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直球勝負




夕食時を過ぎて、人気の無くなった食堂。セオは1人そこに残って、マスターハンドの著書を、紅茶を飲みながら読んでいた。乱闘の無い静かなこの感じが、彼女は好きだった。忙しい1日の喧騒から離れて、コンセントレーションができる。――いつもだったら、そうだった。

「・・・フー・・・。」

今日は違った。気になることがあって、集中できない。本の中身をジッと見詰めていても、青色の影が、脳の中をちらつく。思い切り、本をバタンと閉じて、テーブルの上におく。その上に付き伏せて、はあ、と、ため息を付いた。頬が熱くなるのを、セオは感じていた。多分、傍らにある紅茶と同じ位熱い。

ガチャン

扉の開く音がした。セオはゆっくりと上体を上げて、扉の方を見た。

「あ。」

入り口に居たのは、リンクとゼルダ。2人はセオを見つけて近寄った。乱闘の後なのか、少しだけ汗をかいていた。

「よお、セオ。」
「まだ居たのね。」
「うん。2人は乱闘してきたの?」

ゼルダは、そうよ、と答えてセオの向かいに腰を下ろした。リンクは厨房の大きな冷蔵庫を開け、中に首を突っ込んでいた。

「丁度、とたけけさんがライブをしていましたよ。」
「あー・・・土曜日の夜だもんね。」

リンクは『ロンロン牛乳』のビンとコップを持って戻ってきた。ゴト、と音を立ててビンを置き、自分とゼルダの前にコップを置いた。

「ありがとう、リンク。」
「どういたしまして。」

セオはふと思った、この2人の関係は多分、自分とアイクのが逆になったものなのだ、と。リンクは料理が出来る、ゼルダは舌が肥えている。
2つのコップには、牛乳がなみなみと注がれた。リンクもゼルダもそれを飲む。セオもつられて紅茶を飲んだ。そして、

「そういえば、」

ティーカップを置くのとほぼ同時に、殆ど独り言のような小声で呟いた。声は小さかったが、シンと静かな食堂だったので、リンク達にはしっかり聞えていた。彼等は揃って、ん?と言った。

「リンクさんだったよね、アイクに何か言ったのは?」
「何か?・・・ああ、あの助言のことか。彼女には優しくしろ、ってな。」

良いこと言っただろ?とでも言いたげに、リンクは少し胸を張った。
「そこなんだ。“彼女”って、私とアイクはそ・う・い・う・風・に見えるの?」
「あら、御二人はお付き合いをなさっていたのでは。」

こっちも勘違いしている、と、セオは思った。
「いいや、付き合っている、っていうのはない。アイクの方は、そ・う・い・う・風・に思っていたみたいだけど。」
「アイクの奴は自分で言ってたぞ。セオは俺のだから、手を出すな、ってな。特に、スネークに向かってさ。」
「ええ・・・そうだったの?」
「では、セオはアイクとお付き合いをなさっていたわけではないのですね。彼の一方的な想いですか。」
「ううん、私も・・・満更では、ないんだけど。」

少し俯いて、2人から目を逸らして言った。なら良いじゃないか、と、リンクは言った。セオも、だから良いのだと思っている。

ガチャ

また扉が開いた。それと一緒に、セオは居るか?と、聞きなれた声がした。

「アイク。」

セオは直ぐに返事をした。アイクはズカズカとセオに近寄って、

「腹が減った、何か作れないか?」

と言った。普段なら直ぐに、分かった、と返事をするセオだったが、今は少し戸惑った。何か、期待をしていたのだ。だから期待外れで少々残念と思っている。

「・・・どうした?」
「いいや・・・うん、なんでもない。パンはあるよ、シチューもあるってコックが言っていた。」

セオは厨房に消えていった。リンクはそれを見送ってから、アイクを見上げ、違うだろ、と言った。

「何がだ?」
「聞いたところ、セオの方はお前と付き合っている気じゃなかったそうだ。・・・言うべき事は言っておく、だろ。」
「・・・ああ、そうだったな。」

アイクは顎に手をそえ、目を瞑った。
セオは直ぐに戻ってきた。シチューとパンを乗せたトレイを片手に、もう片手に御絞りを持って。

「セオ。」
「なに?持ってきたよ?」

「好きだ。」

ボト、という音を立てて、御絞りが落ちた。セオとリンクは目をカッと見開き、アイクを凝視。ゼルダは口元に手をあてて、まぁ、と、呟いた。

「セオ、あんたの事が、ずっと好」
「こここ此処に置いておくから。じゃあ、おやすみ!」

セオは話を全て聞かずに、ドンとテーブルにトレイを、半ば滑り落すように置き、テーブルとテーブルの間を滑るように抜けて、

バタン!

食堂を、矢のように速く出て行った。

「駄目だったか。」

シーンとなった食堂に、アイクの声が響いた。

「お前は、もう少し乙女心とかいうやつについてを、学ぶべきだ。如何すれば相手は喜んでくれるかだとか、気遣いの仕方だとか、な。」
「あら、リンクが偉そうに言えた事かしら?」
「・・・。」






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