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Blooming Feeling ... 07


 2nd STAGEのゴールが近い。
 今日は朝からずっと高速度を保った進行だ。残りの距離からして今日が2nd STAGEの最終日になるので、ディエゴは全力を出し続けてより短い走行時間を目指す。もちろんセオもそれに着いていっていたのだが、当たり前のようにみるみるうちに引き離されていった。
 それでも離れたくないとしがみつくように走り、ゴールは彼の背中を遠くに見ながらの到達となった。10位、良い順位である。先頭集団はそのまま3rd STAGEに突っ込む。ラームを休ませたい気持ちはあったが、セオはディエゴを見失うわけにはいかなかったので、止まることなくディエゴを追った。

 ゴールを過ぎて1kmするほどすると、選手達はそれぞれ自分の行きたい方向へと分かれていった。ディエゴは山がちな道に突っ込む。足場は悪いが次のゴールまでのほぼ直線コースだ。山路に脚をつかまれて速度を落としたシルバーバレットに、ラームは追いつく。
 ディエゴに並んでセオが笑うと、ディエゴもちらっとだけ横を見て、よく着いて来られたなと笑った。




 山を一つ越えたころには日は落ちていたので、今日の進行はストップして麓の街に入る。
 街の案内図を眺めたディエゴに、ちょっと来い、と言われて連れて来られたのは、街のバザール。夜でも活気付いている、むしろ仕事帰りの人たちで溢れかえる時間なのかもしれない。セオは何か買いたいものでもあるのかなと思ってディエゴについて歩く。すると彼はひとつのお店の前でピタと足を止めた。
 店頭には革製品が並んでいる。ベルト、財布、小銭入れ、手袋、靴……革でできている様々なもの。

「あっ。」

セオのグローブは、右手の物はしっかり裂けている。つけることに問題はないが、買わなければと思っていた。そこに丁度、革製品の店。

「あんたの手袋、新調しないといけないだろ。」
「え、うん。でもわたしのためにここまで?」
「当たり前だ、オレの追っ手を斃してくれたんだ。」

 選べよ、とディエゴはぶっきらぼうに言う。疲れているはずなのに、セオのためにバザール連れてきてくれたのだ。セオはわああっとはじけるような笑顔を浮かべると、どれにしようかと商品にがっついた。
 女性向け男性向けと様々なデザインがある、長さも装飾も種類が多い。全部の商品を万遍なく見てから、よし、と、欲しい物を決めた。

「……これにする。」

 選んだのは、今のと長さもデザインもほとんど同じ物。革の硬さもいい具合に似ている。手に嵌めてみると、今使っているものと変わらない付け心地がした、悪くない。

「じゃあ……おい店主、これをくれ。」
「あ、えっ……?」

 ディエゴはセオが選び取ったグローブを横から掠め取った。そしてそのまま店主に渡し、彼は自分の財布を取り出す。セオも慌てて財布を出すが、それをディエゴは制止させた。

「金はいい、オレが出す。オレのために駄目になったんだからな。」
「え、でも、あれはわたしが勝手にやったことだし。」
「いい厄介払いになったんだ、それに恩を恩のまま放っておくわけにいかない。」

 店主は手際良く値札を取り外し、ディエゴからお金を受け取って釣り銭を返す。実用的で良い仕事をした物である分、このグローブにはいい値段が着いている。それをサラリと出されてはセオは申し訳ない。それでも払う払うと言い続けてはディエゴの気遣いを無碍にしてしまうだろう、セオは最後には黙ってグローブを受け取った。

「……ありがとう。」

 早速今嵌めているグローブを外し、新しいものを嵌める。グーとパーを繰り返して手に馴染んでいるかを再確認。帽子のツバを触って、腰に手を宛てて、様いろんなポーズを取ってみる。

「どうだ?」
「すごくいいよ。ディエゴ、本当にありがとう。」
「オレが女に物を買ってやるなんてないぜ、大事に使えよ。」
「うん!大事に使う!」

 両手を胸の前でぎゅっと握り、心臓に押し当てる。嬉しくてたまらない。このグローブ、大切にしなくては。みすみす自分から鋭利なナイフの前に差し出すのは絶対にやめよう。しかし大切にしつつもたくさん使って、ヴィンテージ感を醸し出させたい。
 セオはもう一度自分が言える最高の礼の言葉を述べた。






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