trance | ナノ



Blooming Feeling ... 08


 荒れた山岳を行く。
 足場は硬く、がけになっているところも多い、あまり良いコースではない。が、最短距離を行くのには最も良い。
 セオとディエゴは丁寧に道を進み、日常会話をつらつらとしていた。お互いのことを知ろうなんて思春期の男女ではないが、特に共通の話題が見つからないのだ。セオは馬が好きで乗馬を始めたわけではないし、ディエゴは前の記憶があるわけでもないし。
 ディエゴとしてはセオなんていてもいなくても良い。が、割と根気強さを見せてついてくるので放ってある。ちなみにいえば料理ができるので重宝している、退屈しのぎの話相手にもなるし。



 ちょっとした小高い岩の上に、人が乗っているのが見えた。暖かそうなコート、ファーのついたフードをかぶり、じっとこちらを見下ろしている。首元には薔薇を模したアクセサリーのようなものがたくさん着いていて、女性かと思ったが、近づくに連れてはっきり見えてくる顔立ちは男性のようだ。

「おい。」

 上から、声。ディエゴは一応止まる、のでセオも止まった。すると岩の上の男性はこちらに下りてきた。シルバーバレットとラームの前に立ち、ジロジロとディエゴとセオを舐め回すように見る。

「……ディエゴ・ブランドーとセオ・フロレアールだな?」
「何か用か?」
「そう身構えるな。」

 男性の探るような瞳に、ディエゴは威嚇するように応える。すると男性は、どうどう、と、馬をなだめさせるように両手を前にだし、冗談ぽく笑う。

「お前達の力を借りにきただけだ。」

 男性が片手を上げる、すると遠くから奇妙な叫び声が聞こえてきた。岩に反響して、ウワンウワンと唸っている。
 何の声だ?と、ディエゴとセオはキョロキョロ辺りを見る。そして、あり得ないものがこちらに向かって来るのを目にした。恐竜だ、恐竜がいる。図鑑に描かれている姿しか見られない古代の生き物。サイズの小さいティラノサウルスよ様な形の恐竜だ。

「恐竜……!?」

 さっきまで男性が立っていた岩の方角から、ドスドスと駆け下りてくる恐竜達。それらは男性の周りに集まり、まるで彼を守る様にセオ達の前に立ちはだかった。

「わたしはフェルディナンド博士だ。ディエゴ・ブランドーとセオ・フロレアール、君たちには"ある物"を探す手伝いをしてもらうぞ。」
「ある物……?」
「何をする気かはわからないけれど、ディオに不利益なことならなんだって許さない。」

 セオは手綱を引き、ラームと共に前に出た。ディエゴとフェルディナンド博士と名乗った男性の間に入り、片手を真横に広げる。

「オオ熱いお嬢さんだ。……恐竜達!」

 フェルディナンドはディエゴを指差し恐竜に指示を出す。セオは恐竜達の牙がディエゴに襲いかかるのだと瞬時に理解してラームを飛び降りる。そして恐竜達の前に出た。両手のグローブを外して、腰のベルトに突っ込む。両手を前に出して恐竜達をその手でつかもうと思った。

「出てきて、アトロポス!」

 先日と同じ様にセオの後ろにロボットの女性が現れる。それはセオの両手に自分の両手を重ね合わせると、セオの手のひらを光らせた。

「ほう、お前もスタンド使いか?」

 恐竜の首を掴む。ギュウウウウと苦しそうにわめく2匹はどんどんと老け込んでいった。しかしその2匹の横から恐竜は湧いて出る。全く間に合わない。しかしそいつらの標的はディエゴではなくセオなので、セオとしてはまだ、いい、のだろうか。

「っあああ!!」

 右腕を恐竜に噛まれる。グギ、と、気持ちの悪い音がした。手首の骨が折れたらしい、横に、あり得ない方向に曲がっている。痛みに耐えかねて両手を離してしまう。2匹の恐竜は老化で倒れた。
 手首から血が漏れている。しかも他の恐竜もセオに食らいつきにきた。腕や脇や脚を、引っかかれ、噛まれ……。

「ぐ、あ、やめて……!」
「セオッ!」
「来ないで!ディオ!逃げて、今のうち、」

 やめてと叫ぶことしかできない。それでもディエゴだけは逃がさなくては。彼を無事に逃がせられれば、あとは自分一人でなんとかする。
 ディエゴは数日間一緒にいたセオに申し訳ないと思いつつも、自分の身を一番に思い、シルバーバレットの踵を返させた。

「おっと、逃がさない。」

 しかしフェルディナンド博士の指示で、恐竜達がシルバーバレットの周りを囲む。太古の王者達を前に馬はただ黙っているしかできない。

「なにこれ!?あっ、身体が……!」

 セオに異変。噛みつかれている肌が段々硬くなっていく。爪がボロボロと剥がれて、人間の物とは思えない鋭い爪が生え変わる。口元もグニャリと避けて広がり、歯もまるで恐竜の牙の様に伸びた。肌は乾燥した様なひび割れで包まれ、これもまた恐竜の鱗のようだ。

「セオ!その姿は一体……!?」
「ディオ……ッガ、あ……!」

 自我が失われて行くのが分かった。意識が暗い海の底に引っ張られて行く。ディエゴに助けを求めようと喉を開いても、気味の悪い雄叫びにしかならなくなった。

「グギュウアアアア!!!グルルル……。」
「セオ!セオなのか!?なんなんだその姿は……!」
「よし丁度良い、お前に乗って行くとするか、――さて、ディエゴ・ブランドー、お前はスタンド使いではないな?ならば話は簡単だ、お前にも協力してもらうぞ。」

 多勢に無勢、ディエゴに大勢の恐竜達が襲いかかった。






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