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R&J
元々、俺が『助言』なんてしたのが悪かったのか?いや、言っても言わなくても、いつかはこうなっていたはずだった。機会を速めただけなのだから、別に如何ってことないだろう。・・・如何ってことに、なってしまっているが。
「何で俺がセオと青組を組んで、ゼルダとアイクの赤組に対抗なんだ?普通俺とアイクは逆だろ。」
「でも、マスターが仰ったのですから。」
俺とセオのチームカラーは青。ゼルダとアイクのチームカラーは赤。チームが2組、それで乱闘。つまり、チーム戦。
「俺もおかしいと思うな。セオ、こっちに来ないか?」
アイクの奴は、セオを引き込もうとしている。ちょっと待て、3対1にするつもりか?セオはセオで、行こうとするし。
「待てセオ!行っちゃ駄目だ。」
「あっ・・・ああ、そうだった。」
「何故、俺達の仲を邪魔するんだ。」
「邪魔とか、そういうんじゃない・・・。」
まだ始まっていないのに疲れてきた。アイクは本気でセオを引き込もうとしている。彼女の腕をとって、ゼルダの隣に並べようとさえした。
「仕方がないでしょう、私はリンクさんと青組なんだから。」
まさに、鶴の一声。セオが抑えると、アイクは大人しくなり引き込むのを諦めたようだ。
「今日は敵同士として、互いの技術向上を目指そう。」
セオはなにやら立派な目標を掲げた。アイクも、ゼルダまでも同意。3人は手を重ねて、エイ・エイ・オー!と叫んだ。なにこれ、やっぱり3on1?
「じゃ、頑張ろうねリンクさん。」
「良かった、寝返られたかと思った。」
ともかく、乱闘開始である。オネットシティの一画がリングだ。
俺は早速剣を抜き、アイクの元へ突っ込んだ。ゼルダを攻撃なんかできない。セオはというと、横目でちらと見た限り、スタートと同時に、どせいさんの元へ駆けつけていた。戦えよ!
アイクに向かって、半ば自棄で、バクダンを投げつけた。避けられたときのため、弓矢を引く、が、必要なかった。アイクの奴は、真正面からバクダンの爆発をくらった。俺は見ていた、アイクの視線の先に居たのは、真っ向にいる俺ではなくて、その後ろにいるセオだというのを。だからバクダンに気付かずまともにくらったのだ。少々腹立たしい。
「くっ・・・。」
「余所見するな!」
目の前にいるのに視界に入れられていないのは、悔しい。恋は盲目とは言うが、ここでもそれはありなのか?
「セオッ・・・。」
アイクの奴はそう呟いた。俺にはしっかり聞えていた。悔しかったから、刀を大きく振りながら間合いを一気に狭めた。剣を交えて鍔迫り合い。やっとアイクは此方に集中した。
・・・って、俺がアイクのことを好いているみたいになってないか?違うぞ、それは!
「ハッ!」
押して、引いて、直ぐに斬りかかる。ジャストミートだ。アイクの奴は隣の建物の屋根まで吹っ飛んだ。しかし俺は直ぐに気付いた、この行動は失敗だったと。向こうの屋根の上に、セオとシークが居た。俺はジャンプで屋根の上に渡り、アイクの前に立ちはだかった。
「PKファイアー!」
セオの技が炸裂する。火柱が立って、シークに直撃。彼もかなりのダメージを受けているのだろう、仰け反って吹っ飛び、地面に墜落した。セオは両手を目の前に出して、次の攻撃の準備をした。しかし、目の前にいるのがアイクだと判って、一瞬ピタリと止まって隙が出来た。
シークの奴は見逃していなかった。素早いアイツは、瞬時にその隙をついて、蹴りを放った。その蹴りはセオに直撃。彼女は吹っ飛び、場外にな・・・
「っ・・・と!」
らなかった。アイクがセオを助けたのだ。背中に片手を回し、もう片方の手でセオの手を握るその姿は、まさに恋人同士をイメージさせるうえ、アイクの奴が同チームだと思える位に、自然なアシストだった。セオは困惑しながらも、助けてもらっていたので、一応ありがとうとは言っていた。
「アイク、何をしている。」
シークがやってきた。
「セオは今、敵なのだ。私情を持ち込むな。」
「悪い。しかし、な・・・。敵同士だと思うと、余計に燃え上がるんだ。」
「何の話だ。」
金色の前髪の分け目から僅かに覗く赤眼が、ギロリとアイクを睨んだ。シークの言っていることが正論なのだが、アイクの言っていることに同意してしまう俺がいるのは、きっと彼と同じ考えだからなのだろう。俺だって、敵とは言えどもゼルダに攻撃は、できればしたくない。
「ま、今は敵だから。」
セオは、悪いね、と、眉をハの字にしながら、アイクの鳩尾に肘をガッと突っ込んだ。あれは痛い。
「ぐぅッ・・・!」
「もらったあああ!」
セオのサーベルのみねが、アイクの脇にクリティカルヒット。アイクは堪えて、ラグネルで仕返し。
「わっ!」
セオは後ろによろけて、建物の壁にぶつかった。
「告白した相手にラグネルとは、良い度胸。」
「これは愛のムチだ。」
「違うだろおぉおおお!」
真顔で、川の流れの如くサラッとおかしなことを言うものだから、目の前のシークの事も忘れてツッコミを入れた。
「私、本当は・・・アイクと戦いたくないの・・・。」
セオは、上目遣いで瞼をパチパチとさせて、アイクをジッと見詰めながらそう言った。小首を傾げるその姿は、なんとも愛らしい。普通の男ならば、彼女のこの行為に直ぐ落ちるだろう。
「本気で、もらったあああ!と叫びながら、剣を振り下ろしたのにか?」
アイクの奴は違ったが。(俺も違った。)(俺にはゼルダがいるからな。)
「あれは愛のムチでしょう?」
何処も彼処も間違ってるぞ、と心の中で教えてやる。しかしアイクは納得したようだ。
「まるでロミオとジュリエットね。」
いつの間にか、シークはゼルダに戻っていた。彼女は微笑みながら、戦うセオ達を見て言った。ロミオとジュリエットはこんな激戦を繰り広げないぞ。
「ロミオとジュリエットだってさ。」
「なんだ?それは。」
「愛し合っているけれど、報われないという、切ない男女のお話。」
「俺達は違うだろう?」
「まぁ、自信があるようで。」
結構ですわ、と、セオは使い慣れない丁寧な言葉で続けた。ジュリエットを意識しているのだろう。しかしこの返答、セオ自身も、アイクが好きだと認めたと取れる。
「PKスターストーム!」
間髪容れずに、セオの必殺技が発動。アイクは対抗しきれずに、場外アウトになった。ナイスファイト!
この後、再びシークに戻ったゼルダを、俺とセオで場外アウトにさせた。2on1は気が進まなかったが、これは乱闘。仕方がない。
乱闘後のアイクとセオは、中々良い感じだった。