。俺は街に詳しくない。不安だから、誰かを連れて行けと言われたんだ。だからお前に頼みにきたんだが。どうだ?」
「そうですか。じゃあ付いて行きます、午後は暇でしたし。」
「そうか、助かる。行くぞ。」
「え、いきなり過ぎる!」

女の子としては、ちょっと身支度の時間が欲しいんだけど、というセオの叫びは、さっさと食堂から出て行ったスネークに聞えていなかった。セオはまあいいかと呟き、スネークの後を追ってエントランスに向かった。




城下の繁華街を、2人並んで歩く。目的は、どの建物よりも高くて立派な電器屋のビル。今日は休日だったか、街は人で溢れていた。
スネークとセオは、人込みを掻き分けやっとのことでビルに辿り着いた。2人の存在を感知し、ガラス張りの自動ドアがガーと開く。中は外よりも雑踏していた。
スネークは早速メモ用紙を取り出し、何処に行けば目的の物が買えるのかと、店内の案内板を見る。

「・・・2階と・・・3階・・・で間に合うのか。」
「私も何か探してきましょうか?」

セオはスネークの横から顔を出し、メモを覗いた。やはり何のことか分からない単語が、箇条書きで並んでいた。唯一、『・ボルトとナット』だけが理解できる。たしか、何かを留めるための物だった。――これって、電器屋に売っている物だっけ?

「ボルトとナットしか判りませんけど。」
「じゃあ、それを頼むか。」

スネークは必要な大きさと個数を伝えると、人混みに紛れて店の奥に消えていった。セオは独りになり、途端に不安になった。街には何度も来たことはあったが、機械類については知識の範疇にない彼女は、此処に入ったことはない。この歳になって迷子は恥ずかしい、と自分に言い聞かせながら、まあ大丈夫だろうと肩の力を抜いた。店の奥に進み、2階に上がった。


ボルトとナットを買うだけ・・・だから、直ぐに済むお遣いのはずだった。しかし、セオは売り場を見て固まった。

「ボルトって・・・こんなに種類がある物だったの・・・?」

透明のプラスチックケースに詰められたボルトが、色々な種類売られている。六角ボルト、アンカーボルト、スタッドボルト・・・。

「この六角ボルトっていうのが、良く見かけるやつだけど。・・・間違っていたら嫌だしなあ。」

先にナットを見ておこう。と思ったが、此方にも沢山種類がある。セオは頭を抱えた。これだから機械は苦手なんだ、どれも同じように見えるけれど、どこか細かいところが違って、私にはそれが見つけられない、と。
結局スネークを連れてきて、正しい種類の物を購入した。セオは、意気込んで買い物を任せてもらったというのに、やり切る事が出来ずに極まり悪かった。

「すいませんでした・・・。」
「いや、俺が悪かった。機械は苦手だとお前が言っていたのを、忘れていた。」

そう言われると、更に面目ない。セオは帰り道の間、ずっと下を向いて、赤面しながら歩いていた。

「そう悄気るな。機械のことなら、俺が教えてやるから、な。」

セオの後頭部を、スネークはぽんぽんと優しく叩いた。スネークには見えていないが、セオは俯いたまま、僅かにはにかんでいた。スネークには、セオと同年代の男の人とは違い、包容力的な何かが、あると思う。マルスはそれとは違うが、アイクやリンクは無神経で、気の使い方がまるでなっていない。・・・と言う話を、何時だったかセオはゼルダとした事があった。

「優しいんですね、今日は珍しく。」
「なんだ、俺は何時でも優しいぞ。」
「何時もは唯の変な人ですよ。」
「失礼な奴だな。」

すこしだけ機嫌がよくなって、セオはちゃんと前を向いた。ついでにいい気分を表すように、両手を前後に大きく振りながら歩く。左手に持っているレジ袋の中で、ボルトとナットがチャリチャリとなった。



「買い物に付き合ってもらったんだから、何かお礼をしないとな。」
「御礼?そんな、とんでもない。必要ないですよ、寧ろ迷惑かけて悪かったんですから。」
「しかしな・・・。」
「お城に戻ったら、紅茶でも飲みましょうよ、それでいいです。」
「そうか?・・・そうだな。」

城が近付いてきた。

「・・・む。」

近付くにつれてスネークは、瘴気に似たドス黒い空気をピリピリと感じた。彼はこういうのに敏感だ。戦場を駆け回っていたからだと思う。毒ガスか?と、ありえない想像をして、その空気の濃い城の方を見上げる、そこには、

「アイク!」

セオが名を呼んだ、瘴気の発生源の。スネークはピシリと固まった。彼の脳裏に最悪のシナリオが浮かび上がった。アイクの片手に握られているラグネルが、光を反射してギラリと光った。

「セオ。」

アイクが少し大きめの声で呼んだ。セオは素直に彼の元に駆けて行った。スネークは1人残され、ああ幸せは終わったと顔を青くして思った。
セオに近付くな、変態が移るだろう。セオと二人きりになるな触るな、孕むだろう。前からスネークがアイクに言われていた言葉だ。とんだ誤解だありえない、と言ってもアイクは聞かない。いつもはそう言われても、怒られても軽く流していたが、今回はそうはいかない。怒り方が尋常でない、変な物が流れ出ているし。今すぐ逃げ出さなければ、先には死しかなさそうだ・・・。

「何処に行ってたんだ?」
「スネークさんに頼まれて、買い物に付きあってた。」
「2人でか?」
「ええ。」
「そうか・・・。」

スネークは素直で純粋なセオが、今日は少しだけ憎かった。――なんとか誤魔化してくれれば良かったものを。
アイクの視線が、セオからスネークに移った。

「あいつと二人きりでか・・・。」

命の危機を感じたスネークは、ゆっくりと後退りをし、そして一目散に逃げて行った。

「あっ、待てこのっ・・・!懲りないな貴様ぁ!」

勿論アイクは後を追った。この後どうなったのかは、走り出したこの二人しか知らない。






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