trance | ナノ



Blooming Feeling ... 09


 何かに意識を支配されたような感覚だった。自分の体を、脳ではなく外部からの命令で動かされているような。しかし自我はなく、意識自体は眠っていて、体だけを支配されたような感覚……。




 は、と、目を覚ました時、そこはフェルディナンドと恐竜と出会った場所ではなかった。砂地だ、セオはそこに倒れていて、頬や身体の側面に砂地らしい柔らかい地面が当っている。しかもいつの間にか夜になっている。辺りを見回した、自分以外にも人が倒れている、各々頭や顔を抑えて苦しそうに唸っている。これは一体どういうことだ。彼女には何が起きているのかさっぱり分からない。

「アッ……あんたは……。」
「あ。」

 こっちを見ている男性が二人いる。片方は見覚えがあった、レース開始前にすれ違った長髪の男の人だ。セオは足を踏まれたのでよく覚えている。向こうも覚えていたらしく、申し訳なさそうに口を「イ」に開いている。

「おたくさん……あの時の。」
「なんだ、知り合いなのか?」

 そしてもう一人の方、セオが警戒していた人物だ。「前」だったら喜んで飛びついたのだが、今はそうはしない、むしろ存在をほんの少し疑っている。

「ジョナサン・ジョースター……。」

 セオの親友だった男だ。幼馴染で、大学時代までの生活を一緒にした人。もちろん「前」は。しかし今は、セオの親友だったジョナサンとは似ても似つかない風貌で、性格も大分違うように感じる。ジョナサンのことは大好きだったが、なぜだろう、近づくことに抵抗がある。

「えーと、君は?」
「……セオ・フロレアールです。」

 それに、ジョースターという苗字を持つ者達はそろって、ディオの生命を脅かす。セオにとって今のジョナサン……いや、ジョニィは、ディオに近づけてはいけない人物なのだ。

「オレはジャイロ・ツェペリだ。」
「ジャイロさん。」
「あの時は悪かったな、ホントに。足大丈夫か?」
「それより手首折っちゃって痛いです。」

 セオはよろよろと起き上がる。ディエゴはどこに行ったのだろう。自分が意識を失ったあと、フェルディナンドに何をされたのだろう。いきなり不安になって辺りを見るが、彼らしい人はいない。

「……ディオは?」
「Dio?アイツがどうしたんだ。」

 ジョニィのあからさまに嫌そうな顔。やっぱりこの時代も2人は相いれないらしい。あっちのジョナサンはいくらかディオに優しかったのだが。

「Dioのヤローなら崖を渡って行っちまったぜ。」
「なんだって……!ラーム、ラーム!?」

 ディエゴが生きている、良かった。なら速く後を追わないと。そうだ、ラームもどこに行った、というかここはどこで何なんだ。さっぱりわけが分からない。
 ひひん!背後で愛馬の声がする。振り返ると、脚を折って砂場に座っているラームが居た。

「ああっラーム!無事だった!?」

 慌ててラームに駆け寄る。彼はぱっと立ちあがって、セオの胸に顔をぐいぐいと当てた。元気だから大丈夫、と言っているようだった。ラームのたてがみをガシガシと撫でてやる。恐竜に食われてしまったのかと思った。

「ラームいい、いける?ディオを追いかけないといけないの。いくよ?」
「ぶるるるっ。」
「あ、あんたDioの奴を追いかけるのか!?」

 ジャイロがセオを制止させようとする。肩を掴んで辞めておいた方が良いぜと言った。彼とディエゴの間に何かあったらしい。が、セオにはもちろん関係ない。親切心だとしても迷惑なので、大丈夫ですと言って振り切ることにした。

「あっオイ!手首折れてるんだろ!」
「大丈夫、自分でどうにかする。」

 ジョニィもセオを心配してくれている。が、それよりもディエゴだ。セオはラームに鞭を入れて、崖沿いに走り始めた。






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