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Blooming Feeling ... 05


 朝。地平線から顔を出した太陽は、すでに砂漠を暖かく照らしていた。今日も暑くなりそうだなあと今の気温から感じる。
 夜には丁度よく体温調節に使えていた毛布も今は暑い。セオは狭いテントの中で寝返りをうって毛布を剥ぐと、ゆっくりと上体を起こした。
 昨晩感涙しすぎたせいで目が痛い。水分を取られて眼球が乾いた。瞼は腫れただろうか、手鏡を覗いてみると、目尻だけがひとえになっている自分が映った。右目のほうが腫れているようなので、セオは午前中はできるだけ右目をつぶって過ごすことにしようと決めた。

「おはようごさいます。」
「おはよう、よく眠れたか?」
「うん、だいぶよく眠った。」

 先に起きていたディエゴがお湯を沸かしている。ステンレス製のコップにはコーヒーの粉が入っていた。

「コップがあったら出せよ、コーヒー淹れてやる。」
「いいの?お願いしたい!」

 ディエゴの顔を見て、はっきりと脳が覚醒した。彼にコーヒーを淹れてもらいたくて、セオは慌ててコップを取りにテントに戻る。鞄の中身をぐちゃぐちゃにかき回してコップを見つけ、急いで戻ってくる。両手で持ってハイと差し出すと、ディエゴは耐えられないというように静かに笑い始めた。
 そんなに必死にならなくても、と、彼は笑う。まるで新聞をとって来てと言われた忠犬のようだと言葉を続ける。

「……ごめんなさい、初対面なのにこんなにグイグイきて。不愉快でしょう。」
「別に、不愉快でもなんでもない。ただ珍しいとは思うがな。」
「珍しいかあ……。」
「オレに寄ってくる女は大体色仕掛けだ、あんたみたいに慕うような視線は受けたことがない。」
「……ふうん。」

 色仕掛け、そりゃあこんな色男で王子様のような人だ、寄ってくる女の人は身体か金か地位目当てだろう。はたしてセオ自身はどうか?一旦落ち着いて考えてみる。これはただの恋慕で間違いない、はずだ。なんだか自信がなくなってしまうが、それは自分の愛を疑う行為と同等だ、やめておこう。

「そんな馴れ馴れしい態度も嫌じゃあない。オレの足を引っ張らないならな。」
「心配しないで、貴方について行くために一生懸命乗馬を覚えたから。」
「……オレについて行く?」
「ね、一緒に行っちゃあだめかな。」
「ついてこられるっていうなら勝手にしろ。あんたに構ってられはしないけどな。」
「ありがとう!」

 ディエゴはセオのコップにお湯を注ぐ。高いところから、コップの底にお湯を叩きつけるように。コーヒーの粉末はそれにかき混ぜられて全体を濃い茶色に染めていく。ディエゴに淹れてもらったコーヒーを、セオは大層丁寧に受け取り、これまた嬉しそうにその中身を見つめた。






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