trance | ナノ



Blooming Feeling ... 04


 2nd STAGEの道中、である。
 日中、熱い砂漠をのんびりと走り、日が地平線に消えそうになった今、セオとラームは今こそが頑張り時だと一段と気合を入れていた。日が暮れてからの方が熱くなくて走りやすい。風の無い今、砂漠ならば視界がよいのもあるし。
 遠くにぽつぽつと出場者のテントが見える、焚火をしているのでより見つけやすい。セオはそのテントを避けて走る。近くを通ると『自分はまだ走っているのだ』という挑発になってしまうから。自分とて早く休みたい。休みたいが、日のある時にゆっくり走った分、ディエゴ・ブランドーと間が空いてしまっているに違いない。すこしでも近づいて、とにかく早く、また会いたい。2nd STAGEの開始時に彼の背中を捕らえられれば良かったのだが、うまく近くに居ることができずにスタートしてしまった。その所為で彼と全く別の方向に走ってるかもしれない可能性も捨てられない。


………というのを5,6夜過ごし、ついにセオはディエゴ・ブランドーを捉えた。

 テントを避けて走っていては、もしディエゴ・ブランドーだった時に気付けず通り過ぎてしまうと2,3日前に気付いた。相手に気づかれないくらいに、興味ありますと思われない程度に接近しては離れる、を繰り返しているうちに、シルバーバレットを見つけたのだ。

「こんばんは。」

 焚火に当っているディエゴに接近する。闇から姿を現したセオをみて彼は、はっとする。

「セオ・フロレアールか、やあ、こんばんは。」
「覚えていてくれたのね、嬉しい。」
「そりゃあ忘れるはずないさ、あんなに印象的だったんだ。」

 初対面であんなにグイグイくる女性も珍しいだろう。いや、彼のファンなら多くいるかもしれない。とはいえ、そんなファンたちとは毛色の違う接近の仕方だったので覚えているのも納得いく。
 ディエゴは自分の斜め前に毛布を投げて広げた、座って良い、と言っているらしい。

「座っていいの?」
「もちろん。先を急いでいるっていうのなら別だが。」
「急いでない!」

 セオはあわててラームから降りて、毛布の上にストンと座った。冷たい夜風に顔を晒して走っていたので、焚火に当って一気に暖かくなる。しもやけの様な、顔にピリピリする感覚がある。

「顔、赤いぜ。」
「寒かったから……日付が変わるまで走る予定だった。」
「日が暮れてから走るのは危ないぞ。」
「わたしもこの子も暑いのが苦手だからね。夜のうちに進んでおかないとって。」

 ディエゴはふうんとだけ返事をした。セオはそれに言葉を続けるでもなく、ただ、セオから炎の方に目線を映した彼の横顔を、じっと見つめた。横顔は炎に照らされてオレンジ色に染まっている。端正な顔立ちだ、世の女性が放っておかないのがよく分かる。セオもそんな彼には惹かれるが、容姿がいいからだけではない。

 自分にはこの人しかいないのだ、と、心が声をあげている。この気持ちをなんと表せばいいのだろう。運命なんて簡単な言葉で片付けていいのか、それじゃあ安っぽくてしかたない。
 ディエゴ・ブランドー、彼は昔、セオ・フロレアールが世界で唯一心から愛した男だった。……昔、といったら少し語弊がある。正しくは前世だ、前世の話だ。ディエゴの前世――ディオ・ブランドーという男だったが――セオはずっと彼を探していた。セオは今の自分に生まれ変わる前の記憶がある。父親や、友達や、大学の記憶もある。ただそんな沢山ある記憶の中でも一番輝いて思い出されるのは、ディオ・ブランドーとの短くも楽しい日々。
 また会いたい、会って話がしたい。そんな願いが毎日毎日積もる中見つけたのが、ディエゴ・ブランドーだった。ディオとは容姿も名前も少し違えど、彼がセオの探している人で間違いないのは確かだった。セオ自身だって姿も少し変わっているのだし。

「どうしたんだ、そんなにオレの顔を見て。」
「見惚れていました。」
「ははっ、素直だな。」

 笑う顔がディオに似ている。ああ、嬉しいなあ、セオは幸せでたまらない。

「ずっと貴方を探していたから。」
「前にも言っていたな、何故なんだ?」
「理由なんていいじゃない、ただ会いたかっただけだから。」
「意外と熱血だな。悪くないぜ。」
「良かった。」

 夢のようだなあ、なんて思う。こうやって近くに居られる日をずっと待っていた。ディオ・ブランドーが殺されてから、セオが今のセオとして生まれ変わってから、ここまで、とても、長かった。
 感極まって涙が出て来た。目の前の炎が涙で滲んでぼやけてくる。

「……おいおい泣くなよ。泣くほど嬉しいのか……。」
「嬉しい。」
「オレに会ってここまで感動する奴も珍しい。」
「特殊なんです……。」
「だろうな。」

 ディエゴは慌ててセオに麻布のハンカチを差し出す。なかなか会わないタイプで困惑しているらしい、いつも堂々としている彼からは想像できないようなふためきようだ。汚れてて悪いが、といわれて手に持たされたハンカチを見つめ、セオはまたブワッと涙をこぼす。ディエゴに優しくされるのがここまで感極まるものだとは思わなかった。

「ありがとう……本当に……嬉しい……ディオくん……。」
「まったく……。」

 取って食うなんてしないから今晩は近くに泊まっていけ、というディエゴの誘いに、セオは大きくうんと頷く。頭に冷静さが戻ってくると、とんでもなく恥ずかしいことをしたんじゃないかという反省が湧き上がってきた。今更遅いとも思ったが、セオはハンカチで顔を隠しながら、ディエゴから逃げるようにラームに近寄った。






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