trance | ナノ



... ぼくの彼女がこんなにも強い ...




 セオ・ペンドルトンは激怒した。必ず、かのジョースター家の養子をぶっ飛ばすと決意した。セオは男同士のいざこざなどわからぬ。セオは、街に住む女性である。毎日勉強をし、医者である父の仕事を手伝って暮らして来た。けれども大切な彼氏であるジョナサンの危機に対しては、人一倍に敏感であった。今日未明セオはボクシンググローブを抱えて家を出発し、あまり遠くないこの原っぱに来た。

「ディオ・ブランドー!!」
「・・・泣き虫のセオ・ペンドルトンじゃあないか。ぼくに何か用事かい。これから男同士の真剣勝負なんだ、女の君はあっちへ行ってくれないか。」

 ジョースター家の養子、ディオ・ブランドーはボクシングのグローブを腕にはめ、バンバンとグローブ同士をぶつけてセオを威嚇した。周りにも何人かグローブをはめている男の子がいる、それと、大勢の観客と。


「わたしと勝負しなさい!」

 あからさまにあっちいけと言われたセオは、ズイと自分のグローブを突き出して見せた。自分のと言っては語弊がある、昨日ジョナサンから借りてきたグローブだ。

「ジョナサンが目を怪我してわたしのところに来たの!聞けばディオ!貴方がやったんだって?だからわたしはむかついたわ!腹いせに貴方をぶん殴るの!」
「・・・とんだ勘違い女だ。勝負でのちょっとした事故じゃあないか。」
「だから腹いせって言ってるのよ!それなら故意に怪我をさせたのでなくてもやれるわ!」
「淑女の欠片もないな。そんなことをして君のお父様が喜ぶと思うのかい?」
「お父様のことは関係ない、もし、万が一、何かの間違いで怪我をしても自分で治療できるしね!」
「・・・君、このぼくが女なんかに負けると思ってるのか?」
「わたしは勝つ気でいるわ。」

 セオはグローブをはめ、バンバンと両手を叩いた。スカートだって御構い無しである。ディオはちっと舌打ちをした。女に手を上げることに躊躇いは無いが、周りに大勢いる中で女をのしたとなると、周囲からの評価は悪くなるだろう。
 しかし1人の男の子が、こんな生意気な奴やっちまえよ、と囃し立てると、他の人達もわりと乗り気であることが分かった。多くはディオとセオの一騎打ちを望んでいるようだった。そんな声を聴いてディオはニヤリと笑う。これならば問題なさそうだ。彼は柵で囲われたステージに入り、早く来いよとセオを挑発した。セオも応えるように不敵な笑みを浮かべて柵を跨いだ。
 レフェリーがセオとディオの間に立つ。

「ノーアイ、ノーヘア。オッケー?」
「オッケー。」
「オーケー。」
「ファイッ!」

 カーン!と、リングの外でゴングが鳴らされる。ディオはそれと同時に剛速のパンチ。小競り合いのひとつもする気はないらしい。セオは慌ててガードしたが、ガードを押しのけて彼女の頬にパンチが当たる。しょっぱなから口の中が自分の犬歯で切れた感覚がした。

「このぉ…!!」

 セオはブチ切れである。負けじとジャブ。反撃が来ないのでワンツーパンチ。ディオもやられっぱなしでは堪らずフック、セオはガード。ディオ、反撃をセオ、ディオ、セオ、ディオ、ディオ、ディオ、そしてディオの顎を削り取るようなアッパー。セオのグローブに当たって失敗に終わる。
 歓声がワーワーとうるさい。女の割りにディオのパンチに耐えているのが、男の子たちには面白いらしい。セオは口の端から血が垂れていたが気にしない。

「しぶとい奴・・・!」
「口の中痛い・・・次で決めてやる!」
「は!受けっぱなしの奴が何を言っているんだ。」
「ぜっっったい負けない!!」

 おしゃべりの途中、話を遮るようにセオのパンチ。不意をつかれてディオはガードが中途半端になる。ガードを固められる前に連打。ディオがぐらついたらセオは大きく腕を後ろに振りかぶり、渾身の力を込めてナックルアローをぶちかました。

「にゃろう!」
「ぐっ・・・!」

 右頬を強く打たれたディオは前屈みに俯く、ここでヘッドロックを決めたいがボクシングでは反則だ、仕方ないからその気に食わないツラにアッパーカットをお見舞いして終わりにしよう。

 と思った、

「セオ!!!!!!!!!!!!!」
「うわあああああ!!!!」

 リング外からの怒声、セオが一番恐れていた事態が起きてしまった。とんでもなく怖い顔をしているジョナサンが立っている。彼はセオを殺さんとばかりに睨みつけていた。

「ジョナサン!!!!!」

 セオは手でタイムのポーズを取り、慌ててグローブを外した。

「・・・グローブはジョジョから借りたんじゃあなかったのか。」
「返すつもりがあれば無断であっても借りたことになる。」
「最低だな君。」
「ということでごめんけれどもこの勝負はお預けだ!どちらにしろ最後にアッパーを決めていたら完全にわたしの勝ちだったけれどもね。」
「いいや、勝ったのはこのぼくだね。」
「なにをう!?」
「セオ!!!!!!!」
「ごめん!!!!!!」

 周りの男の子達がシンと黙った。ジョナサンがリングに入る。彼はセオを睨みつけたまま視線をずらさない。セオもそんな彼が怖くて目が離せなかった。

「なにをしてたんだい?」
「ジョナサンの意趣返しです・・・。」
「ぼくは君にそんなことは必要ないって言ったよね、治療してくれるだけで十分だって。」
「で、でも、」
「いつもグローブを置いてあるはずの場所にこれがなかったからとても吃驚したんだ。もしかしてと思ったら案の定だったよ!」
「ごめんなさい!」

 ジョナサンは腕をこまねいて、しっかり頭を下げるセオを睨んでいた。

「いいかい、君は女の子なんだ、淑女はボクシングなんかしない、そうだろう?」
「でも、わた、」
「でもじゃないって!怪我でもしたらどうするんだ!」
「もう口の中切れてます。」
「なんだって!もう!ほらハンカチ!」

 無理矢理顔を上げられ、セオはジョナサンのハンカチで唇をぎゅうと押さえられる。大丈夫だから放してと言いたいが彼は聞かないのだろう。押し付けられたハンカチを受け取って口に当てる。ちょっとだけ口から離して見ると、しっかり血が着いていた。

「ディオもディオだ!なぜセオとボクシングをしようと思ったんだ!」
「セオがやりたいと言った、それだけだ。君には関係ないだろう、いちいち報告しないといけないのか?」
「報告?報告なんかじゃあない!相手は女の子だそ!やってはいけないと思わなかったのか!」
「あいにくぼくは男女差別なんてしないからな。」
「ディオォオオーー!!」

 激昂したジョナサンがディオに殴りかかる。咄嗟の爆発力が凄まじいかれのパンチは、セオとの試合でだいぶ疲れていたディオの頬にクリーンヒット。ディオはバタンと倒れた。彼は悔しそうに頬を押さえてジョナサンを睨むが、それ以上の反撃はできない。

「いいかい!セオもディオも、今後一切決闘をしようなんて思わないでくれよ!!」
「わかりました!」
「ふん!」

 ジョナサンはきつく叱らないとと意気込み、セオを連れてジョースター邸に戻って行った。残されたディオと観客の男の子達はしばらくポカンとして動けなかった。

















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露草さんリクエスト
『第一部のジョナサンとディオの青春(という名の昼ドラも真っ青な御家騒動)をドン引きしたり爆笑したり煽ったりして過ごす野次馬根性丸出しかつ甚だしいエリナ成り代わりのお話。』

夜露さんリクエストありがとうございました、ごめんなさい、こんな感じになりました。
わたしはボクシングよりもプロレスの方が好きです。





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